第4話

子役になんかなりたくなかった~あるカウンセラーの逆転移~第四章


その春僕は結局志那と会う機会もなく、中学に上がった。学校は近くの公立の学校に行く事になった。学校は味気なかった。教師も退屈、同級生も退屈、二,三年生の先輩も幼く見えた。今まで大人と仕事をしていたせいだろう。僕は所謂“ニヒル”になってしまった。小学校高学年の時と同じように、教師からは疎んじれれた。特に体育の教師は僕に、

「お前、金玉付いてんのか?取っちゃったんじゃないのか?」

と、言ったことがあった。それまで僕は一部のものから豆というあだ名で呼ばれていて、その時はまだましな方で、それ以降のあだ名はブーロックになった。意味は去勢された牛だ。このあだ名はクラス中に広まり僕は半分以上の女子からもブーロックと呼ばれるようになった。

当時まだ中学であった僕はそのときすでに、大学進学を決意した。努力した通り成績は上がった。 

 しかし皆の眼は一層僕に対して冷たくなっただけだった。一見まじめでおとなしく性格の良さそうな女子でさえ僕に対しては血の気の引くような冷めた口調で話した。学校は苦痛そのものだった。そして苦しんでるからこそ、授業に集中する苦痛はさほど気にならなかった。家に帰ってはひたすら勉強し、それ以外の時間は、ベッドの横たわりながら音楽をかけて、空想に耽った。その多くは志那のことを思い出しているのだった。クラスの女子に碌に口も利いてもらえない僕は、ただ志那の、


「渡邊君」

と、笑顔で声をかけてくる記憶を何度も反芻するのだった。


 あの帰りの電車の中で志那が僕の方に躰を寄せて、


“じゃあ、お詫びに私も渡邊君にだけ、こっそり本当のことを言うわね”


“さっきの事誰にも内緒よ”


局の食堂では、


“何かの中に絶対あっちゃいけないものがあるんだって。この場合渡邊君何だか分かる?”


“渡邊君て結構現実家ね。将来はサラリーマンかな”


 どの記憶も僕の渇いた心を癒した。内緒話をした記憶、局の食堂で生意気な珈琲を交わした記憶、今となっては、どれも夢のようだ。その記憶があるから生きていけた。追憶の中に青春があった。

 大学生活は幾分僕に刺激を与えた。 

何でもいいからサークルに入ろうと思い僕はバスケ部に入った。そこで新田と知り合った。新田にバスケ部に入った理由を聞くと若いうちは社会に目を向けなきゃなどと変わった返事が返ってきたので僕は思わず噴き出した。新田は真夏にアロハシャツを着ながらキルケゴールについて熱く語ったり変人タイプだ。

 

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