第4話 異世界での初陣

 ここ麻名鳳まなおおとり学園の寮には門限がある。こっちの学生はガチガチに管理されるんだなと隼太に言ったところ「他の学校、僕は知らないけどこんなものじゃない?」と言われてしまった。実際に行ったわけじゃないけど魔法学園も騎士官学院も規律はうるさいが冒険者ギルドの依頼なんかはむしろ推奨してるほどだ (どちらも現場の経験を積むことを良しとしている) 。まあ、女性の外泊は本人にとっても良くない噂の元だから進んでする人はいないそうだが。

 ともかく俺はシャツの下に鎖帷子を着こんで『見た目は普通』を装った武装をして寮からこっそり出た。


 雑木林の枝の間をヒュンヒュンと跳びながら走り抜けていくと裏山の山頂らしき地点に到着した。俺はポケットに突っ込んであった懐中時計を見ると夜の10時だった。ちなみにこの懐中時計は島に来て初日の露店商で買ったお気に入りだ。…っとと、俺は木の上から辺り一帯を見回す。これは明け方まで待つパターンか?そう思った矢先だった。

 犬か狼の遠吠えのような声が聞こえた。野犬だろうか?凶暴化した野犬は人を襲う。ハズレかもしれないものを待つより当面の安全確保か?ともかく俺は声の発生源に向かった。


ドォン!ドォン!


 強烈な打撃音が響く。これじゃまるで鬼型魔獣オーガと重装兵の打ち合いだ。こっちの世界でも有ることなのか?…いや、魔獣がいない世界では『非日常』だろう。どちらにしろ『異世界の異物』がらみと思って良さそうだ。念のため持ってきた布で顔を隠し目標地点を観測する。


 そこにはDランク魔獣 ダガーウルフと狼獣人ウルフリング?らしき男が戦っていた。

 ちょっと待て!何でこっちに魔獣がいやがるんだよ!…あとで考えるか。そのダガーウルフは全部で5…いや、奥に2匹いるな。それに対し狼獣人ウルフリング?の男は身体能力に任せた力押しだ。明らかに戦い慣れていない。不味いな、アイツ死ぬぞ。このまま見捨てるのも夢見が悪いから俺は木の枝を飛び移って上から声をかけた。


「おい!厳しいなら手を貸すぞ!」


!!


「くっ…見られた!俺が気づかなかっただと…」


 男は何やらショックを受けているが傷だらけの満身創痍にしか見えない。あれだけダメージを受けてなお立っていられるのはさすが獣人といったところか。

 俺は『飛来する氷塊アイスブリット』を男とダガーウルフの間に飛び降りながら数発ち、困惑しているところに魔法袋に隠し持っていた剣を抜き放ち一撃で首を跳ねる。続けざまに左右にいる2匹の首を斬り飛ばしながら奥にいるボスであろう2匹に『飛来する氷塊アイスブリット』を撃つ。突然の俺の乱入に残りの2匹が狂ったように俺に飛びかかってきた。


「だから甘えぇって!」


 回避ざまに2匹を斬り、そのまま走り抜け奥のボスに飛びかかった。


(『身体速度強化アクセルブースト!』)


 人ならざる速度に2匹のダガーウルフは驚愕の顔を浮かべたように固まった。



 ヒュン!と音をたてて剣の血を飛ばし布で拭き取りながら鞘にしまうと男を見た。男は呆然と立ちすくんでいる。


「お互い、敵じゃねぇと願いたいんだがな」


 俺がわざと魔術を撃ったり剣で斬り飛ばしたりしたのは威嚇と牽制だ。相手は確かに身体能力で俺より優れている。だがこちらも相応の能力があることを誇示して対等な立場にもっていくつもりで見せつけたのだが効果はてきめんだったらしい。


「頼む!俺に戦い方を教えてくれ!」


 土下座された。てきめん過ぎたようだ。




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