第4話 結の1

晴純と春麗が甲賀の里に移り住んで400年、時の日本は戦国時代真っ只中、下剋上につぐ下剋上。

血で血を洗う時代のさ中晴純と春麗の子孫の若者が甲賀忍者最強と言われるようになっていた。

その名を三雲忠勝と言う。

後に猿飛佐助の異名をとる伝説の忍者である。

同じ頃、春麗の出身地伊賀にも春麗の血は引いていないものの、優れたくノ一が出た。

名を百地霞。

春麗から数えて18代後の百地女当主である。

この女当主が三雲忠勝に嫁いで生まれた次男坊が後の服部半蔵。

初代服部半蔵から数えて三代目にとてつもない忍者が輩出された。

霧隠才蔵と異名をとる、日本忍者史上最強の忍者となる。

その霧隠才蔵からさらに500年、慎太郎と名付けられた少年が、京都の寺町京極のアーケード街で、スケボーで遊んでいた。

歳の頃、10歳にも届くのかどうか?

姉小路をすぎ、三条でアーケードが途切れた時に、辺りはどしゃ降りの雨。

人々は、あわててアーケードに逃げ込んで来る。

寺町京極という道は、京都のど真ん中の繁華街、ただでさえかなりの人混みだが、あまつさえ季節は水無月6月、街は修学旅行生でごったがえしている季節。

京都の土産物店が並ぶ新京極とは10メートルほどの距離で平行しているアーケード街。

しかも、京の台所として有名な錦市場のスタートする道。

雨が降ると、新京極から修学旅行生だけでなく、観光客が寺町に溢れてくる。

慎太郎、仕方なく三条寺町角の八百屋で、『おじさん、雅いてる~?』

幼馴染みの女の子の在宅を確認した。

『おぅ、慎太郎。

雨宿りして行け。』

幼馴染みの女の子、望月雅。

甲賀流忍法の宗家望月家の姫君なのだが、慎太郎と仲が良く、おてんば極まりなく育ってしまった。

『忍者の棟梁の娘なんやし、

少しぐらい元気な方がえぇんちゃうやろか』娘の雅が反論すると。

『いやいや、お前の場合は度が過ぎてるさかいなぁ、このままやったら嫁の貰い手があらへんようになる。』

『なんで~な、慎太郎がうちを裏切るわけないやん。』

慎太郎にしてみれば、とばっちりもいいところである。

『おぅそうか、慎太郎、よろしゅう頼むで。』

『冗談やあらへん。

男は嫁にでけへん。』

慎太郎までむちゃくちゃに言う。

こうなると、雅も意地になる。

『アホ~。私の旦那は、生まれた時から服部慎太郎と決まってるんや。お母ちゃんが言うてたもん。』べそをかく雅。

慎太郎、すでに雅のべそをかく小芝居には、翻弄されている。

慎太郎が必死になって雅をなだめようとするが、雅はしゃがんで肩をひくひくさせている。

『この野郎、雅。またやりやがったな、笑てるな。』

走って逃げる雅。

『残念やけど、慎太郎、お前の負けやで。女にゃ勝てへん。

って言うか、もう振り回されてるんや。』

前述の店主のおじさん、雅姫の父親、つまりは、甲賀流忍法の宗家望月家の現在の当主、甲賀忍者のトップに君臨する平成甲賀忍者の棟梁のはずだが、いかんせん性格が軽い。

自分の娘とこんな会話をする。

慎太郎とも。まるで友達か親子のようだ。

霧隠慎太郎、伊賀忍法の宗家服部家の若君だから、家柄や格式にやかましい人からでも後ろ指を指される筋合いはないが。

伊賀の服部と甲賀の望月が手を結ぶとなれば、日本の忍者史上最大最強の忍者軍団が出来上がる。

しかも、10歳にして霧隠の異名を許されている。

慎太郎と雅姫、幼少期から仲良くて、幼馴染みの典型的間柄。

生まれてすぐに、親同士で結婚させる約束をしてしまった。

当然ながら、お互いの家を行き来して、食事はもちろん、風呂までいっしょに入ることもある。

当然ながら、二人に性別等という概念は頭からない。

同じ歳、同じ定めに翻弄されている。

しかしながら、今はとにかく雨。

慎太郎と雅は騒ぎながら、御池通りから三条通りの間で追いかけっこしている。

姉小路辺りで、白髪の老人にぶつかりそうになり、慎太郎はアーケードの骨組みに跳ね上がり。雅は横っ飛び。

『お爺ちゃん、ごめんなさい。びっくりしたでしょう。ケガとかあらへんか?』

あくまでも素直な慎太郎と雅の二人に微笑みながら、白髪の老人が嬉しそうに。

『二人共、大きゅうなったのう。』

この老人、雅の祖父に当たるのだが、年齢は400歳を軽く越えている。

武田信玄に仕えた名忍者、戸澤白雲斎である。

かの有名な、最強の甲賀忍者、猿飛佐助の師匠である。

『望月の~、そろそろ慎太郎と雅を龍雲館に入れても良かろうと思ってな。』

龍雲館、戸澤白雲斎が慎太郎の先祖服部半蔵と共に開いた忍術、妖術、幻術、陰陽術の道場である。

山深く隠れ、その所在はようとして知れず、だがしかし、日本中の忍者の師弟は、この道場への入門を目指す。

この道場の出身者は、日本はもとより、世界中の国々政府に諜報機関職員として引く手あまたとなる。

しかも、かなり高額な給与で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る