第3話 日常になれるまでが大変だった件

 (爺さんはスパルタなんかじゃなかった)


 俺は今、数学とやらの授業を終えてグッタリしていた。頭の中で数字がグルグルしてる。まだ『魔術理論』の勉強してる方がマシだ。


「ツヴィン大丈夫?」


 苦笑いで近づいてくるのは同級生の成海 隼太なるみ はやた、ここ2、3日で随分仲良くなった。


「なかなか過酷だったぜ。うっかり寝ちまったら次回は暗号文のオンパレードになりそうだしな」


「ツヴィンは面白い言い方するよね。…っと次は体育だから移動しないと」


「ああ、あの『玉蹴り』か?なかなか奥が深いよなアレ」


「…サッカーね。確かに奥は深いのかなぁ」



 こんな感じで異物探しどころか生活に馴染むのに四苦八苦してて正直辛いです。ここが向こうなら討伐クエストを受注して適当に暴れるんだがなぁ。

 そんなことを考えながら飯を食ってると隣の女子が気になる話をしていた。


「…ねえ、それってあの『七不思議』のやつ?」

「わかんないけど…」


 七不思議?確か…ゴースト関連の噂のはずだったよな。だいたいは眉唾モノだが意外に『当り』があるかもしれない。そう思った俺は彼女たちに近づいた。


「ちょっと悪りぃんだが…その七不思議って何だ?」


「え?ツヴィン君、こういうの好きなの?」


「…まあな」


 こうして噂レベルの情報だが入手できた…わけだが七不思議なのに8個あるのは何でだよ!



 放課後、俺は教わった七不思議のメモを元に捜査することにした。先ずは『誰も居ないのに鳴り出すピアノ』だったか…。

 目的の音楽室には大きなピアノがポツンとあった。ピアノに触るが…魔力の残滓は感じないな。ピアノの中を見ても怪しいものは何も無かった。


『…』


 二つ目は『夜になると鬼火がさまよう裏山』。こいつは厄介だな。後にまわすか。

 三つ目は『徘徊する解剖人形』。

俺が科学準備室に入ると見覚えのある『ふさふさした毛』が扉の窓からチラチラ見えてる。


「…」

『…』


 やれやれ、これで隠れてるつもりなのかね。俺は半分、イタズラ心も疼いて勢いよく扉を開けた。


「よっ!…こんなところで奇遇だな。散歩か?」


 ビクッ!と体を震わせると『毛の正体』は気まずそうに視線をそらしながら「そそそ、そうね!天気も良いしお散歩日和よね!」と喚きだした。言わずと知れた隼太の姉、成海 奈々花なるみ ななかだ。これでも一応年上である。


「思いっきりどんよりとした雲に覆われて雨降りそうだけどな」


「うげぇ!…えっと、す、涼しそうじゃない?」


「まあ…そうかもな」


 一件すると暇潰しにもならない事についてくるなんて…とも思ったが後ろでチョロチョロされる位ならいっそ目に見えるところに居てもらった方がいいかもな。魔力の感知は端から見てる分には分からないだろうし。


「なあ、奈々花が暇なら案内してくれないか?」


 俺がそう提案すると目をキラキラさせて子犬のようにまとわりついてきた。


「いいよ!奈々花さんに任せなさ~い!何よナニよ、もうツヴィやんってばアタシについてきて欲しいなら最初から言えばイイのに照れ屋さんだなぁもう」


 さっそくウザくなってきた…今日はアレだな。子供の面倒をみる日だと思って割り切るか。



 結論、7個全部がガセか間違いだった。最悪なのは初めの『誰も居ないのに鳴り出すピアノ』だ。


『あれね~。私も気になって何度か行ったんだけど何にも起きないんだよね~。だから暇だからピアノ弾いて待ってたんだけど、な~んにも無いのよ』



■ツヴィン脳内シミュレーション■



奈々花がピアノを弾く

    ⬇

奈々花は小さい

    ⬇

廊下から見ると誰も居ないのに音が出てる

    ⬇

七不思議ランクイン



 その他にも

『校門の薪を担いだ像が歩いてる』

が薪を担いでいた奈々花が間違えられていた (盛大に焼き芋パーティーをやったらしい) とか『体育館に誰も居ないのにボールの跳ねる音』は調査に来た奈々花が暇になって遊んでただけだったり……ナンダコレ。犯人は目の前にいたのだ。どうしてくれようか。


「今度はツヴィやんも焼き芋パーティーやろうね」



 無邪気に微笑みかける奈々花に対して黙って頭を撫でて自分の中のムカつきに誤魔化すように蓋をした。


「うにゅ!ツヴィやんツヴィやん!なんか撫でる力強くない?!」


「…そうか?」


 裏山の鬼火に対してそれとなく聞いてみると…。

「えー!あんなところで花火なんてやらないよぉ!山火事になったら大変じゃん!」

だそうで、そうすると何かの動物の目なのか見間違いか…。まあ、今夜辺り見に行くか。





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