第2話 起床

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!起きて、朝だよ!」

「うっ?うぅ・・・・うっ・・・!」

「何やられた効果音出してるの?朝だから起きて」


二段ベッドの下、そこで神無は妹に目覚めさせられた。時間は七時を少し過ぎた所である。そして、長く、白い髪は寝ぐせでぼさぼさになっていて、青い瞳の眠気眼をかすりながらベッドから降りる。すでに自分で起きられると察した妹はキッチンへと向かっていた。


ベッドから降りた神無は大きく伸びをすると部屋を見渡した。部屋自体は小さく、三人暮らしであるからかなり窮屈に感じられる。内装はお金を掛けられないからか、全体的にピンク色の配色で、お金のかかるアイドルのポスター等、思春期の少女によく見かけられる物はない。そして、伸びを終えると部屋を出て直ぐにリビングに着いた。


「おはよう、秋無。今日部活は無いの?」


秋無と呼ばれた少女は白い髪を短髪にしていて、姉と同じく瞳に色は青色であった。そして、神無の方は凛として美しいと言ったような感じだが、秋無の方は可愛らしいと言った印象を受ける。そして、神無に背を向けながら首を横に振る。


「ないよ、それよりお姉ちゃんは部活には入らないの?一応運動神経は良いじゃん」

「入らないわ、バイトしたいもの」

「えぇ、限りある高校生活だよ。遊びなよ」

「良いのよ、私は」


格好つけて突き放すように言うと、妹は目を薄めて振り返り、姉の目を見た。


「な、なに・・・?」

「だって、お姉ちゃん。バイト全滅じゃん」

「うっ、うるさいわね。たった九店落ちただけじゃない」

「就活レベルで落ちてるんだね・・・」


諦めたような声で秋無はぽつりと呟いた。姉の神無が通っている高校は、一応偏差値は高く、自称進学校と呼んでいる公立高校である。それに、これからの社会は自分で考え、自分で行動し、周りに交渉して、協力して貰い、結果を残すと言う、グローバルで社会的な校風をこの高校は有している。


それは、何年か外資系のサラリーマンをしていた校長の影響で有り、それ故に校則と風紀と法律を破らなければ基本的に何をしても良く、それが学校側にメリットがあるなら表彰までする自由性の高さである。それ為、地元住民以外もこの高校の事を知っている人は少なくない。だからこそ、そこの高校の在籍者ならばバイトの面接に落ちるというのは考え難いのだが、現実問題落ちてしまっている。


秋無的には何で落ちたのか聞いたことがあるが、はぐらかされ、神無の友人である神山という少女にも訪ねたがいい答えは返ってこなかった。

その為、深くは尋ねないが、秋無自身、神無は楽しい高校生活を送ってほしいと考えているのでバイトには反対である。しかし、止めても無駄という事は知っているので深く溜息を吐いた。

そして、朝食を待っているとこんな朝早くからインターファンが鳴る。


「誰だろ?お姉ちゃん出てくれない?」

「分かった」


食卓から立ち、玄関へと向かう。桜空家の経済事情は良いとは言えないが、大きな借金がある訳でもないので怪しい人では無い筈だが、こんな早朝である。若干の警戒心を持ちつつ鍵を開けて扉を開いた。すると、そこには何度も染め直して深い色になっている黒のダークスーツを葬式でもないのに着ている中性的で、美少年とも美少女とも両方取れる、短髪で髪の白い男が立っていた。


「こんにちは。僕は君の亡くなった父にお世話になった」

「佐藤健司さんでしたっけ?」

「いや、違います。山田秀夫ですよ。恐らく初対面かと思いますが・・・」

「う~ん、そうですか。失礼しました」


確かに前回来た男性も、同じように、高級そうなダークスーツを纏い、中性的で独特の見た目をしていた、だから、忘れているとは思えないが、相手が言うなら気のせいなのだろうと思い、要件を聞こうとした。しかし、その前に山田と自分を呼ぶ男が何かはにかんだ顔で、口を開く。


「あの、胸元が・・・」


今は寝起きであり、パジャマを着ている。そして、寝ているときに外れたのかボタンが取れて、胸元が露出していた。それに気付くと神無はその場で振り向きボタンを付け直した。


「み、見ました?」

「気にしなくていいですよ」


気にしなくてもいい。これは裏を返せば見たという意味になる。それを意識して顔を赤らめ、あまり山田の顔を見ずに中へ案内した。


「狭いですが中へどうぞ」

「ありがとうございます」


玄関に入り、山田が靴を脱いだことを確認すると、神無は少し足早にリビングへと戻っていった。そして、ふぅと小さく息を漏らす。


「全く、世話が掛かるね」

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