第6話 無二の親友誕生

霧隠慎太郎の祖父、戸澤白雲斉を襲撃して失敗した鴉天狗の話しは、瞬く間に広まった。

月山宗幸が、自身の部下の失敗を責めなかった理由は、ここにある。

慎太郎は、いかに霧隠を名乗る伊賀の次期当主とはいえ、まだ10歳の小僧である。

それに負けて、すごすごと逃げ帰ったとあれば、仲間からは、かなりキツい叱責にあうのは必定だった。

『しかし、いくらまぐれとはいえあの鴉天狗に飛翔術で勝つとは、なんという小僧だ。』

等と、出羽一族は騒然となった。

一方、当の慎太郎は宗幸の話しに、腹を抱えて大笑いしている。

そこはまだ子供なのだ。

それにしても、月山宗幸と慎太郎、午が合うようだ。

『それにしても慎太郎殿、

 貴殿は、いずれ日本忍者軍団

 を率いて、地球を守る戦いの

 総大将になられるかもしれま

 せんのう。』

慎太郎本人は、それほどの者とは思っていない。

『いやいや、拙者は高々伊賀の

 上忍で良いでござるよ。

 日本忍者軍団の棟梁など身が

 重いでござるよ。』

慎太郎は、何と言っても、まだ10歳の子供なのだ。

宗幸は鴉天狗を呼んで、出羽の忍者の争いを早急に平定して、月山の一族が出羽の長となるよう命じた。

『まず最初の長は、そなたが務

 めるが良いぞ。』

これには、鴉天狗が驚いた。

『御館様は、何故そのような。』

訳がわからないという顔をした。

『知れたことよ。

 儂は、慎太郎殿に付き従って

 天下平定をする。』

鴉天狗も、本当は慎太郎に付き従って行きたい。

しかし、慎太郎には、まだ立つ気がない。

宗幸は、その間の慎太郎の修行をも手伝う気、満々である。

鴉にしてみれば、その方がよほど楽しそうなのである。

夕刻、慎太郎が帰宅しようと準備を始めると宗幸が白雲斉に合うために同行することになった。

そこでまた、宗幸と鴉天狗は、仰天させられることになった。

慎太郎が月山城の本丸の庭で、何やら呪文を唱えると、巨大な虹の架け橋が天空に立ち登り、筋斗雲のゴンドラが降りてきた。

『宗幸様、これにお乗り下さい。

 京のお爺様の所までご案内します。』

宗幸と鴉天狗にしてみれば、伝説でしか聞いたことのない呪術で、平安京の陰陽師、安倍清明が関東に軍勢を送る時に、1万の大軍勢を一瞬で移動させたと伝わっている。

一方の京都の街中。

祇園八坂神社へのお詣りを済ませた戸澤白雲斉一行が、またも鴨川河川敷に集まっていた。

慎太郎の父、服部半蔵と望月雅が合流して、鴉天狗と慎太郎が飛び立った四条大橋の下ではなく、三条大橋まで歩いていた。

その一行の目の前に、虹の架け橋が降りてきた。

直後に、筋斗雲のゴンドラで月山宗幸が現れたのだからたまったものではない。

宗幸が、白雲斉の前でひれ伏して挨拶しようとした。

『戸澤白雲斉様とお見受けいた

 します。

 私出羽羽黒山の月山一族の

 月山宗幸と申します。

 先程は、我が手の者に失礼な

 真似をさせ、申し訳ござい

 ません。

 慎太郎殿と近づきたいが故

 の試技にございますれば、

 平にご容赦のほどをお願い

 申し上げます。』

白雲斉の従者にしてみれば、冗談ではない。

たしかに慎太郎は主筋の若君ではあるが、慎太郎が主君になるのは二代も先のこと。

しかし、白雲斉は違っていた。

伊賀の次の頭領は、あくまで服部半蔵でなくてはならない。

慎太郎は、日本の忍者全ての頭領にならなければならない。

『ところで月山殿、虹の架け橋などという大技をよくぞ、ご修得なされましたのぉ。』

白雲斉の誉め言葉に、月山宗幸が返答。

『いやいや、虹の架け橋の呪文を発動させられましたのは、慎太郎殿でございますよ』

と言ったことから、またも白雲斉一行は驚愕した。

慎太郎は、いかに安倍清明の末裔と言われていても、まだ10歳の子供である。

一同には、いくらなんでも、人を運ぶほどの架け橋が出来るとは思えない、

しかし、現実に月山宗幸は慎太郎の架け橋に乗って運ばれて来た。

『慎太郎殿は、日本忍者の頭領になられるお方。

さほど驚くほどのことでもございますまい。』と、宗幸は言う。

宗幸は続けて。

『私、慎太郎殿と共に龍門館で修行を受けとうございます。』

既に、奥羽出羽忍者の若君として君臨しているはずの宗幸をして、そこまで言わせてしまうほどに、慎太郎の力は上がってしまっているということ。

白雲斎は、それでも祖父として、慎太郎の修行を後押ししなければならないと思っている。

『しかしそれでは、宗幸殿ほどの忍者が、あたら2番手に収まってしまうではないか。』

白雲斎は、宗幸の立場を心配した。

『それで良いのです。

それでこそ日本のため、いや、地球のためでございますよ。』

宗幸の言葉には、確たる覚悟があふれでていた。

白雲斎一行。宗幸の言葉に感銘を受けている。

その間、慎太郎が何回も自分達の周りを飛び回っていることに気づかない。

慎太郎、飛行速度を時速2000キロ以上出している。

風切り音さえ消してしまえば、とてもじゃないが人間の肉眼では追える速度ではない。

『慎ちゃん、そろそろ止まって、下りてきたら?』

ふと、雅が言った。

筋斗雲が急停止して皆のは前に慎太郎が姿を現した。

『もう。

帰ってきたら、すぐに姿を見せてよね。』

日本最強と思われる少年忍者、霧隠慎太郎をして、雅には形なしである。

白雲斎、楽しくてしょうがない。

慎太郎を中心に、日本の忍者が集結して、軍団を作る。

白雲斎でなくとも、忍者ならばワクワクして当然。

当然のことだが、宗幸の龍門館入門は許された。

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