第6話 誕生
「どうしてですか!どうして私が、ここで死ななければ、いけないのですが!?」
リスクは、城下町の中心、聖なる神の広場にある噴水の前で、わざわざこの日のために、リスクのために設置した天高くまっすぐ、つきだした十字架を、手錠をされたまま、下から眺めることになった。時刻は午前十一時三十分を回ったところ。リスクの周りには、数人のリスク死刑執行役の下級市民の姿があった。
「止めろ!俺は何にも悪いことなんかしていなんだ。離せよ!」
黙々と手錠をつけたリスクの身体を持ち上げる死刑執行人たち。彼らは二人がかりでリスクの身体を持ち上げると、そのまま木製の十字架の上に平行にたたせて、リスクの両足を九十度の角度になっている死の十字架の上に乗せて、ゆっくり鎖を十字架の足とリスクの足に絡ませ始めた。
「止めろ!止めろ!止めろ!」
死の準備を進める兵士たちに、リスクの命の懇願を聞く意志や余裕などはない。彼らは生きた屍だった。絶対的な国王のために、指示された命令を、粛々と進める。ただ、それだけの人間だった。
「アリサ!国王!俺の話を聞いてくれ!俺は何の罪も犯していない!どうして裁判もろくに受けず、いきなり死刑にならなければいけないのだ!?」
自分の両手が左右の十字架の上に乗り始めてから、リスクは、動転していた心が少し不思議と冷静になって、自分という器がここにいる前、今日という日を、改めて思い出し始めていた。
『・・・今日は・・確か・・・アリサの付き添いの病院に夜遅くに帰って容態が安定していたから、そのまま帰ってきて・・・あっ』
あるミスを犯していたことに気がつき始めたリスクは、顔面がみるみる青の濃いグラデーションに変わり始める。青と言うよりも紺に近い。死罪というには、重すぎるが、裏切り行為には違いはなく、まったく今日、やっていないわけではなかった。男の消えない欲望は、そう簡単に気づかれるはずがないと思っていた自分の迂闊さは、死をもって償わなければいけないほどのものなのか?リスクは、何度も、自分の生を訴えつづけた
「国王さま!私は、無実だ!話を聞いて欲しい!」
「話を聞いてやる!!」
リスクは、その一声に、宙に浮いていた魂がハッと現世の肉体に戻る感覚を味わった。そして自分が磔(はりつけ)となっている十字架の周りに、半円の形を描いていた大きな人群の中を、かき分けて、一人の男がリスクの前にたった。
「・・・・・・・・・」
それは、間違いなく、ラダム国王の、そのものであった。偽物でも影武者でもない。威厳と圧力と高貴さをすべて兼ね備えた絶対的な権力者、この地上の王として君臨し、今日、リスクの命をこの世から抹消させることに同意した、魔王であった。
「国王様!何かの間違いです!私は何もしていません。話を聞いてください」
「・・・・・・・・・・・・」
「国王さま・・・私は・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
黙ってリスクの話を聞いて、くれている国王に向かって、リスクは早口でさらにたたみかけるようにしゃべり始める。自分が嘘をついてたり、あせっているとき、人間は相手が聞いてもいないのに、相手の反応など関係なく話しかける癖があった。
「・・・だから・・私は・・・無実です」
「・・・・・・・・・・」
一通り自分の身の潔白を話し終えたリスクは、黙って目をつぶっていたラダム国王の無の顔に目の照準を合わせた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「アリサが・・・・・・」
「!?」
じっとリスクに見られていたラダム国王が、目を見開いて、最初に発した言葉は、リスクの死刑執行ではなく、娘の話からであった。
「アリサが・・・今日・・・流産した・・・」
「!?」
本当の夫のリスクにも知らされていなかった驚愕の事実が、今、義父の口からこぼれ落ちた。その言葉はリスクの頭の脳細胞を貫き、十字架の後ろ噴水にぶつかって拡散した。
「それは・・・どういう・・・?」
「おまえのせいだ」
「!?」
言葉にならない言葉が、リスクの頭の中だけで弾けると、それを演奏の合図として、一斉にリスクの筋肉に、恐怖と絶望の震えの曲を奏で始める。一番、恐れていた言葉が国王の口から飛び出すと、リスクの落胆が、地球の重力にひっぱられてリスクの頭をゆっくりと下へ下げていった。顔は歪み、体中の生気が身体から抜け落ち十字架の下の地面に染み出していくようだった。
「えっ・・・いや・・・私は・・何も・・・」
頭の中で描いていたシナリオと違う事態に、持っていた言い訳という武器は、一瞬に粉々に砕け散り、リスクは、子供ように振るえていた。
「おまえだ!」
「いや・・だから・・」
「おまえが欲望に負け、目がくらみ、次期国王として王になるべき私の孫を、殺したのだ!」
「!!」
驚愕の事実がもう一つ、リスクの心臓を震撼させ、心臓の一部をえぐった。順番で言えばアリサの実の兄であるエリード王子が、次期国王の座につくはずではなかったか。だが、彼は持病をもっており、国政に耐えられるメンタルと肉体をもってはいないという噂を、リスクは聞いたことがあった。それにある事件がきっかけで国王とは不仲になったらしい。アリサよりも国王からの愛情がないのは、期待の裏返しか、それとも違うのか。それよりも、王族である自分に王位を譲る気などサラサラないことを改めて知ったリスクの中に、何かが、芽生え始めた。
「・・・・私は・・・何もしていません!」
ようやく、単語ではなく言葉をつなぎ合わせた文章を口に出せたリスクは、悪魔の形相に変わりつつある国王に自分の無実の意志をぶつけなければ、いけなかった。
「まだいうか!こっちはお前がやったという根拠がある!」
「!?」
根拠だと?なぜ実の父親になる俺が、生まれてくる赤ん坊を、自分の手で殺す意味があるのだ?心の中で、王に対しての目に見えない悪口を十回以上、ぶつけるリスクは、子供に戻っていた。
「・・・それは・・・?」
心の中で国王への悪口を言い終えたあと、自分の口で、王に普通の言葉を投げかけるリスクは、まだ、まともだった。
「お前が、アリサと結婚後も、他の女と会っていることを、こっちが知らないとでも思ったのか!!」
「!!」
ズドンと、思い重石が、身体の真ん中に突き刺さると、リスクは、一瞬、空気の吸い方を忘れ、息苦しさが、喉を突き刺していった。
「ガハッ」
国王は、すべてお見通しであった。見通していたまま、俺を泳がしていたのだ。それがわかって、リスクは自分の一生に一度、最初で最後の失敗を悔やんだ。
「お前とその下級市民の女と共に、王位継承権をもつ我が息子を殺す算段をしていたんだろう!」
「誤、誤解です!そんなことをしても、私が王になれるとでも本気で思っていますか!?」
リスクは、一生懸命、弁明の言葉を口にした。それとは別に違う思いが急速にわき上がってくるのを、無意識に頭の隅で思っていた。
「それじゃあ、これを見てもか!?」
国王は無言で、臣下たちに顎で合図を送ると、大臣たちは、自分たちの影から、ある人間を引っ張ってきた。
「!?フィルーナ!」
拷問を受けたせいなのか、いたるところに痣だらけの身体を引きずった元・秘書のフィルーナが、男たちに細い腕を握られながら、リスクの前に、不本意に登場した。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
不本意な再会で、リスクとフィルーナの間に、挨拶など生まれるはずもなかった。お互いに自由を奪われながら、かろうじて、相手がまだ生きているということは、認識できるレベルであった。
「・・・・女・・・お前は・・・この男を愛してるのだな・・・?」
ラダム国王は、この土壇場で最高の意地悪な質問を、フィルーナの苦悶の顔に、ぶつけた。
「・・・・・・・・」
元秘書は、国王の言葉に否定も肯定もせず、ただ、静かに音もなく沈黙が過ぎ去るのを待っていた。だが、国王は、そんな沈黙の回答を待ってはいなかった。
「・・・・・・どうした・・・?さっきまでの言葉はどこへ言ったのだ・・・・?」
国王は、目をつぶって黙るフィルーナの顎を掴んでそう言った。
「・・・お前は・・・この男が・・・娘と結婚したあとも・・・・関係を続けていたんだろう・・?この男を愛していたのだろう!?」
「・・・・・・・・・」
フィルーナはまだ何もいわなかった。何も言わないのが、彼女の答えだった。
「・・・・・・・・・」
「・・チッ・・まあいい・・・アリサの食べものに・・・毒を入れたと・・・この女はさっき証言したからな・・」
「!?」
「・・・・・・・・・・」
「フィルーナ・・・嘘だろ・・?」
リスクは、身体中からわき上がる魂の叫びで、フィルーナに呼びかけた。
「・・・・・リスク・・・様・・・」
「アリサは少し食べたが、すぐに吐き出したから良かったが・・結局・・・あんなことに・・・」
ラダムは、顔を押さえて泣いているように見えた。
「・・・・・フィルーナ・・・本当か・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
フィルーナは、再び押し黙った。
「・・・・おい・・・どうした・・・?さっきまでの拷問のときは、あんなにしゃべっていたくせに!!」
フィルーナの腕を掴んでいた死刑執行人の男が、フィルーナの頬を手のひらで殴った。
「クッ!」
左頬を赤くしたフィルーナが、豹のように殴った男を睨みつける。
「なんだよ・・・お前が悪いんじゃねーか。下級市民のまま、貴族様たちに逆らわず、ささやかに一生を暮らしていれば・・・こんなことになることもなかったのに・・・王族になれる夢でも見ていたのか!ええ!?」
何度も、フィルーナの頬をひっぱたいた男は、明らかにムキになっていた。
「あんただって、下級市民のクセに、こんなことをして一生を過ごすつもり!?」
「!?」
リスクたちの死刑執行をしていた人間たちは、右腕にあるタトゥー(入れ墨)が掘られていた。リスクはもうすでにそのタトゥーは消していたが、それは下級市民を示す特有のマークになっていた。一部の施設の立ち入り禁止、職業差別、仕事は自由に選べず、主に汚れ役の仕事を専門に行っていた。それが、人々からさらに忌み嫌われる原因でもあった。奴隷並の扱いしか受けず、お金も大して借りられずに、人々は彼らを差別することで、日頃の不満やストレスを解消していた。
「・・・・この野郎!!」
男は、フィルーナの言葉に反論することができずに、暴行で答えた。
「止めろ!」
「うるせぇ!お前もこの女も、あの世で幸せに暮らせ!この世界でお前たちは、やっぱり下級だったんだよ!下級市民のクセに、王族になろうとした夢ばかり見やがって」
「・・・・・・・・・・・」
「そうそう」
国王が、何かをさらに付け足そうとした。
「リスク・・お前の母親な、今朝、捕まえた」
「えっ・・・」
リスクは、国王が何をこれから言おうとしているのか、嫌な予感がした。
「・・・母親はな・・息子は無実だから許して欲しいと、何度も言ってきてな・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「もし、息子が本当に罪を犯していたなら・・・私が変わりに死ぬから・・・」
「!?」
「息子の罪を見逃して欲しいと・・・言っていたよ・・」
「!!」
身体中の毛が、逆立った。頭の中でブチブチブチと血管が、ねじ切れる音を、リスクはリスクの頭の中で、聞いた。リスクはリスク自身で自分の怒りが、もはや自分自身で制御できない段階に到達しているのを、まだ自分で知らなかった。
「・・素晴らしい母親・・・『だった』・・・な・・・」
それが、とどめだった。この世界とリスクをつないでいた一本の糸は、いとも簡単に、切れていた。自分が王族として、健全に出世する夢も、下級市民として苦労していた母を、楽をさせてあげたいという夢も、そんな少年だった頃の夢は、すべては無に還った。
「・・・・・・一緒に暮らせるぞ・・・何の差別もない・・出世も、夢を見ることも・・・食べることも・・・寝ることもない・・永遠の夢の中で・・・母親と二人で・・・」
ラダムは張り付けとなったリスクに、腰にさしていた式典用の王剣を向けた。どうやら国王は、自分自身でリスクの息の根を止めたいと考えているらしい。
「やはり間違いだった。この汚れのない王族の家系に、下賎のもの血を入れるべきではなかった。だからこんなことに・・・」
目をつぶりながら、そう呟くラダムは、リスクのために鎮魂歌を歌うことはなかった。彼を本当の父親のように思い、慕い、恐れながらも敬ってきたリスクを気遣うことはなく、ただ自分自身の哀れさを憂いでいる国王を見て、リスクは今までの自分の想いを振り返っていた。
『・・・何のために・・・今まで・・・何のために・・・俺は・・こんな自分の体裁しか考えていない男を・・自分たちのことしか考えていない男を・・・本当の父だと思っていたのか・・・』
リスクの右手に力が入る。紐で堅く縛られた右手首が、痛みで悲鳴を上げる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
国王の王剣の剣先が、太陽の光を浴びて、白い光をリスクの網膜に与えた。じっと、これから自分を殺す剣を見るリスク。冷静と憎悪の間で、彼の心は、ある方角に舵を切った。
『俺は・・なんでこんなクソどもの言うことを聞いていたのだ?・・なんで・・いちいち聞かなければ・・・いけなかったのか・・・』
リスクはここにきて、頭の奥底の深海に沈め、鍵を締めて封印していた『邪悪な野心』という箱の存在に気がついた。
『俺は、なぜ、死ななくてはいけない?神と同じレベルのチカラを、あの神から与えられて、国と国王のために、死ぬ思いで魔王と戦ってきたのに・・・俺の最期は・・・なんで(ここ)なんだ・・・?』
『否!』
現実を否定した言葉を心で叫び、そして現実を直視したリスク。目の前には邪悪な存在である保身と権力に妄執した哀れな男がひとり、剣を握って自分を殺そうと画策している。その事実が、その不条理が、リスクは許せなかった。
『俺は・・・俺は・・・俺はこのチカラを・・・自分のため・・・俺を殺そうとする・・この不条理な世界を・・変えるために使うぞ!!』
目が黄金に光り輝き、右手にすべてのチカラを集め始めたリスクの異変に、一番先に気がついたのは、死刑執行人の一人であった。
「国王様!こいつ、何か変です!」
「!?」
国王が見たものは、必死に目を輝かせながら、死からの自由を得ようともがいている元勇者の最期の抵抗の姿であった。
「こいつ・・・何を・・・」
「うおおおおおおおおお!」
獣のような声を上げて、死に抵抗する若者を、化け物か魔物を見るような目で見つめる国王たち。ラダムはリスクを殺すことも忘れて、ただ、何かが起こる予兆を皮膚を通して感じ始めていた。
「・・・・・御免!」
短く後ろで誰かが叫ぶと、国王の右手に握られていた王剣を奪い、磔になっているリスクに向かって走り出していた。この中で、唯一、冷静にリスクを見ていたその男は、この場で一番に優先すべきことは何かを、しっかり理解していた。
「うおおおおおおおお!」
リスクの周りには、光り輝くオーラと禍々しい黒いオーラが入り交じり、光と闇の色を世界に発していた。それを見ても、男はリスクに向かうのを止めない。そして、大地を右足で蹴り飛ばすと、天高く身体を跳ね上がらせて、剣先をまっすぐリスクの心臓に照準をあわせて突進した。
「うおおおおおおおお!」
「死ねぇ!」
男がまっすぐリスクの右胸に王剣を突き立てた。
はずであった。
「!?」
王剣は、リスクの右胸の数センチ前で、空中に止まったまま、浮いていた。もっと正確に言えば、何か別のチカラによって、リスクの心臓を貫くはずだった王の剣は、リスクの前で動きを止めたまま、何も起こらなかった。何も起こらなかったのを、周りのラダム国王以下、王族、貴族、下級市民、全員が、見ていた。そして、その原因はすぐにわかった。リスクの右腕が、縛りつけられていた鋼鉄の鎖から自由として解き放たれて、男が放った王の剣の剣先を、素手で受け止めていたのだ。
「・・・・ああああ・・・・」
それは、とんでもない力だった。剣と男の身体を自分の右手一本で受け止めて、空中で制止させる力が、リスクの右腕に、静かに宿っていた。身体を十字架の上に磔になりながらも腕に身体中のすべての力を集めて鎖を引きちぎったリスクは、剣を受け止めた指の隙間から大量に赤い血を流しながら、寸前のところで、死の攻撃を回避した。
「ばっ・・・化け物・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・」
かつて、この世界に君臨し、すべての人類を恐怖と混沌の中へ突き落とした魔王を、その力で倒した元・勇者を、化け物呼ばわりした男を見て、リスクは、唇の端で笑った。
「・・・ハッ・・・そうかい・・・」
身体の地の奥底から吐き出すように闇の声をだすリスクの目は、黄金の色から黒の真珠色にかわっていた。身体から発する怒りの炎にすべて身体を預け、自分の命をこの世界から抹消する『すべて』に敵意を向けた。
「あああ・・・」
恐怖に震えながら、リスクを殺す命令もできずに後ずさるラダム国王たち数人の怯え、動悸の激しさ、そして失禁を目の当たりにしたリスクは、少し笑った。
「フッ・・・馬鹿どもが・・」
あの国王が、絶対的なこの国の最高権力者は、神では、なかったことが、ここで証明された。どこか潜在的にこいつらは、俺を恐れていたのだ。それで俺を正当かつ確実に殺す大義名分を探していた、だけなのだ。
『こいつらは・・・初めから・・・俺を人間扱い・・・していなかった・・・ならば!!』
あっというまに左手と両足の鎖を引きちぎり、右腕で受け止めていた王剣の先についていたゴミを振り落とすと、その命を素早く、そして優しく紡いだ。
「まずは、ひとり」
小さくリスクは呟いた。そしてそれはまもなく起こる惨劇の幕開けを告げる合図であった。
「俺は・・・間違っていた・・・」
血を浴びた王の剣が、怪しくリスクの手の中で、本当の王の中にいる喜びを感じている。そんな顔をしていた。
「・・・俺は・・・自分のために・・・この神からもらった力を・・・使うべきだった・・・」
剣に紫黒のオーラがまとわりつき、すべての希望を飲み込む、闇の色に剣の色が変わる。
「・・・自分に降りかかる理不尽な運命を消し去り、この世のすべてを終わらせるこの力を・・・自分のために・・・・使うべきだったんだ!」
「死ねぇ!!」
国王たち最期の抵抗は、そのリスクの演説の途中で、急に挟み込まれた。だが、リスクのシナリオに変更はなかった。一瞬で国王以外をこの世から消し去ると、改めてリスクは国王の怯えた目を直視した。
「・・・・メインディッシュは、最期だよ。ラダム」
国王という敬称をつけるつもりは、リスクにはなかった。何故ならば、彼が、今日、この地上の最高権力者になる、その誕生の日であったから。
「お前が、俺にずっと夢を見させていれば、よかったのに・・・こんなことにはならなかったのに・・」
「ああ・・ああ・・」
リスクを説得する言葉をラダム国王は、ついにもっていなかった。自分の部下が、リスクによって一瞬にして肉塊になる瞬間を見て、ラダムは、生きるのを、諦めた。
「永遠に醒めない夢を見させてくれれば、俺は、お前に永遠に・・・従ったのに・・」
ラダムは、その時、一瞬、リスクの悲しい顔を見た。直後、視界は真っ黒に変わり、ラダムは、永遠に醒めない夢の中へ旅立った。苦しみも悲しみも喜びもない、永遠の時の中へ。そして、今日、この地上の最高権力者又は
魔王『リスク王』が、誕生したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます