第14話 ミカルvsシウラ ①

張り詰める空気の中で感じられるのは、身体に刺さる静電気と、吹き付ける暴風だった。気がつけば、晴天だった空は2人の魔法により曇り空となっていた。強大な魔力が学園内にて衝突している現状を国は黙って見ている事はするわけもなく、いつの間にか校門付近には兵士や冒険者が集まっていた。その中には騎士長とギルドマスターの姿を確認していた。



(人が集まってきたな)

『そりゃそうでしょ、あの魔力の衝突を見て騒ぎにならないわけが無い』

(そうだな…まさかシウラが変装を解いて自ら戦うとは思わなかったが)

『ね〜…シウラちゃんがあんな殺気を放つなんてね)

(初めてだな…あんなシウラは)



普段は温厚で優しい性格をしているシウラから、普段とは真逆の怒気を相手に向ける。

シウラの怒気は、王女に向けられるというよりもアイヘス王国に向けられたと言っても過言では無い。この国にはシウラの同胞であるエルフが奴隷として扱われ種族の長としての怒りが頂点にまで達していた。人間のエルフ及び亜人種の扱いを目にする度にシウラは自身の感情を表に出さず抑えてきた。感情を押し殺し、種族の長として人間に危害を加え交友関係を傷つけないように心がけていたが、人間達のエルフの扱いはさらに酷くなる一方であった。人種差別、奴隷、人身売買、生贄などにより人間社会に住むエルフを苦しめ、もう我慢の限界だった。エルはそのような状態にあるシウラの感情を理解していた。出会ってから常に隣でエルに笑顔見せていたからこそ、心の深くにある憤怒を誰よりも理解しているからこそ、王女との戦闘に手を出すつもりは無かった。



「止めるならお前の相手は俺がするぞ?」



ミカル王女が戦闘態勢に入り、膨大な魔力の衝突によって校門へ集まってきた兵士や冒険者を対応していた神屋センが戻り、エルの横へ並ぶ形となった。



「そのつもりは無い」

「良いのか?王女だろ?」

「アイツが選んだ事だ

どんな結果になろうと文句は言わないさ、相手がエルフでもな」

「……只のエルフなら良いけどな」

「あ?それはどういう事だ」

「………」

「……まさかハイエルフか?」

「あぁシウラはハイエルフ…

でも、それだけじゃない」

「?」

「始まるぞ」



神屋センはこの戦いを止める意思はなかった。王女の性格を知ってか、どんな結果になろうと悪態を吐く事は絶対にしないとわかっているような素振りをしていた。だが神屋センはシウラを知らない。シウラは只のエルフでは無くハイエルフである。神屋センはシウラがハイエルフかどうかを確認するとエルは肯定したが、その後にも続きがあった。しかしそこで会話は打ち切られ王女とシウラの戦闘が始まる。王女、神屋センはシウラがエルフの王である事を知らずに戦うこととなった。



「(小手調べなし、先手必勝!!)

〈落雷墜翔〉!!」



初めに動いたのは王女だった。剣を構えていた王女が位置する場所から電気が走ったかのように見えた瞬間、シウラの上空へと移動した。雷を自身の体に纏わせ身体能力を無理やり引き上げ、普段出せる速度を遥かに上回る速度で動き見物している学園の生徒達や兵士、冒険者の視線を置き去りにし上空へ飛んだ。王女の速度を目で追えたのは3人だけであった。

上空へ飛んだ王女は剣先に魔力を溜め、下にいるシウラへ剣を振り落雷を起こした。雷の攻撃を放つ位置が高ければ高いほど威力が増す、即死レベルまでとはいかなくとも気絶させるまでの威力をシウラ目掛けて放った。



ピッッッシャァァァァァァァァン!!!!


「!! チッ!!」

「うぉ!!」

『あらら…』



落雷による雷の残滓が地面へと電気が流れ、魔法による波及がエルと神屋センへと飛んできた。エルは両手を顔の前に交差し防御し、神屋センは舌打ちをしながら、右手には錫杖が現れ地面を突き防御結界を貼る。王女の魔法は、シウラへ放たれると電光が走り雷鳴が王国全体に鳴り響くまでの音量で鳴り響いた。落雷による衝撃で土煙が舞い上がり、シウラの状況を確認できずにいた。王女は勝負が決まったかのように地上へと降り神屋センの元へと向かっていた。



「……威力出し過ぎだ」

「ん…でもあの位じゃないと防がれる気がしてね」

「限度ってもんがあるだろ こっちまで余波が来たお陰でアイツは巻き込まれた。」

「仕方ないでしょ?それ程までに私が強いって事なんだから」

「何言ってやがる」



王女は勝利を確信していた。それは神屋センも同じであった。上空から繰り出される落雷をシウラとエルは直撃している姿を見てただでは済まないことがわかっていたからである。

王女の魔法を生身で受けて無事で済んだ者は今まで1人として見たことがなかった。

だが…


「イッテェ…ビリビリする

やっぱ生身じゃ雷は痺れるな」

『ケチって魔力を使わないからこうなる』

「なっ!?」

「……嘘」



神屋センの横にいたエルの体が砂煙で隠れていたが風で吹き飛ばされ、王女の魔法を受けてもエルの無事な姿がそこにはあった。王女の魔法は確かにエルに直撃していた。

それは神屋センがその目でハッキリと見ていた。王女もまた魔法をシウラに放ち地面に直撃した波及で神屋センはともかく、エルの身は無事では無いと思っていた。だから神屋センと王女は自分の目に映る者が信じられないという反応を見せた。そして無事なのは1人では無いことに王女は気づいていなかった。



「あれ?何で王女様がここにいるんだ?」

「え?何でって…」

「まだ勝負はついてないだろ?」

「ミカル後ろだ!!!」

「!?」



王女の背後から現れたのは風で具現化されて二頭の獅子のだった。獅子は吠えながら王女に向かって飛び掛かり、爪で引き裂かれるか、噛みちぎられるかの二択が迫っていた。王女は何とか魔法による雷を纏わせ、上半身を後ろに向け剣を横薙ぎに振るう。剣を振るい、王女の視線が後ろへと向いた時、風の獅子の後ろに砂煙が晴れ人影、落雷が直撃したはずのシウラが何事も無く無傷でいた姿が王女の目に映っていた。

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