第13話 重すぎる罰

神屋センの瞳に映っているのは、この学園でトップクラスの実力である魔導師志望の貴族達である。彼等は4人が幼少の頃からの付き合いであり、同じ夢を追っていた。

国王に支え魔導師として騎士団に所属するという夢があった。そんな彼等は貴族であるが故の人を見下すような性格であり、自分が一番である事に疑いを持たない者達である。彼等には其れ相応の実力を持ち合わせ、学園内で常に上位の成績を残し国の魔導師による部隊への内定を獲得し、夢を叶え充実した未来が待っていた筈だった。もうそんな未来は1つの過ちによって二度と手に入れる事は皆無となり、夢を叶える事はできなくなった。



「これはどういう事だ」

「セン?」

「見たまんまだよ」

「何が?」

「コレを説明しろと言われても俺には出来ない

何せこれは俺から見ても異常だからだ」

「だから何が!」

「お前がやったんじゃ無いのか? なら誰が…」

「セン!!!」

「うぉっ!!」



神屋センは自分には理解できないものに対し、試行錯誤を繰り返しても答えは出ず混乱していた。今迄見たことも無いものを見て、必死に記憶の中にあるものをいくら探しても答えは一向に出てこなかった。そして図書館にあるどの書籍にも記されていない、前例の無いことが目の前で起こっており冷静さを欠いてしまっていた。蚊帳の外に位置していた王女は神屋センが混乱している様子が伝わってきていたが、何に混乱しているのかわからず周りの声が聞こえていない状態の神屋センへと必死に呼び掛けても反応は無く、遂に限界に近づき大声で神屋センへ呼び掛けた。これでも反応しなければ間違いなく王女は神屋センをグーでブン殴っていた。神屋センは王女らしからぬ声の大きさに驚き我に返る。



「ミカル王女…」

「……ちゃんと私にもわかるように説明して」

「……これは俺からは説明できません」

「はぁ?何で?」

「どう説明していいかわからないからですよ」

「……え?」



神屋センには王女に説明できないわけではない、説明して信じられるかどうかが問題だった。あの現状を神屋セン自身でも信じられないことであったからである。長い歴史の中で記録、前例、証拠が全く無い道の出来事である故に説明しても他者を納得させることができる材料が全く無い。この中で唯一説明できる者はエルしかおらず、見ず知らずの人物の話を信じられるかといえばそれは皆無であった。それでも神屋センはエルに教えを請うしかなかった。



「俺からは説明できない…だが、何が起こっているのかはわかる

でもこの答えが正解なのかはわからない だから変わりに説明してくれるか?」

「……簡単に言えば、あの4人から魔力が消え魔法が使えなくなった。」

(やっぱりか)

「…え? ……今なんて言った?」

「………其れは何時まで魔法が使えなくなる?」

「二度と魔法を使う事はできない 体内に宿る魔力は全て消えた

そこの4人は魔導師として生命を絶たれた」



時が止まっている時に行った事は、4人の貴族から体内にある魔力を消滅し魔法を二度と使えなくさせたということだった。体内にある魔力を溜める機能、回復する機能を破壊し体内に宿る魔力を全て消滅させ、大気中の魔力を取り入れる事も、精霊を呼び出す事も出来ない魔法を使えないただの人間となった。これを回復魔法の使い手の魔導師でも直す事はできない。貴族達の魔導師としての生命は今ここで終わりを告げた。



「…魔力が消えた?」

「そうだよ 王女様

あの貴族達はもう魔法を使う事はできない」



エルの言葉に当然貴族達は激昂し、貴族達には戯言にしか聞こえなかった。エルの言葉を信じない貴族達は魔法を発動させエルの言葉が偽りである事を証明しようとしたが…

貴族達は魔法を発動させるための魔力を溜めることが出来ない。その現実に貴族達は困惑し、何度も何度も何度も魔法を発動させようと試みたが、魔力の残滓すら体内から出すことが出来ずにいた。



「こっこんな馬鹿な!! 何かの間違いに決まってる!!」

「貴様!!俺達の身体に何をした!!」

「こんな事があってたまるか!!」

「…これは …一体どういう…」



王女もまた目の前で起きている現実を前に困惑していた。学園内で上位の成績を出している者から魔力を感じる事ができないからである。性格は悪いが彼等の実力は騎士団へ内定を貰うほどの実力を秘めていた。そんな彼等からどんなに小さな魔力も感じる事ができなかった。そして遂に魔法を発動させる事ができずに終わり貴族達は生きる気力を無くしたような表情をして絶望していた。その姿を見た王女は、この惨状を招く事となったエル達へと視線を向ける。王女は後ろに髪を束ね、エル達に身体を向け腰に帯刀している剣を抜いた。




『何か面倒なことになりそうだよ』

(そうだな…こんな事をしている場合じゃ無い、近辺の教会のある領地へ向かわなければならない)

(それはなぜですか?)

(どっかの領地で勇者が現れるとサクヤさんが言っていた)

(勇者…ですか…)

『どうせ…大した勇者じゃないでしょ 言っても意味ないよ!

それよりも……』

(ん?)

『あの王女ちゃんが、只では帰してくれそうもなさそうだよ』

(成程)

「一国の王女としてこの問題を無下には出来ない

お前達を捉えさせてもらう …抵抗すれば命はないと思いなさい」

「ミカル王女!?」

「言っておくが魔力を消したのは俺じゃないぞ?」

「その話信じると思うの? 村崎エル」

「!」

「…村崎?」

『へぇ…』

(あぁ、見られたのか あの時の〈鑑定〉スキルで)



捉らえる、もしくは処す。ミカル・クロフトは戦闘態勢に入った。原因不明とは言え国民である貴族達に害を与えたと思われ、エルは敵とみなされた。ミカル王女が戦闘態勢に入ると周りにいた貴族を含める生徒達はその場から離れ校内へ避難するように慌てた様子で駆け込んで行った。ミカル王女はエルの下まで歩みを進めエルに殺気を放つ。シウラに気付かれ〈鑑定〉スキルの発動を妨害されていたが、ミカル王女は〈鑑定〉スキルで一瞬名前しか映らなかったがエルの名前がその目に映り、エルが[和名持ち《ネームド》]だと見破る。



「〈渦雷飛龍〉」



ミカル王女が魔法を唱えると稲妻がミカル王女へ直撃し身体中から電気が流れバチバチと音が鳴り、身体へ纏わせていた。



「雷属性か 命知らずな王女だ

いいだろう相手を…」

「お待ちくださいエル様ここはわたくしが」

「そうか、なら任せる」



エルは刀身の無い剣を抜き〈錬成〉を発動させようとしたが、シウラがエルの前へと進み自らミカル王女と戦う事を選択した。シウラはミカル王女の前へと向かうと、マントを脱ぎ口元を隠していたマフラーを解き、顔を隠す事をやめた。



「……エルフ?」

「貴方様のお相手はわたくしが致します」



アイヘス王国へ入国してから周りの人々からはエルフだとは気づかれてはいなかった。人間に注目される事は苦手である前に、この国でエルフの奴隷を確認してからこの国には嫌悪感を抱いていたが、それでもシウラは自ら正体を明かしミカル王女へ戦いを挑むつもりでいた。シウラは風魔法を発動させ戦闘態勢に入った。全力で相手をしてミカル王女を地面へと身体をつけさせるために…



「〈ーーーー幻風獣〉…〈ーー獅子〉」



シウラは発動させた魔法で、風が5頭の獅子へと形作る。シウラは手加減するつもりは無かった。




[アイヘス王国第二王女]ミカル・クロフトvs[エルフ■■]シウラ

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