13 うんりょーの新入部員達③
うっちーと一緒に二階へ上がると、並べられた大小さまざまな打楽器の前に五人の先輩達がいて、いろんな音を奏でて練習していた。
「すみませーん。パーカッションの体験をに来ました!」
うっちーが元気に声をかけると、先輩達の手が止まり一斉にこちらを向く。
「二人で来てくれたんだ。いらっしゃい! あたしは
ショートカットの女の先輩がはきはきとした声で答えてくれる。
パーリー? パリピとは違うのかな?
「そっちの女の子は先週見学に来てた子だよね。楽器は未経験?」
「はい。星山知華といいます」
「じゃ、どれでも好きな楽器選んでみて! 音の鳴らし方教えるから」
管楽器はどれもまずはマウスピースから! って感じだったから、いきなり楽器に触れるなんて思わなかった。
先週から気になっていた長いパイプの連なる大きな楽器の前に立つと、その傍で木琴を練習していた女の先輩が声をかけてくれた。
「それはチャイムっていうんだ。この木のハンマーで、パイプの一番上の角を叩くの。こんなふうに」
キンコンカンコンキンコンカンコンキーンカーンコーン♪
おおおおおおおっ!!
これはおばあちゃんちのテレビで観たことがある、のど自慢のチャイムじゃないですかっ!
感動に打ち震えていると「叩いてみる?」とハンマーを渡されたので、先輩の指示通りの場所をおっかなびっくり叩いてみる。
カーン……
のど自慢の予選落ちを知らせる音。思わず笑ってしまったら、隣の先輩も一緒になって笑ってくれた。
次は中華風のドラにチャレンジ。楽器としては「ゴング」という名前があるらしい。
ジャーン!! って音を期待して叩いてみたけれど、私が叩くとゴーン……というなんだか迫力に欠ける音しか出ない。
「ゴングは叩く前に震わせておくと音が響くんだよ」
先輩はそう説明しながら、マレットと呼ばれる大きくて柔らかい頭のついたバチでゴングの表面を小さく細かく叩き始めた。
ぐぉんぐぉん……と重たい金属が振動したところで一発!
ジャーーーーンッ!!!
耳をつんざくほどの大きな音が鳴った!
なにこれ面白い!!
この時点でもうすでに小学生レベルの好奇心を刺激されまくった私。
ティンパニを叩きながらペダルで音程を変えてみたり、ビブラフォンの電源を入れてウォンウォンとビブラートする鉄筋を楽しんだりと、時間を忘れて遊んでしまった。
そう言えばうっちーは?
ふと我に返って顔を上げると、彼はドラムセットの前に座り、男の先輩に手ほどきを受けている。
鷹能先輩と同じくらい背が高くて、とっても優しそうな先輩だ。
うっちーも憧れのドラムを体験しているせいか、頬を紅潮させて嬉しそう。
それから、鷹能先輩の姿が見えないことにも気づく。
先日の咲綾先輩とのやり取りで、月曜日はスーパーの “生鮮ぞろ目市” で卵が一パック九十九円だと言っていたから、それをゲットしに行ったのかもしれない。
そんなことを考えながら金管楽器の練習風景を見渡していると、私の視界に奇妙なものが映った!
部員達が楽器を吹いている中、パイプ椅子に鎮座した大きな金色の楽器が、誰もいないのにぼふぉーっと低い唸り声のような音を出しているのだ。
よくよく見ると大きな楽器の左右から子供のように小さな手足が飛び出している。
一瞬楽器に手足が生えたのかと思ったけれど、楽器の陰で見えなくなっているのはどうやらあゆむちゃんらしい。
穴ぐら小動物系の彼女があんな大きな楽器を吹いているとは……。
二階ホールに出ている大きな楽器から、楽器庫に保管されている小さな楽器まで、いろいろな打楽器を体験させてもらった私とうっちー。
「パーカッションと一言で言っても色々な種類の楽器があって色々な演奏方法があるっていうのはわかってもらえたかな」
少年のようにニカッと微笑む秋山先輩に、私達は大満足で「はい!」と返事をした。
「あのっ、それで一つお願いがあるんですけど……」
頬を紅潮させたままのうっちーが先輩方にリクエストを切り出す。
「
彼のその一言を聞いた途端、なぜか女の先輩達の顔が引きつった。
「リクエストをしてくれるなんて嬉しいなぁ。じゃあ何か一曲……」
うっちーにドラムを教えていた優しそうな先輩がドラムセットに座ろうとするのを、秋山先輩が慌てて引き止める。
「あっ、ちょ、霧生君! 今はいいってば! 内山田君、ごめんね! 霧生君の演奏はまたの機会に!」
「え? はぁ、わかりました……」
先輩達の尋常ではない慌てぶりに、うっちーも首を傾げつつ引き下がる。
霧生先輩に今ドラムを演奏させてはいけない理由でもあるんだろうか。
結局、青雲寮の窓の外が暗くなるまで様々なパートの練習を見学して回った私達は、最後のミーティングまで参加して帰ることになった。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました!」
「今日は入部前なのに遅くまでお疲れさま。よかったら明日も遊びにきてね!」
秋山先輩達がにこやかに見送ってくれる中、私とうっちーは帰り支度をして階段を下りた。
「知華ちゃんは家どこなの?」
「うちは隣の藤北市なんだ。電車で来てるの」
「うわぁ、そうなんだ! 俺の家は藤北の手前の堂内なんだ。これから毎日電車で一緒に帰れるね!」
「そ、そうだね」
憧れのドラムを体験できたせいか、やたらとハイテンションなうっちー。
私達が話しながら下駄箱で自分の靴を取り出していると、ぱたりぱたりとスリッパの音が聞こえてきた。
「知華」
詩を諳んずるようなあの低い声が響く。
声のした方へ顔を向けると、ボーン部屋の方から鷹能先輩が歩いてきた。
歩みとともに毛先が踊る柔らかな髪。端正な顔は小さく、すらりとした手足は長く、完璧に均整のとれたスタイル。
まさに動く芸術と言わんばかりの神々しい美しさ。
しかし、そんな鷹能先輩の今の出で立ちは──
清潔感溢れる真っ白なシャツの上に可愛らしい猫の刺繍が入った黒いエプロン、そして右手に菜箸という、圧倒的主婦力を体現する姿だった。
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