第3話 過去

中に入ると、目が覚めた祖母が食卓に座っていた。その脇では秋無が朝食を並べている。そして、祖母と対面するように山田は座る。数秒の間があり、祖母に一枚の紙を差し出した。


「これは・・・」

「お父様である桜空神おうぞらじんさんからお世話になっていたお金です。それを渡しに来ました」

「こ、こんな大きな額をですか?」


驚愕に祖母は目を丸くしていると、秋無がそっとその紙をのぞき込むと息を呑んだ。


「ひゃ、百五十万円・・・」

「こら、勝手に覗いちゃダメでしょう」

「ごめんなさいお祖母ちゃん」


神無も秋無が無意識に零したその額に驚くが、それよりも前回、同じ人間が内容は少し違うが、お金を渡しに来た記憶があった。だが、二人は全くそんな様子を見せないので気のせいと自己完結した。


「こんなに受け取れません」

「いえ、受け取ってもらわないと神さんに申し訳がありません。あんなに良くして貰ったのにそれを返せないなんて」

「でも、見た限りお若いですよね?これからもっとお金が必要になるんじゃないですか?」


祖母が心配したように聞くと、顔を横に振る。


「大丈夫です。神さんのおかげで金銭的には余裕が出来たので、なので、返せるうちに返しておこうと思いまして」

「でも・・・」

「確か、娘さんが高校に入学したそうですね?その入学費等に充ててもらえないでしょうか?そうしたら、僕は神さんに恩返しが出来たと思うことが出来るので」


流石に知らない人からの大きなお金は受け取りがたいのか、祖母はあまり受け取ろうとしない。そして、必要になった時様に取っておくという事で決着が付きそうであったが。その肝心な時に、そろそろ家を出なくてはいけない時間になってしまった。


「じゃあ、行ってくるね」

「行ってらっしゃい」

「お姉ちゃんも早くいこ」

「ちょっと待って」


着替えを済まし、朝食を食べ終えていた神無は鞄を自室から持ってきて急いで玄関へと移動をする。そして、登校した。


「おはよ・・・、落ちたの?」


教室のドアを開けて入る真っ先に友人からの正確無比な答えが返ってきて、傷ついている心を更に抉られる。妹の手前、そんな素振りは見せないが、相談に乗ってもらっている親友に対して言われると少し、辛かった。そして、その傷心の心を表すようにその親友の机にバッグを背負ったままにも拘らず突っ伏した。


「はぁ、全ての所は私の境遇を聞くと不合格だよ・・・」

「まぁ、同情はできるけど、お店の立場を考えたら仕方ないよね」


神無の家庭は、複雑であった。二人が小さい頃、両親は不慮の事故により他界。それにより、二人は数カ月の間施設で暮らす事となる。しかし、その施設が劣悪であり、子供を半ば監禁したような扱いと、家畜のような餌で生活。そして、それらの浮いた多額の金銭は施設職員の懐へと入っていた。そして、何度か学校教師が不思議に思い、児相へと連絡するが、七回全て問題なしと報告される。


後に分かる事だが、児相職員は買収されていた。そして、ある日、突然それらの門外不出であった筈の書類が全て警察へ告発され職員らは殆ど逮捕をされた。しかし、一部の職員は海外へと逃亡を図る。それでも、その数日後には十二枚にも及ぶ謝罪文と共に死体が発見される。そして、それで終わればハッピーエンドであった。


子供の被害者は実名報道を繰り返され、知らぬ者はいない状況になった。そして、その劣悪の環境下で育った子供たちの大半が精神病に犯され、一人のもと被害者が無差別殺人を起こし被害者から加害者へと変わる。


そして、障碍者という事で実刑判決が出ず、世間はそれらについて疑問符を抱くようになった。それから一カ月も経たない内に、元被害者たちの問題がどんどんと明るみに出て、世紀のシンデレラ達は世紀のマレフィセントへと立場が変わる。


被害者たちであった子供たちは何もしていなくとも色眼鏡で見られ、今住んでいる祖母の家に住んでいる神無達も例外ではなく、バイトが決まらない理由もこれであった。


「諦めるってっ事は・・・?ないよね?」

「それはないよあずさ。秋無には家事をして貰ってるの。私が働いて秋無の部活費とか色々稼ぐの」


あずさと呼ばれた少女は茶色い髪を垂らして項垂れた。神無とは小学校のころからの付き合いであり、秋無の事も知っている。そして、秋無がそんなことを求めていないのも知っているが、それ以上に、神無がこういった人の為にすることは、絶対に諦めないと知っている為、あずさが諦めた。


「頑張って、学級委員として手伝えることは手伝うよ」

「ありがと、でも、大丈夫。後、二店、今日面接入ってるから!」


胸の前でガッツポーズを決めていると、クラスのどこからか音が流れる。そして、それの発信音が神無であることは簡単に気付いた。


「携帯なってるよ」

「ホントだ、なんだろう」


スマホを起動させ、確認すると神無は目を見開いた。

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