第3話

子役になんかなりたくなかった~あるカウンセラーの逆転移~第三章


 いつも通りエンディングと松倉さんの歌で始まり、その日は食わず嫌いの収録をまとめて3本やった。僕の出番はなかった。


 仕事に徹したジーンズとトレーナー姿のAD、さまざまなコードが繋がっている大きく精密なカメラ、まぶしすぎるスポットライトと、それに慣れてしまっている鶴見さんや、子役のみんな。パイプ椅子に座っている女優の松倉さん。もし番組が終わればこのような光景も、記憶の一部でしかなくなるだろう。


 すべてが後々に宝石になった。記憶の宝物になったのだ。


 2月の末、僕らはディレクターからではなく、マネージャーである母親から番組が3月で終わりになる事を告げられた。それでも今まで通りスタジオに行き、ディレクターの指示通り、収録中は何の素振りも絶対見せないよう演じた。結構つらいものがあった。そして最後の収録の時、司会の鶴見さんが番組の打ち切りを告知した。みんなは指示通り、

「え――」

と、声をあげた。

鶴見さんは松倉さんに、

「どうですか?この三年間を振り返って」

と、質問した。

「そうですね。あっという間でしたけど、私自身この番組に出させてもらって、いろいろ教えてもらったし、本当何ていうか子供たちから逆に教わる?うん。本当そんな感じで。私自身すごく楽しめたし、みんなの笑顔も見れて、元気もたくさん分けてもらって本当……」

 松倉さんは少し涙ぐんだ。鶴見さんは、

「ねえ。本当いろいろあったもんね。ミヨちゃんは歌も大ヒットして、みんなの看板にもなってくれたし」

「いえ、全然。私なんか長い間歌えたのも本当みんなのおかげで」

 今度は松倉さんは若干笑顔になった。

「じゃあ、今度は子供たちにも聞いてみるか」

 鶴見さんは志那に向かって、

「志那ちゃん、番組終わっちゃうってなあ」

「本当残念です」

「志那ちゃんはあれだろ。この番組終わっても、このまま芸能活動続けてくんだろ?」

「はい。その予定です」

「結構番組盛り立ててくれたもんなあ」

「そんなことないです。私はこの番組の時は本当気楽に居られて、いろいろな人達、アシスタントさん達も含めて勉強になったし、本当番組が終わっちゃうのかなあって気分です」

「そうかあ。でも志那ちゃん。ここにいるみんなは志那ちゃんと違って、これ終わったら仕事なくなっちゃうんだよ。志那ちゃんの権限でみんな使ってもらえる?」

 松倉さんが、

「そんなことないですよ。みんなも仕事だってこれからかもしれないしね」

 志那は、

「私にはそんな権限ないですよ。でも、もし、またみんなと仕事出来たら、凄く嬉しいですね」

そう僕達の番組は終わった。

番組が終わった後僕達のV3スタジオでオードブルが並べられた。好きなようにファンタやコーラや烏龍茶が飲める様、紙コップが配られた。このお別れ会は30分しかスタジオを貸し切れなかった。僕は志那の方をチラチラ見ていた。

 みんなが騒ぐ中、僕は志那に話ができないでいた。何でもいいから何かを志那に伝えたい。また食堂で偶然会ったときのようになれば二人きりになれるのだ。志那が少しでも僕に気があれば志那の方から話しかけてくるかもしれない。でも志那は来なかった。そして別れの言葉もなく、マネージャーの母とV3スタジオを出て行った。みんなも散り散りになった。 

 


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