第8話 登録を終えて

「態々教えてやらなくても良かっただろ」

「しかしエル様、あの様な中途半端な魔法で見られていたのですよ?

エル様が同じ事を成されたらお姉様方から鉄拳が飛んできます。」

「それは間違いないな」



あの場でギルドマスターが2人を見ていたことは勿論エルも気付いていた。気付いていながら何も言わなかった。只思う事は「所詮この程度か」と思うだけだった。相手はギルドマスターでありこの国の冒険者のトップであり、殺気や敵意を駆け出しである冒険者が向けてはいけない。しかし2人は普通ではない、ハッキリと言ってしまうと異常である。

その事をギルドマスターはわかっていた。だからこそ悩む、駆け出しである2人を襲撃する冒険者がいるという事に…

ギルドの規則では冒険者同士で争う事を禁じられているが、中にはそれを破る者が多く存在し、報酬の横取りや経験値の会得の為に冒険者同士で争う者ばかりであった。それ故に2人を襲撃する者が出てくると確信してしまっている。だがギルドマスターの心配事は2人が襲撃されるでは無く、返り討ちに遭い命を落とすという事だった。それは最早手遅れである。何故なら冒険者ギルドを出た瞬間に冒険者のチンピラ集団に囲まれ、返り討ちにしていたからである。その心配を他所にエル達は次の目的地へと向かおうとしていた。。



「しっかし、口だけだったな こいつら…

準備運動にすらならなかった」

「この後のご予定はどうなされますか?

宿をお探しになられますか?学園へ行きますか?」

「んー、そうだな…騎士長があぁ言ってたし、学園にでも言ってみるか」



倒れているチンピラ冒険者を蹴り飛ばし、エル達は騎士長の勧めで学園を訪れることにした。王国騎士、魔導師を育てるために設立した学園であり、国の兵士や騎士団、冒険者になるためにありとあらゆる知識を学べる場所であるが…

エルはそんな事はどうでも良かった。



「あそこには面白い奴がいた」

「女性ですか?」

「そんなわけないだろ」

「……あぁ…わかりました

あの彼ですね」

「知ってるのか?」

「えぇ、一瞬ではありましたが

あの学園を横切る時に余りにも場違いな程の実力の持ち主を見かけました」

「へぇ…じゃあお前から見て彼奴と俺、強いのはどっちだ?」

『エル〜!』

(お前は黙ってろ クソ女神)

『ひどっ!!』

「………そうですね…実際に戦って見ませんとわかりかねますが…彼の方にはエル様と同等の秘めた力をお持ちになされているようですし…」

「………」



シウラはエルが連行され通信魔法を使いエルの居場所が分かった時、王城まで全速力で走ってきた。その時に学園の横を通り過ぎた時にカミヤセンの姿を目撃し、その体から放たれる異様な魔力のオーラを感じ取ったのだろう、とエルは思っていた。

シウラは学園の前を横切ろうとした時、確かにあの学園内にいた者からエルと似たような雰囲気をシウラは感じ取っていた。最初は目を疑った…その雰囲気が余りにもエルから放たれる者と同じだと思わされたから…

しかしあの者から放たれる魔力のオーラはシウラが見てきた者達とはまるで別物のように思っていた。長い年月を生きてきたシウラが見てきた強者だと思っていた者達の魔力のオーラは殆どの者が未完成だと言わざる得ない物であったが、その者達の放つオーラはしっかりと形を作っていた。しかしあの時シウラが見た表のオーラは澄み切った光を放ち神々しく輝いていた。その反面、禍々しいオーラをその身に宿している事をその時に感じ取っていた。普通では個人が持つオーラとは1つしか無く、その体から放たれる魔力の根源たるオーラはそのものがどんな人物であるかを形作っていた。しかし世の中には2つのオーラを持つ者がおり、表と裏のオーラをその身に宿す者がいる。あの学園にいる者と、シウラの横にいるエルがそうである。



(おい…此奴、何か感じ取ってんじゃないか?)

『……私の存在自体は知られていないと思うけど…エルの持つ魔力がもう1つある事は知っていてもおかしくないよ』

(何で?)

『だってシウラちゃんは精霊が見えるんだよ?

表裏のオーラが見えてもおかしくないよ』

(………そうか…)

『だからとは言っては何だけど…

シウラちゃんは隠し事が嫌いだよ』

(そうだな… どう切り出せばいいのかわからんけど)



シウラは嘘や隠し事には敏感である故にシウラには嘘をつけない、だからエルはシウラには悟られぬようにアリスの事を隠し続けていたがシウラはエルの隠し事を気づいていてもおかしくはなかった。しかし此処でシウラの呆れたような表情をしていることで、エルはおかしなことに気づいた。



(ん?そういえばお前…精霊が騒いでるってシウラに教えてたよな?)

『うん、それがどうし……あ…』



アリスはシウラの方に視線を送ると、バッチリと目が合った。

シウラが呆れた表情をエルに向けたのでは無くアリスに向けていた事を此処で初めて気づいた。精霊が騒いでいる事をシウラに教えたのは間違いなくアリスであり、それにシウラは間違いなく反応した。この時点でシウラはアリスの存在を知っていたのだ。



『………いつから?』

(最初からです)

「………」

(エル様が何かをお隠しにしている事は分かってはいましたが…

エル様がお隠しにしているアリス様が、御自分からわたくしに話し掛けたりして来てましたよ?)

『あっあれ〜?』

(………お前)

(この思念伝達もわたくしにも聞こえていましたよ?)

(…え?)

(しかし、エル様がそれに気づかずにアリス様とお話ししているので、僭越ながら聞こえないふりをしていました そしてお忘れかと思いますがわたくしに精霊が見えるということは同じ霊体の女神であるあなた方女神様の姿が見えてもおかしくはないのですよ)

『………』

(………)



エルは衝撃的すぎるシウラのカミングアウトに恥ずかしくなっていた。シウラの正論が胸に刺さる。エルはシウラに申し訳ない気持ちになっていた。



「……穴があったら入りてぇ…」

『時にはこんな事もあるよ!』

「テメェの所為だろうが!!!」

「エル様!声が外に!」

「知るか!!隠し続けてた俺がバカみてぇじゃねぇかよ!!」

「……それはお察ししますが…一般の方々からはアリス様の姿は見えませんし、声は聞こえませんよ?」

「デカイ独り言だと思われとけばいいだろ?

俺は気にしない」

『気にしようよ』

「………エル様がそう良いのならわたくしは何も言いません」

『いや、言おうよ』



完全に開き直ったエルを止める者はいなかった。

シウラに上手く隠していたつもりでいたが隠しているものが自ら自分の存在を教えに言った事実があるが故に、これ以上周りに隠しても意味はないと自分の中でエルは結論付けた。予想外の事はあったが、こうした会話をしているうちに学園の前へと辿り付いていた。無駄に豪華な校門を目にして、エル達は考え込む。ギルド本部と比べると、無駄な所に金を使っていると言ってもおかしくはないほどに学園は立派であるからである。



「此処か……シウラはそのまま顔隠しとけよ それか人間に擬態しろ」

「言われるまでもなく」

「なら良い…

さてと、プライドの塊集団の実力がどんなもんか拝見しますか!」

『うわぁ…性格悪』



エルフであるシウラには引き続き顔を隠してもらいエル達は学園の中へと入る。この国は見た限りではあるが多種族の存在は確認できず、逆に多種族の者達の奴隷の姿を見かけていた。奴隷の中には人間の他にも獣人やエルフの奴隷達の姿がエルの目に映り、奴隷だけでは無く人身売買なども行なっていた。その光景を見たシウラの憤怒を奴隷達を目にするたびに落ち着かせた。今シウラの正体を教えるわけにはいかないからである。



(この国、エルフを敵に回したな くわばらくわばら)



そして見学の目的で学園内へと入り騎士長が話しておくと言っていたので学園長の元へと訪れる事にした。その時…



「おい!!そこの薄汚い下民!!

誰の許可を得てこの学園へ足を踏み入れた!!

此処は貴様らのような奴らが来るところではない!!」



貴族A、B、C、Dに絡まれた。

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