第15話 ミカルvsシウラ ②
振り向きざまに風の獅子へ剣を横薙ぎに振り、視界に奥へと位置するシウラを捉えると、シウラの体には髪や服の乱れ、雷による傷、火傷が一切無く無傷の状態で王女へと視線を向けていた。即死レベルとはいかないとはいえ、あの落雷で火傷が残らないわけがなかった。しかし攻撃を受けたはずのシウラは無傷だった。王女は獅子を切りつけ、身体を回転させ苦し紛れではあるが、シウラへ無詠唱で〈
「〈渦雷飛龍〉!!」
王女は再び魔法を発動させ、高速で動き的を絞られぬよう高速で動いた。
「さて……何秒もつかな?」
体の痺れが取れたエルは地べたに座り込み寛ぎ、王女とシウラの戦闘を観戦していた。
エルの何事もなかったかのような様子を神屋センは横目でエルの体に傷一つない体に驚きを隠せずにいた。雷を生身で受けておきながら、火傷もなく痺れただけで身体を手で払っただけで、何事も無かったようにし座り込むエルを見て、今まで見て来た中で一番の化物であることを悟った。そんな神屋センを横に、エルは胡座をかき片手に水筒を持ち、緊張感の一欠片も無く視線の先で戦っている王女とシウラの戦闘を観戦していた。
「お前も座れば?」
「いや…いい」
「王女を心配している気持ちはわかるが、待ち受ける結果は変わらない…
楽にして待てばいい」
「……お前は心配しないのか?」
「ん?誰を?」
「お前の連れしかいないだろ」
「…あぁ…シウラか …するだけ無駄だ」
「それは何でだ?」
「あいつが負けるような相手じゃないからだ」
「……ミカルがか?」
「あぁ、力の差は明確だ どうあがいても負けることはない」
「成る程…最初から勝負は決まっていたのか」
「そういう事」
シウラが負ける事は無い、エルはシウラに王女が敗北する事を確信していた。それを神屋センも納得せざる得なかった。理由は2人の闘いぶりを見てそう思ってしまったからだ。
高速で動く王女に対し、シウラは最初にいた位置から一歩も動いていない。風の獅子の攻撃を避ける王女は四方八方へ飛び移り、攻撃を避けながらシウラに攻撃しているが、王女の放つ魔法を全て風で弾かれ、剣技は流され、攻撃がシウラの身体には掠りもしなかった。
(あっっったらない!!! クソッ!何で!?)
死角からの攻撃、遠距離からの魔法、目には見えぬほどの速度からの剣技、手数の多さ、工夫、威力、王女のできる攻撃の全てを出してもシウラには当たらない。神経と研ぎ澄ませ、シウラからの攻撃を警戒すると背後から上空から同時に獅子が王女へ襲いかかる。神経が擦り切れる中で、王女は一瞬でも気を抜けばシウラにそこを突かれ、泣き所を容赦なく攻撃されていた。その様子を、遠くで見ている神屋センはあることに気づく。
「まさか風でミカルの動きを…」
「お!良く気づいたな!」
「下からの風の魔法を避ける度にその先には獅子が待ち受け、獅子を反射的に避けた先にも又獅子が待ち受ける… これは先を読むというより」
「そうだ、王女の身体を極微量な風で流している
王女の意思に関係なく王女の身体は知らずに風で流されシウラの獅子が待ち受ける
これは第三者視点でも殆ど気付かない」
「何て戦闘技術だよ…」
王女は知らずにシウラの風魔法の間合いの中へ入っていた。神屋センが気づいた通り王女はシウラの風で身体が獅子の待つ方角へと流されている。全てはシウラの手のひらの上だった。そしてもう一つ、此れは神屋センはまだ気づいていないことだが、王女の雷魔法の四方八方へと飛ぶ高速移動をエルとシウラは目で追えていた。シウラは王女の高速移動を目で追えている。そして姿をハッキリとその目に映っていた。戦闘が始まる前から王女に勝ち目など無かった。
(はぁ…はぁ…はぁ…
気を抜けばやられる…でも何をやってもこっちの攻撃が当たらない…)
「もう…終わりですか?」
「……クソッ…」
無傷なシウラに対し、王女は肩で息をして疲労が蓄積されていく。雷を身体に走らせ無理矢理人間の限界以上の力を出している王女の体は限界を超えていた。雷魔法で蓄積された疲労により身体中は痺れ、筋肉に負荷がかかり、2週間は自由に身体を動かせ無くなる。
既に身体の所々に痺れがきていた。王女は辺りを見渡しそして、神屋センへ目配せをする。
神屋センは王女の考えを察し、再び錫杖を右手へ出現させ地面を突く。すると王女、シウラを除く学園を囲む防御結界が張られた。
「これで、最後…… 〈渦雷飛龍…大黒雲・大雷〉!!」
『へぇ…[|和名持ち《ネームド]じゃないのにアレを使えるんだぁ…やるねぇ!
でも技と身体が合ってないね』
(アレを知ってるのか?)
『そりゃ知ってるよ! だって私、女神だよ?」
(……そうだったな)
『え?何その反応』
(別に)
王女は最後の攻撃に出る。再び雷魔法を発動させたが、今度の王女が発動した魔法はさっきとは桁違いの魔力の電気を外へ放出し、体全体に電気が流れていた。この魔法により上空から雷雲が空を覆っていた。そして雷を纏った王女の背面に雷により具現化された雷太鼓が出現する。それにより、体内から報酬される電気は更に外へと放電する。
「フシュ――ッ…グギギッ……」
『ほら…体内から放出される電圧に肉体が耐えきれてない
あの魔法は本来ならあんなにバリバリ外に放電しないよ
ギリギリでアレを使える器を持っているけど、もって1、2秒かな』
魔法を制御出来ず、雷のコントロールが効かない状態となりあらゆる箇所に放電している姿を見て、この王女の魔法をアリスは知っていた。膨大すぎる魔法故に、王女の魔力と発動している魔法が身体に見合わず体内に留めることが出来ていなかった。王女はこのまま暴走して自滅するとアリスは予想をしていた。
(ダメだ…このままじゃ… この場にいる者達だけでじゃない、国民にまで被害が出てしまう また…暴走する…
何とかして抑えなきゃ…)
『……はぁ、見てらんないね』
「ググゥ……」
『…しょうがないなぁ』
(行くのか?)
『うん、仕方なくね 戦友の技で自滅するところは見たくないんだ』
(ふーん)
ため息をつくと、アリスはエルの頭へ乗せていた顎を上げると、エルから離れ王女の元へと飛んで行く。その様子を見てシウラは驚きエルの方へと目を向ける。エルはシウラの視線に気づくが、首を振りアリスの行動はエルの指示ではないことを伝える。
(今の状態なら王女はアリスが見えるかもしれないが… 何をする気だ?)
エルにはアリスの意図が見えず、同じくアリスの意図が見えないシウラは魔力を維持しつつその場で待機をする。アリスは魔法の制御ができずに辺りに放電をし続ける王女へ近づき目の前で止まると、右手の人差し指を王女の額へと当てる。
『は〜い、しゅうちゅーう』
「!? なっ…なんだ…お前は!?」
『今そんな事話してる場合じゃな〜い ほら!しゅうちゅーう』
「……?」
『力を抜いて、魔力の流れに逆らわず…そのまま落ち着いてコントロールして…』
「………」
『そうそう…押さえ込まずに、魔力を肌で感じるように』
アリスが王女へ行った事は、魔力の制御だった。アリスは王女の額に指を当てる事で、その箇所に集中させ、身体中に流れる自身の魔力をその身で感じた。荒々しく流れに逆らうように、決められている箇所に正常に流れていない魔力を修正するようにした。正常に流れていなかった時と比べ、放電が収まり外へ放出していた魔力は収まり、魔力は王女の身に纏う。
先程の暴走寸前の状態とは違い、王女の身に纏う魔力は透明の焔に包まれる感じになっていた。そして静かに魔法は本来の姿へと形作る。
「……これは」
『それが、〈大雷〉のあるべき姿』
「あるべき…姿?」
『まったく…間違った使い方をするから暴走するんだよ
何で王女ちゃんがラミールの魔法を使えるのか聞きたいところだけど…』
「…………え?」
『シウラちゃん!もういいよ!』
「あっあの!」
『その魔法まだ未完成だけど、先にシウラちゃんと決着をつけなきゃだよ』
アリスが乱入してから長く待たせていたシウラへ呼びかけ直ぐにアリスはその場を離れる。王女はアリスが放った言葉に驚き問いかけようとしたが、アリスは王女へウィンクをしてエルの元へと戻る。
「終わりましたか…では申し訳ありませんが、此方も早期に終わらせていただきます。
これ以上エル様を待たせるのは失礼になります、
〈
「……なぁアリス」
『何?』
「彼女は王女をどうするつもりかな?」
『んー…どうするのかな?』
「………手加減しなさいよ シウラ」
シウラの放たれる殺気が周りの人々の肌に刺さる。アリスが王女から離れたのを確認すると、シウラは詠唱を始め魔力を高める。シウラの詠唱は全てエルフの言葉であるが故に、人間にシウラの魔法を理解する事はできない。詠唱を始めたシウラに対し、王女は息を整え相手を見据える。完成ではない王女の魔法も凄まじいが、シウラの魔法は王女の魔法をはるかに上回るものであり、今のシウラには「手加減」の言葉は頭の片隅にも残っていなかった。
「〈
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