第4話 メール受信
「・・・・・・ッ!」
「どうしたの?核心に迫ったみたいな顔をして」
無言でゆっくりと画面を向けると全てを察した。
「面接が無期限延長って不倫でもしたのかな?」
「それなら記者会見位開きなさいよ!」
「まぁ、でも、まだ後一店舗あるでしょ!可能性が閉ざされラ訳では・・・」
あずさが言いかけている途中で二通目のメールが届いた。そして、あずさは目を背けた。
「しゅ、就職氷河期なんじゃない?」
「バイトにも地球温暖化が来れば良いのに」
ふぅと息を吐いてスマホをしまい、やっと隣の自分の席に腰を掛けて徐行準備をすると再び不合格を噛み締める。
窓の向こうを見つめる神無をよそに、一人の男子が神山に近づくと、一つの茶封筒を出した。
「神山、先生にこれを渡しといてくれないか?」
「神山って名字は嫌いだから下のあずさって呼んでって言ってるでしょ?後、これの中身は何?」
「肩叩き券だ」
「え・・・?どうしてそれを先生に渡すの・・・?それに、それが通用するのは可愛らしい幼児のみよ?」
普通の事の様に言う為、一瞬自分がおかしいのか疑うが、どう考えても現代社会に生きる高校生の振舞ではないなと思い、聞き返す。
「あぁ、先生から借りたお金は全て未来への投資で消えたからこれで返そうと思って。ただ、俺が渡すと多分殺されるから任せた」
「相も変わらず屑ね。東条君は。一応渡しておくね」
「あっちなみに有効期限は二時間後だからな」
屑という事で定評のある男子はそれを渡し歩いて席へ戻る。そして、神山はどうせオンラインカジノで負けたのだろうと推測し学級委員として思いため息をついた。
「東条結人。屑には定評があり、三歩歩けば被害者の会にぶつかる男。学級委員は大変ね、あずさ」
フォローするように神無が言うと、あずさは無言で微笑んだ。
「大変だったら相談してね」
神無とあずさは小学校の頃からの付き合いであるが、正確には、転校してきたあずさと神無が出会ったのが最初であった。その当時は、まだ事件が発覚していなかったが、事は始まっていたので神無は暗い少女であった。そして、その時に遠くから離婚が原因で来たあずさがやってくる。お互いが、学校に馴染めず、馴染めない同士として仲良くなり、今に至る。そして、互いの悩み事は共有してここまで来ることが出来た。だから、結人の問題行動に疲れているのなら相談して欲しかった。
しかし、予想外にもあずさは首を横に振る。
「ううん、大丈夫。これは私の仕事だから。神無は関係ない、私がやらなければいけない、任された仕事なの。だから大丈夫だよ」
「そっか、学級委員の仕事は大変だろうけど頑張ってね」
「それより神無はバイトだよ」
「うっ、わ、私は良いのよ!大丈夫だから!」
「ホントに・・・?」
「う、うるさいわね!」
軽い雑談により雰囲気が最初より良くなるとチャイムが鳴り響き授業が始まった。
授業を終え、家の中でうつ伏せになりベッドの上で神無は携帯を弄っていた。通信料は使いたくないがバイト求人を探す為である。紙媒体でも良いのだが、それは条件の合うところは粗方応募して不合格を貰っているので、仕方がなく電子媒体で調べていた。そして、ある傾向に気が付く。
ホワイトバイト。所謂、時給が良くて休憩も取れ常にどこかの時間帯に正社員がいる。その他にも交通費支給等の福利も完備なバイトは狙っても受からないという事が分かった。と言うより、受かる以前に、そもそも電話で名前を伝え、後日面接日を伝えると言う段階で電話がかかって来ないか、メールで断りのメッセージを受ける。朝、あずさの目の前で失敗したバイト二店は二つともホワイトバイトである。そして、面接までは一応たどり着くバイトがブラックバイトであるという事も経験上、理解した。
ならば、一筋の希望であるブラックバイトに神無は望みをかけた。即日採用で受かった日から働ける。ホームページがネット上に存在していない、職種と応募人数がどう考えてもおかしい、時給が高い、そして、歩合制。これらのどれかに当て嵌まればブラックバイトの可能性が高いと神無は気付いた。そして、普通なら受けない所だが、神無はそこに絞ってネット上で探す。
「鏡のある部屋で遊ぶだけ。偶にお金を貰えるから希望を叶えてあげる。警察密着二十四時で出てきそうな所ね。流石に却下よ」
スマホの画面上に明らかに怪しい求人広告を見て神無は呟いた。ブラックバイトに受かりたいと言っても限度がある。それを超えることは出来ない。そして、それらを仕分けして画面をスクロールさせた。
『男性と手を繋いで散歩、店名は「お父さん(仮)』
『お金を返済しない債務者に返済させる仕事です。詳しい内容は受かってから教えます。足に自信のある方、土地勘のある方、警察から逃げるのが上手な方を優遇します。店名は「円と債務者の神隠し』
『海外旅行が好きな方必見。コロンビアに立ち寄った後、中国に入り、人と出会えばあとは好きに観光してOK。十万円からどうぞ』
怪しいバイトしか無いことに、重い息を漏らし、ベッドの上で仰向けになる。そして、体を仰向けにする為に上半身をねじると、その時、スマホが落ちた。
「もう・・・」
脱力した声で落ちたスマホをベッドから起き上がり、取ろうとするとスマホにメールの音が鳴った。普段、友人とはSNSを用いて話す為、メールの着信音が鳴るとしたらバイト絡みだが、全て落ちている為、それは無いと思えた。しかし、鳴ったのは事実である。それを認識して裏側になっているスマホを恐る恐る拾い上げた。
「誰から・・・?」
拾い上げたスマホの画面には、『シークレットワーク』とタイトルになっている文字があった。タウンワークのパクリとも言えない杜撰さに少し呆れながら悪戯の類だなと思った。そして、そのメールをフリックすると、意外にも良く出来ていた。
「あれ?業務内容も会社名も何にも書いてない・・・」
確かにバイトのメールにはそっくりであったが、肝心なところが抜け落ちていた。それに疑問符を抱きつつ、下へスクロールして行くと、一つのURLと短い説明文が貼られていた。
「『アットホームな秘密結社です』?これを押せばいいの?」
誰かから返答が来るわけではないが、それ以外にする事はなかった。悪戯や詐欺と言う可能性もあるが、微かに残る可能性を信じてURLを押すと、まったく知らないサーバーのサイトに飛ばされた。詳しく調べると少なくともグーグルではなく、ルートサーバーも、全く知らない所であった。完全に秘匿回線に準ずるものである。
バイト程度でそんな厳しいセキュリティを敷く意味が分からないが、考えていても埒が明かない。そして、白色の画面に映し出された唯一の文字である、「秘密結社SSU募集要項」をフリックした。
「即日採用、当日から働け、ホームページが存在していない、秘密結社なのに七十人近く募集してる、出来
高制の時給は高く、歩合制。完璧。ブラックバイトね」
しかし、だからと言って応募するかどうかは別である。業務内容は合格採用されて働くことを了承してからの為、かなり怪しい。それに、秘密結社と銘打っている時点で中二病患者の集まりの可能性がある。でも、中二病患者にこんな大掛かりなことは出来ないだろう。どう考えても意味が不明であった。
「てか、なんで私が秘密結社・・・?」
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