第5話 祝!合格!
君は選ばれた者だ等の怪しい言葉は一切なく、選考基準が一切不明であった。不思議な力があるのならばそれを使っているが、そんなのは生きてきて一度も自覚したことがない。普通の貧乏な女子高生である。
「はぁ、どうしよう」
祖母に相談したいところだが、絶対にダメだと言われるのが目に見えている。それは相談とは言えない。しかし、いつまで考えていても答えは出なかった。そして、情報が少ない事に気づく。
(なら、行って面接官の人柄を取り敢えず見よう)
情報が少ないのなら、集めればいい。その精神で、応募を決めた。そして、メールアドレスや、ネット応募をしていないのか、電話番号だけが載っていた。そして、それに電話を掛ける。
数コールなった後に、電話がつながった。
「本日はご応募、ありがとうございます。バイト人事担当の氷室と、申します」
男の声が聞こえた。そして、いきなり自己紹介から入られた事と、意外にも懇切丁寧であった事に驚き返す。
「あの、メールが届きまして、それによるとバイトを募集していると書かれているんですけど、間違えとかじゃないですよね?それに、応募の仕方はこれ合ってますか?」
「はい、存じております。桜空神無様ですよね?電話を掛けると応募したと言う事になりますので、後は面接日の日程を決めて頂くだけになります」
個人情報が知られているのはこの際無視をした。
「面接日ですか、午後なら基本、平日でも合わせられますよ」
「そうですか、ありがとうございます。では、今日の七時半からで宜しいですか?」
「え?」
時計を見ると時刻は六時半。氷室と言う男の言ったことが正しければ後、一時間後となる。
「ご都合が悪かったですか・・・?」
面接までたどり着くまで大変である神無にとって、これは絶対に逃してはならない千載一遇のチャンスであった。そして、咄嗟に言う。
「いえ、大丈夫です。場所を教えてください」
「はい、ありがとうございます。場所は武蔵小杉駅に行って貰えれば、私が迎えに行きます」
電話が切れると、急いで制服を着直して鏡の前でチェックする。髪は乱れていないか、皺は寄ってないか。それらすべてを見て、防衛大学校の外出許可も貰えるレベルで整えると、急いで家を出た。
「行ってきます」
秋無は部活で帰ってくるのはまだ掛かる為、家にいる祖母が、突然の事に驚きながら、見送った。
武蔵野小杉駅。家より学校の方が近く、最寄り駅である。そして、その駅を出ると左手側にショッピングモールがあり、反対方向にバスターミナルが広がる。その他にも施設はあるが、都市と言う構造上、画一化されていて、特筆すべき点はない、神奈川にある東京のような都市である。その為、個人的には横浜等の赤レンガ倉庫や中華街が好きな神無は、あまりここに来たことが無かった。
そして、約束の時刻までまだかなり時間がある。そして、決められた居場所で右往左往していると、後ろから声が掛かった。
「こんにちは。バイト人事担当の氷室です」
声を掛けた氷室の見た目は、好青年といった印象を強く受け、少し色が抜けている黒色の髪を、清潔感を感じらせるように切りそろえられていた。もっと、屈強な男が来ると思っていたが、案外拍子抜けであった。
「初めまして、桜空神無です。今日はよろしくお願いします」
「お願いします、では、付いてきてもらえますか?」
「分かりました」
素直に後ろを付ける。そして、高級そうなタワーマンションを潜り抜けて行き、数分が経つと、小さなビルの前に着いた。
「ここですか?」
「まぁ、ここですが、正確には違いますね。まぁ、中に入れば分かります」
氷室が先導して、中に案内をする。そして、エレベーターに乗り、上の階へ行くと思っていた神無の思いとは裏腹に最上階のボタンを数回連打した。すると、急に降下が始まった。そして、数秒経つと、エレベーターは止まる。
エレベーターから出ると、そこは近代化された部屋であった。壁は全て液晶に成っていて、個人用オフィスにはディスプレイが所狭しと、置かれている。部屋も全体的に白く、床が黒色の大理石でなければ上下感覚が分らないくらいである。
思っていた秘密結社と多少のずれはあるが、近代化されている為、誤差の範囲内で有った。それに見とれていると、その顔を氷室は覗き込んでいた。
「あっ、すいません」
謝罪とともに、移動が始まる。そして、部屋の最奥にある部屋へ案内された。そこの内部は、よく分からないが凄そうな大きい機械が置かれていた。そして、それを背に、面接が始まった。
「座って良いですよ」
「ありがとうございます」
椅子に座り、向かい合う。そして、氷室の目を見ると面接と言う事を実感し、緊張してき始めた。
「では始めます」
「お願いします」
面接とは、その人の人柄、スキル、等を聞くものである。そして、そこには必勝と言ったものは介在しない。なぜならば、受ける物によって相手が欲しい人柄が変わるからだ。
簡単な例で出せば、土木工事のアルバイトで、東大生と、元極道系組員が来たとする。官僚の試験ならば、東大の勝ちだが、今回は土木工事である。その場合、体力の高い方である後者が選ばれるだろう。
極端な例ではあるが、相手の欲するスキル、人柄は職種によって異なるので、面接に必勝は無いのだ。そして、それを知っている神無は秘密結社が欲しがるような事を考えてみるが、口が堅い以外、思いつかなかった。しかし、意外にも面接は普通で、当たり障りのないもであった。
「これで面接を終了します。結果で言えば合格です。それを了承するならば、こちらにサインをご記入ください。ちなみに、親族等への他言は一切認められません。それに、安全面は出来る限り保障致しますが、そちらの方は、万が一があります。それも踏まえてお書きください」
呆気なく合格したことへの驚きもあっあが、それよりも気になる点があった。
「安全面を侵害されるって何があるんですか?」
「それは了承してからではないとお話しできません。ご了承ください」
「分かりました。ここで働かせて下さい」
そう言うと、勢いよくその場でその紙にサインした。そして、氷室はニコリとほほ笑んだ。
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