side A

僕たち、ずーっと仲良し。

あきくんは、弱虫の僕とは全然違うの。強くて、夢があって、僕のこと、弱虫だって笑ったりしない。僕の大好きな、一番の友達。学校の友達もいらない。大好きなアップルパイもいらない。あきくんが僕の隣にいてくれれば、僕は寂しくなんかないんだよ。


お父さんは、下の階でまたお母さんを怒ってる。耳が痛くなっちゃうような声で、言葉でもない声を出している。ガタンガタンって、何かを倒して、また投げて、壊してる。あぁ、お母さんの泣き声が聞こえてきた。ほんとは助けに行きたいけど、お母さんは、「夜、下に降りてきたら絶対だめよ」って言うから。行けない。それに僕は、大きな怖いお父さんに立ち向かう、勇気がないんだ。


そんな時に、泣きながら眠るの。一人で、ベッドの灯りを消して、一人で、おやすみっていうの。



そしたら。



あきくんがいるの。





「よお、はる。今日も寂しそうな顔してんな」

あきくんはいつも、僕を待っていてくれる。まっしろでは 、ぼんやりとしたお部屋の中で、あぐらをかきながら僕を隣に座らせてくれる。

「あきくん!……うん。今日もお父さんが、下で怒ってて、怖かった」

「気にすんじゃねえよ。お前、男だろ!いつかお前は、お前のお母さんよりでっかくなって、母さん守らなくちゃいけないんだぞ。それに、もし、どーーーっしようもなく怖かったら、俺が付いてるじゃねえか!!」

あきくんは、大きな口を開けて笑ってくれた。



あきくん。僕は君になりたいよ。君が僕のヒーローだよ。



「……うん!ぼく、あきくんより強くなる!あきくんより強くなれば、きっと世界中の誰よりも強くなった筈だから!」

「はあ?!出来るもんならやってみろ!いつでも迎えうってやる」

「ふふふ、うん!


……ねえ、あきくん。ぼく、これからどうしたらいいんだろう。ぼく、あきくん以外友達もいないし、お父さんは怖いし、お母さんはいつも悲しそうなんだ」


「はるは、何がしたいんだ。何になりたいんだ?」



「わかんない。

でもぼく、もっと誰かに褒めてもらいたい。テストで100点とっても、かけっこで2番になっても、誰にも自慢できないから。あと、誰かに好きだよって。大好きだよって言ってもらいたい」


「ふうん…………。お前みたいな弱気な野郎、なかなか簡単なことじゃないだろうな!」

「ひ、ひどい……」

「だけど、きっっっっと必ず、叶えられるぜ!!!」

「……!!!


うん!!僕、頑張るよ、あきくん!!!」










僕とあきくんがバイバイしなくちゃいけない時間はいつも決まってて、じりりりりって、ベルの音がなった頃。

今日も鳴っちゃった。鳴らなくて良いのに。


「ぼく、もう行くね。また、明日も来ても良い?」

「おー。気長に待ってるぜ」



ぼくとあきくんは、夜だけの友達。夢の中だけの友達。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る