第5話 合流

緊急会議は結果としては何も進歩がないまま終えた。

情報を提供し、用済みとなったエルは騎士団長に連れられ王城の入り口まで送られた。



「もう捕まることのないようにな」

「何もしてないだけど」

「そうだな…何がともあれ協力感謝する

あんな内容のない会議に出席させたことを詫びる」

「へぇ〜、あんたもそう思ってたのか」

「そりゃそうだろう?あれではロクな対策案は出ない…正直アレをどうにかしないといけない」



王国に仕える騎士長の口からは普通ならばありえない事である。普通ならば王に仕える騎士団はその忠誠心の高さから王の発言する言葉な第一としている故に自分の考えや意見を自分の胸の奥へとしまうものだが…



「ちゃんと考えているんだな、てっきり脳筋ばかりかと思った」

「…………お前そんなこと思っていたのか」

「いやだってよ…あれを見れば誰でも能無し集団だと思うだろ?」

「……お前はセンと同じことを言うな」

「誰?」

『ほら、あの学校の前でこの人と喋っていた…』

「あぁ…あいつか…あいつが何だって?」

「昔センも同じことを言っていたよ」

「ほぅ」



名前を忘れかけてはいたが、アリスが小声で誰のことを指しているのか教えたおかげでセンが誰なのか思い出していた。そしてあの会議を見て得ると同じことを考えていたと騎士長は話していた。



『後方注意』

「ん?」


ドドドドドドドドドッッッッ!!!


アリスが後ろから何かが迫ってくるのに気づくと空かさずエルに報告する。その言葉を聞くとエルは後ろを見る…するとものすごい勢いで何かが走ってくる。走ることでそのものの後ろから土煙が二階建ての建物よりも高く舞い上がっていた。あれはどこに向かって走り何を目的としているのかは直ぐにわかる。騎士長はというと、王国内であり得ない光景を見ている自分の目を疑っていた。あれは魔物や魔法ではなく況してや馬車でもなく…人が王城までの一本道をひたすら真っ直ぐに走ってきている事に驚きを隠せずにいた。


「……あー…〈衝撃吸収〉、〈物理攻撃無効化〉、…あと何だ?…〈風圧相殺〉…」

「何をしている?」



エルは次々と魔法を発動しあらゆることを想定して待ち構えた…

騎士長は何故エルが魔法を発動しているのかわからなかった。あれがエルのもとに来るのは間違いなかったからである。あれの正体それは…



『涙の再会〜だね!』

「よし来い!!」

「??」

「エーーーーーーーールーーーーーーーーさーーーーーーーーーまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーー!!!!!!!!」

「うごぉっ!!」

『うわぁ…容赦ないね〜〜』



ものすごい勢いで走って来る正体はシウラ、美しい姿、整った顔立ち、文句のつけようがないスタイルのエルフだ。しかしその美しい姿を騎士長には確認できない。マントを羽織ることで体を隠し、フードを深く被る事で顔を確認できなくしエルフである事を隠していた。

そして全速力でエルの下まで走り、エルの腹にシウラの人間ミサイルと呼べるものが直撃した。土煙をあげるほどの速度の走りからのエルの腹へと飛びついた。魔法を発動させているとはいえ、エルの腹にダイレクトアタックしエルは数センチその衝撃で後ろへと下がり、踏ん張りをきかせていた右足は地面へと埋まっていた。

〈衝撃吸収〉〈物理攻撃無効化〉の2つの魔法を発動しているにも関わらず、その衝撃はエルの骨の髄まで響き渡り、エルは魔法の効果とは別に身体能力で骨が折れる寸前で衝撃を殺した。そしてこの時〈風圧相殺〉を使わなければ騎士長はおろか城の警備兵まで吹っ飛ばすこととなっていた。



「どれだけ心配をしたとお思いですか!!」

「…ゲフッ…悪かった……シウラ…心配させたのは悪かったが…もう少し速度を落として欲しかったな。」

「えぐ…えぐ…ひっく……

うぅ…あの場に…エッ…エル様の……いくら探してもエル様のお姿が見当たらず……てっきりわたくしをお捨てになられたのかと……」

「捨てる?誰が?誰を? そんなことするわけないだろう

あと俺の服で鼻をかむな」



シウラは人目を機にする事なくエルを力一杯抱きしめ泣きじゃくる。そして鼻をかむ。シウラの涙でエルの服は、絞れば水滴が落ちるほどに濡れ鼻水までもついていた。エルはシウラの肩を持ち引き剥がそうとするが、シウラの心境を察し頭を撫で、シウラが泣き止むまでその場から動かずにした。



「……なぁ、感動の再会のところで悪いが、聞きたいことがあるんだが」

「何じゃい?」

「 お前ランクいくつだ?」

「………ランク?ランクって何?」

「あ?お前冒険者じゃないのか てっきりそうだとばかり」

「いや?俺は冒険者じゃねぇよ?」

「は?じゃあ何であの場所にいたんだ?」

「何で?そりゃ……偶然だ。」



エルは冒険者ではない、故に騎士長の質問を答えることができない。この世界には勇者と呼ばれる者がおり、また冒険者と呼ばれる者がいる。勇者は簡単に例えて仕舞えば魔王を倒す存在であり世界を救う存在…冒険者はその国ごとに冒険者組合、ギリドで管理され、登録すればギルドカードが発行される。それがその者の身分証にもなり他国へ入国する際にはギルドカードを提示しなければならない。そして、冒険者は魔物を狩りまたは国を守る存在であり冒険者は、

G、F、E、D、C、B、B+、A、A+、S、SS、SSS

の12階級の強さの順番でランクづけをされているが、この世界で最高ランクの冒険者はSが最高でありSSSやSSは、存在しないと言われている。正直、Bまでは魔物討伐や依頼をこなせば簡単にランクは上がるが、その上のB+は強者のみが許されるランクである…因みに冒険者ではないがアイヘス王国騎士団の実力はBランクである。



「…………偶然?」

「偶然」

「偶然あの場所にいて戦争が起こってドラゴンが来た?」

「そうだよ?」

「………」

「嘘じゃねえよ?」

『いやいや…嘘でしょ。』

(お前は黙っていろ)

「……この後の予定は?」

「何にもなし ノープラン」



騎士長の表情には、困惑と呆れの文字が出ていることが手に取るようにわかる。その感情は決して間違ってはいない。エルはこの国に滞在するまでの道程の殆どが直感で動き、目的もなく旅行気分で世界を自由に歩き回り、世界の知識を蓄えているがエルはその知識を正しく使おうとはせず、何にも縛られずに世界を見てきた。自分がそこに居たという形跡を残さず、関わらず、繋がりを避ける。人は必ずしも何かと繋がり暗雲が迫る。だからエルは人と関わろうとはしなかった。気分で動き、助けを求める者を助ける時もあれば見捨てる時もあり、これが最善である行動しかエルはしなかった。それ故にエルは冒険者なる事を拒んでいたが……



「エル様、もし御時間が御座いましたら冒険者登録をしませんか?」

「ん?もう泣き止んだのか」

『今日は早いね』

「はい…もう涙は出ません」

『目元を真っ赤にして何を言っているんだか…』

「ふーん…で、冒険者登録?必要無い」

「いえ、今後の為に登録を為されても損はありません」

「メリットは?」

「情報力です」

「尚更必要無い」



泣き止んだシウラがエルに提案した事はギルドでの冒険者の登録であった。

しかしこの提案にはメリットがなかった…冒険者になっても現状と大差があまりなく、エルが望むようなことが1つもない。金に困っているわけでもなく、英雄になりたいわけでもない、シウラが出したメリットはより多くの情報を得られる…そんな提案をしてきたが、多くの知識を持つエルには必要なかった。しかしその後のシウラの一言で冒険者登録をする事にしたのであった。



「………お姉様方の事でもですか?」

「よし!登録しよう」

『………』

「?」



先程まで冒険者になることに消極的だったエルであったが、見事な切り替えの早さを見せた。エルが冒険者登録をしようと思った理由

それはシウラが放った「お姉様方」の一言でエルの考えは大きく変わった。エルはその一言を聞いただけで冷や汗が止まらず手が震えていた。そう、エルには姉がいる、そして姉の情報としてメリットを感じたシウラは、このキーワードを出せばエルは必ず承諾すると確信していた。その様子を見ている騎士長には当然理解できているわけがなかった。

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