第11話 二人目の

カミヤセンは4人の貴族が正門近くで2人の人物と言い争っている一部始終を目撃していた。カミヤセンはエルに視線を向け、騎士長に連れられていた男だという事を覚えていた。その時に普通とは違う雰囲気、佇まいからカミヤセンの警報が最大限で鳴り確信した。目の前の人物がどのような存在なのか王女が認識できずにエル達に〈鑑定〉スキルを発動したその時、一本のナイフが王女の右目に糸が繋がっているかのように真っ直ぐ向かって行くところをカミヤセンは反応し、ナイフを掴む。全ては王女を守るべくとった行動だったが、ナイフに掛かった付与がカミヤセンの予想を上回る力が付与され魔法による防御が遅れカミヤセンの右手が肘まで切り刻まれ、その後にカミヤセンはシウラに向かって魔法を放つが上空へと流され最後には爆破させた。この出来事が1秒も満たない間に行われた。魔法を爆破させたエルはここに来た目的を思い出し口角が上がっていた。



「お前あの時の」

「覚えていたか 自自己紹介の手間が省けて助かるよ

俺は元からお前に逢いに来たんだけどな」

「理由が見当たらないな、お前とは初対面なのだから…厳密に言えば二回目か」

「そうだな、あの時俺は手枷をして連行されていたけど…お前に会うと決めたのはあの時だ」

「あの時に?」

「お前から明らかに人とは違うものを感じた」

「………」



エルのその言葉にカミヤセンは僅かだが反応した。カミヤセンは幼い頃から周りの人間関係は良くなかった。化物、悪魔、普通じゃないなど数々の心無い言葉を浴びせられ、肉親ですらカミヤセンを蔑む…カミヤセンの周りには相談できる相手や味方が居らず、軍事目的で利用するものばかりである。その中で2人だけがカミヤセンを同じ人間として接する者がいた。アイヘス王国第二王女のミカル王女と騎士長ビーギルであった。彼女は王女という立場故に護衛をつける事を条件として学園への入学を許され、その時に選ばれた者がカミヤセンであった。カミヤセンが選ばれ顔合わせの時、王女のカミヤセンへの第一人称で王女は不気味に感じていた。だがある日突然、王女の心境に変化があった。カミヤセンが、王女の変化の心当たりがあるとすれば、1つの動作からである。ある日、突然、前触れもなく王女はカミヤセンの後ろに立ち、名を呼び振り返ったところで王女は両手をカミヤセンの頬に当て、自身の額とカミヤセンの額を当てた。その時から王女はカミヤセンを同じ人間として見るようになった。あの動作から王女はカミヤセンの何かを知った。そして王女が何かを知っているように、エルも何かを知っているという口振りをしていた。



「お前何を知っている。」

「何をと言われても…俺は自分の目で見た事を話してるだけだ」

「…俺には何も見えないが?」



カミヤセンは嘘を言ってはいなかった。自分の目で見たもの聞いたもの感じたものをありのままにエルに話していた。何かを知り何を見ているのか、そしてエルのその瞳には何が映っているのかカミヤセンには理解できていなかった。



「……本当にそうか?」

「…………」

「本当に見えていないのか?感じ取ってないのか?お前の五感全てを使ってもわからないか?」

「…………」

「お前ほどの奴がわからないはずがない…

お前は人の視線を恐れ無意識に力を抑えている…」

「…………違う」

「認めたくない、俺は普通だ、そう思いたくて仕方がないはずだ」

「……黙れ」

「認めろ、お前は人とは違う 希望を持つだけ無駄だ

俺もその一人だからな」

「何?」

「お前[和名持ちネームド]だろ?」



エルは連行時にカミヤセンを見た時から確信していた。カミヤセンが[和名持ちネームド]であると言う事を…

そしてエルの言う通りカミヤセンは無意識に自分の力を抑えていた。力を抑える理由、「それは普通でありたかったから」

膨大な力のせいで人として扱われず、肉親に嫌われ、半端無理矢理に騎士団へと所属させられ、常に戦いを命じられていた孤独な男のたった1つの願いであった。成人していないという理由で学園に通わせ、王女の護衛も兼ねて国の戦力を逃さぬように縛り付けられる形となっていた。カミヤセンは自由を奪われ、戦奴隷としての扱いとなり精神状態が不安定になる日も少なくはなかった。その中で王女や騎士長は他の国民と同じように接してくれていた。その小さな配慮、それだけでカミヤセンは救われ、そしてこの世界を憎んだ。何故自分だけが違うのか、何故自分なのか、何故こんな目に会わなければいけないのか、何故自分が[和名持ちネームド]であり神屋かみやセンなのかを考えに考えても答えなど出るはずが無く、認めたく無くとも認めるしかなかった。




「昔はなかった膨大な力に戸惑った そうだろう?

だがな、力を抑えたって俺達の現状を変えられやしない、そしてこれから先変わることは無い」

「………」

「人は弱い…だから力を欲し、貪欲に強大な力を手に入る方法があるならばどんな危険な事でも躊躇しない…それが人間だ。」

(あぁ…わかる)

「人間が[和名持ちネームド]を化け物扱いするのは、強大な力を保有する俺たちが羨ましいからだ

人間では決して的することができない力を持ち、人間では決して届かない領域に足を踏み入れている俺たちが羨ましいんだ

だから縛り付け自分の欲と為に利用する…

お前の今の現状のようになる」

「………」

「ハッ!狂ってやがる… 汚ねぇ生き物、亜人達の考えがよくわかるよ

それは俺たちにとって宿命みたいなものだ」



普通ならば周りの者達同様に「巫山戯るな」と言うところだろう。しかし神屋センは否定しなかった。今まで見てきた人の行動を思い返すと、全てエルの言う事が脳内でパズルのピースがピタリとハマるようになり、納得してしまうのだった。



(昔はこうじゃなかったんだけどな)



自身が[和名持ちネームド]と判明したとき、周りにいた人々の目が変わり、モノと認識された時の事は神屋センにとって忘れられないことだった。

「俺たちのことを化物だ、なんだと言うが、人間様は本当の化物を知らない…なぁシウラ」

「…そうですね」

「?」

「……力抑えるのやめて、上を見りゃわかるよ」

「……上?何も無いが?」

「はぁ?そんな筈……えっ…」



エルに言われ神屋センは力を抑えるのをやめるが、周りの生徒達が気づく様子は無い。

一定の強者しか感じられぬ膨大な魔力は神屋センの体内から吐き出された。神屋センの魔力を普通の人間達が感じることができるのならば気を保つものはいない…そんな魔力を神屋センは体外へと放出した。そしてエルの言う通り抑えていた力を解放し上空へと視線を向けるが、そこには漂う雲と熱く照らす太陽があるだけであった。その反応に疑問を抱きエルも上空へと視線を向けるが、上空からは何も感じることはできなかった。そう上空からは…


上空に何もいないことを確認し、シウラに話しかけようとした瞬間…時が止まりエルの後ろから冷気が肌を突き刺し喉元に鎌を突き付けられたような感覚になり、エルの全身から汗がものすごい勢いで流れ身動きできない状態に陥った。



(うっ…)

「よう…エル…私の愛しい弟よ」

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