第10話 一瞬の攻防
エルが魔法を消し飛ばし、その場は暫く沈黙に包まれた。その中で微かに聞こえる音は、シウラの元へと歩むエルの足音だけである。貴族達は目の前で起こった事により頭の中が混乱して状況を整理できずに目を見開いたままその場から動かなかった。エル達を囲っている生徒達が硬直してる姿を見ると、エルはシウラの元へと戻った。
「エル様、魔法を消滅なされるのでしたら〈防御結界〉は必要なかったのでは?」
「何でそう思う?」
「エル様が魔法を逸らし被害を広げるような事を絶対になさらないからです」
「被害? ……あ〜、俺は魔法による被害を出さないようにしたわけじゃ無いよ」
「他に理由が?」
「そりゃあ上見りゃわかるだろ?」
「…あの場所まで彼らの魔法が届くとは思いませんが」
「念には念を、万が一って事がある
ただ、上にいっただけでも俺が殺される」
「……そうですね」
『ん〜アイツはそんな理不尽な事しないと思うけど?
理不尽な事するのはもう1人の方だけだからそこまで考えなくても良くない?』
「さっきも言ったが念には念をだ 絶対無いとは言えないからな」
『ふーん』
常に冷静に考え視野を広げる事で周りの景色がよく見える。貴族がどんなに罵声をエルに浴びせて来ようと怒りは湧き出ない、エルには貴族からの罵声を動物の鳴き声だと認識していた。エルは最初から眼中に無い。それでもシウラに〈防御結界〉を発動させ展開させたのは、上へ注意を払ってのことだった。エルはシウラに〈防御結界〉を学園に覆う形で発動させる事で貴族達の放たれる魔法がエルに消滅した時に、魔法の残滓が上へ流れないようにしエルの考える最悪の事態を避けた。エルは〈練成〉を解除し刀身の無い剣を鞘へ収める。
そして学園の生徒達の大まかな実力を知りここで得るものはないも無いと判断したところで当初の目的を忘れ学園を去ろうとした。するとそこへ
「これは何事!?」
去り際に背後でこの学園の生徒らしき女性の声がした。
エルは振り向かずとも声の高さ、振動、発音、音色などで発生源である人物の認識を行うことができる。しかし声を聞いたところでエルは歩みを止めることはない、真っ直ぐ学園の校門から外へ出ようとし歩み進めた。
「ちょっと!そこの2人待ちなさい!」
耳に響くような高い声でエル達は呼び止められる。エルは後ろを振り向き声の主の姿を確認すると、貴族A、B、C、Dはその女性の後ろでひれ伏している。それは周りにいた生徒達も同じ格好をしていた。その行動からその女性が身分の高い者であると感じられるが…
「誰?」
「な!?」
エルには関係無い、どれだけ身分が高い者でも低い者でも、全て平等に接するエルは対応を変えることはない。そもそもエルにはアイヘス王国の知識が皆無であり、その人物がどんな存在であるかもわからない。
「私を…知らない?」
「知らない」
「貴方この国の者では無いの?」
「あぁ、来たばかりだな」
「………そう…なら自己紹介をしないとね
私はアイヘス王国国王バンハード・クロフトの次女であり第2王女ミカル・クロフト
以後お見知り置きを…」
「そうか、じゃ!」
「まだ話は終わってない!!」
彼女はアイヘス王国の第二王女だとエルに名乗り、自己紹介が終わったところでこの場を去ろうとしたが再び呼び止められることとなった。
「この状況を説明してくれる?」
「お前の後ろにいる奴らに聞いてくれる?」
「いいえ?貴方の方が正直に話しそうだから貴方に聞く事にするわ」
「……騎士長に勧められ、校門から中に入り学園長の元へ行く途中で絡まれ今に至る…
以上」
「ビーギルさんが?」
「びーぎる?」
「騎士長の名前では?」
「あぁ~」
『へぇ…
王女のミカルは右手で顔を抑え考え込むみ指の隙間から疑いの目をエルに向けていた。見ず知らずのものを信じるかと言えば信じられないだろう、だが王女は後ろにいる貴族達をよくは思っていなかった。王女のこの反応は普通だとエル自身も思っていた。しかし王女のその目は疑いでは無かった。それを瞬時にシウラが察知し魔法付与のかかったナイフを指と指の間から覗く王女の右目を目掛けて投げる。それと同時に横から王女を守るものが現れ、この後コンマ1秒にも満たない攻防が行われた。
「(〈鑑定〉スキル!! 魔法付与〈振動〉、〈斬鉄〉、〈貫通〉)
「シウラ!早まんな!」
「えっ?」
「クッッ!…(あっっっっぶね!)」
「!?(素手で!?)」
「! マジか!」
「(!…右腕が なんて威力だ)
「!!(光魔法!?)
〈
普通の人では決して目では追えない人間離れの速度での攻防がこの場で起きた。まず最初にシウラが王女の右目を目掛けて魔法付与付きのナイフを風魔法を加えて投げた。そして王女の横から従者らしき人物が王女を守るべくして、エルとシウラが見え、周囲の生徒達の目には止まらぬ速さで王女の前へと現れシウラの魔法の掛かったナイフを素手で掴み、風魔法により掴んだ手は、制服の袖まで切り刻まれ右手の肘まで切り傷がつけられ、左腕でシウラに向かって魔法を放ちそれをシウラは風魔法で上へと受け流した。流された魔法が上空へと昇って行く光景を目にしたエルは魔法を流した。エルはシウラが魔法を避けるのではなく流した事については何も言うことはなかったが、受け流した方向に問題があった。
「しまっ…」
「!!! 馬鹿野郎!!」
「すみません!!」
「〈空間認識〉、〈魔力感知〉、〈照準〉魔力セット!
〈
ドガァァァァァァァァアンッッッ!!!!
魔法を受け流した後でシウラも自分の過ちに気づいた。
流石にこれはマズイと判断したエルは今出せる魔力を体全体に流し上昇する魔法への対処を行わなければ自分の身が危険であることを承知していた。エルは2つのスキルと2つの補助魔法を駆使し、エルもまた上昇を続ける魔法に目掛けて魔法を発動させ流ことにより、エルの発動させた魔法は相殺、消滅というよりも破壊に近い形になり魔法を爆破させた。
この魔法は攻撃というよりもカウンターに近い魔法である。魔力の塊であるものを対象とし、一点に集中する魔力を標準に合わせ、集中する箇所の魔力を膨張させ魔法の限界度を超える事により爆破する形となる。わかりやすく例えると、魔法を覚えたての子供が自分の持つ魔力の限界を超え暴走状態になり爆破する現象であり、その現象をエルは攻守両用が可能な魔法として生み出した。
「フー…何とか最悪の事態は免れたな」
「お手を煩わせ申し訳ありません」
「気にするな」
この日一番の大きなひと騒動を上手く抑え、一息つくと、エルは王女の方に体の向きを変え王女の目の前に立つ者へ視線を向けた。
「よぉ、また会ったな カミヤセン」
エルは第二王女の従者らしき人物を見て当初の目的を思い出した。この学園へと訪れた理由が王女の目の前に立つ男に会うためであった。そして短い攻防でエルとシウラがこの国で一番の実力者であるだろうと確信した。アイヘス王国騎士団所属のカミサセンがエル達の目の前へ王女を守るようにしてそこに位置していた。
(厄介なことになった)
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