16 うんりょーの先輩達③
翌日、私とうっちーは入部届を提出し、正式に私立藤華学園高等学校吹奏楽部の部員になった。
「二人とも、改めて吹奏楽部へようこそ! これから一緒に良い音楽を作っていきましょう」
「君らもこれで “魔窟” の住人だねっ♪ うんりょーでめいっぱい楽しもうぜ!」
うんりょーの二階ホールで咲綾部長とトミー副部長から歓迎の言葉を受け、周りの先輩達から拍手をもらう私達。
鷹能先輩もマウスピースを口にあて、ウォーミングアップをしながらこちらを見守ってくれている。
「それで、二人のパートなんだけど……。他の新入生は皆吹奏楽経験者で、自分の楽器がもう決まっているの。あなた達はどの楽器を希望するか決めた?」
「僕はパーカッション希望です!」
咲綾先輩の質問に、うっちーは迷わず答える。
「知華ちゃんは?」
「私、ですか……」
三日間ほどうんりょーに来て、色んな楽器を見たり体験したりした。
そんな中で、私が一番やってみたいと思ったのは──
「私も、パーカッションがいいです」
「えっ、ほんとっ!? やったぁ!!」
「なっ!?」
私の隣で大袈裟に喜ぶうっちーと、咲綾先輩の後ろで大袈裟に驚く鷹能先輩。
マウスピースを握りしめた鷹能先輩が、猛然と私達の間に割って入ってくる。
「知華! マウスピースの音が出なかったからといって管楽器を諦めるのか!? よりによってクラスメイト風情と同じパートなど──」
「ちょっ! 昨日俺に名乗らせたのは先輩なんですから、ちゃんと “内山田” って名前で呼んでくださいよ! それに、俺と知華ちゃんはただのクラスメイトじゃなくって、クラスメイト兼同じ吹奏楽部員兼同じパート仲間ですよっ」
「マウスピースの音が出なかったから管楽器を諦めたってわけじゃないんです。打楽器の種類の多さに興味を引かれて、色んな楽器を演奏できたら楽しいなって思ったんですよ」
「しかし、演奏する楽しさならばどの楽器でも感じることはできるはずだ。特に金管の花形トランペットは主旋律やソロパートが多い分、やりがいや楽しさもひとしおだぞ」
「何言ってるんですか! 知華ちゃんは強引な先輩よりも俺と同じパートがいいってことだよね!?」
「タカも内山田君もお黙りなさいっ!!」
黒水晶の瞳を吊り上げ、凛とした声で咲綾先輩が一喝すると、ヒートアップしていた二人の口論がぴたりと止まった。
「色々な楽器を見たり聞いたりした中で知華ちゃんが決めたことであって、周りがどうこう言うことではないでしょう。パーカッションは新入生の希望者が欲しいパートだったからちょうどよかったわ。よろしくお願いね」
「はい!」
私に向けて綻ばせた大輪の百合の笑顔に、身の引き締まる思いで返事をすると、隣のうっちーがなぜか小さくガッツポーズをした。
一方、「知華の横顔は同じひな壇の上で堪能したかった……」と不満げに呟く鷹能先輩。
「演奏中に真横を向いて見蕩れる馬鹿がどこにいるのよっ」という咲綾先輩のキツい一言に反論することができず、「確かに少し離れた場所の方が鑑賞しやすいし、致し方ないな」と言い残し、ニヤけるうっちーを横目で睨みながら個人練習に戻っていった。
何者をも恐れない堂々たる風格の鷹能先輩も、従姉の咲綾先輩には敵わないらしい。
その後、私とうっちーは階段を下り、玄関横のパーカス部屋でパートの先輩方に挨拶をした。
「うっちーも知華ちゃんもパーカッションへ来てくれて嬉しい!」
「打楽器は初心者にも取っ付きやすいけれど、極めようと思うとなかなかに奥が深いんだ。まずは基礎を丁寧に教えるから、一緒に頑張ろうな」
ハキハキとしてボーイッシュな秋山先輩と垂れ目で笑顔の優しい霧生先輩の三年生コンビが優しく言葉をかけてくれる。
「これからよろしくね!」
マナミーズと呼ばれる二年生の三人娘、マオ先輩、ナオ先輩、ミオ先輩が笑顔で迎えてくれる。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
二人でぺこりとお辞儀をし、私とうっちーはパーカッションパートの部員としていよいよ部活動をスタートすることになった。
「今日は文化祭のステージで演奏するJPOPの合奏練習があるんだ。うっちーは寸劇要員だから合奏には参加できないけど、知華ちゃんにはタンバリンで本番に出てもらうつもりだからこれから練習してみよう!」
「は、はいっ!」
「へっ!? 寸劇要員てどういうことですか!?」
うっちーが素っ頓狂な声を上げると、秋山先輩がいたずらっぽい笑顔を浮かべて教えてくれた。
「文化祭のステージでは、毎年ポップスの曲をBGMにした寸劇をやってるのよ。今年の劇の内容はまだ秘密だけど、これがいつも好評なの」
ちなみに劇に出るのは一、二年生の男子部員と決まっているそうで、一体どんな劇になるのか想像もつかない。
パーカッションの練習初日に早くも文化祭での戦線離脱を言い渡されたうっちー。
早速打ち合わせのためにサックス部屋に行くように指示されて、渋々パーカス部屋から出ていった。
「スティックを使った基礎練習はうっちーと一緒に明日から始めることにして、今日はまずタンバリンの鳴らし方を教えるね」
一方の私は霧生先輩に促され、パーカス部屋で基礎練習する先輩達と離れて二階でタンバリンを教わることに。
楽譜の読み方やリズムの取り方、モンキータンバリンと呼ばれる皮の張られていないタンバリンの演奏方法などなどわからないことだらけの私に、霧生先輩は根気よく優しく教えてくれる。
“ドラムの鬼” の二つ名を持つと聞いたけれど、鬼の要素は皆無だよなあ。
霧生先輩の指導なら、ドラム初心者のうっちーもすぐに上達するに違いない。
タンバリンの鳴らし方にも慣れてきたところで、一階で練習をしていた部員達が楽器と楽譜を持って二階ホールへと集まってきた。どうやら合奏練習の時間になったらしい。
寸劇の打ち合わせをしていたうっちー達男子部員数人も、脚本家兼舞台監督のトミー先輩を先頭に階段を上がってくる。
「いやぁ。今回の寸劇は過去最高のクオリティになりそうだぜっ!」
指揮台に上るトミー先輩の悪企みをのせたような笑顔とは対照的に、うっちー達下級生男子部員の顔はなんだかげっそりしている。
「ほいっ! じゃあ皆揃ったとこで
トミー先輩の一声で、人気アイドルグループのヒット曲『夕焼けバンジー』の合奏練習が始まる。
「とにかくポップスはノリ重視だから。リズムを気にしすぎずに楽しく叩いてね」
「はいっ」
初めての合奏参加で緊張気味の私を気遣いつつ、霧生先輩は自分が担当するドラムセットの位置へと移動した。
ドラムセットの前のひな壇にはトランペットやトロンボーンの演奏者達がずらりと並び、その中で座る鷹能先輩と目が合う。
切れ長の瞳を細め、口の端を僅かに上げるその表情は私を応援してくれているのだろうけれど、先輩に見られていると思うと心拍数が異常に上がって上手くリズムにのれなくなってしまいそうだ。
緊張と恥ずかしさでタンバリンを握る手のひらに汗が滲み、私は慌ててハンカチで汗を拭った。
いよいよ私にとって初めての合奏練習が始まる。
忙しない鼓動を押さえつけるように息を深く長く吐き、私は全部員の視線を集める指揮台の上のトミー先輩を真っ直ぐに見据えた。
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