第4話 無意味な会議

会議が行われている場所に到着してから30分が過ぎ中身のない会話に時間だけが過ぎていく。この状況にエルはただ座っているだけだった。



「なぁ……帰っていいか?」

「ダメだ」

(はぁ…暇だな)



夢物語を語るだけの会議に出席するだけ無駄だと思っていた。実現できるかわからない、成功の目処が立っていない話ばかりをこの場でしている。それに騎士長は会議が始まってから姿勢が一度も崩れていない。真面目すぎるのもどうかと思うのであった。



『退屈〜』

(そりゃ俺もだ)

「なんか言ったか?」

「いや、何も…」



何もやる事がないとアリスと[しりとり]しかやる事がなかった。

30分の間ずっと何回も何回も…

[しりとり]が終わったら、今度は我慢大会が始まる。アリスが笑いを誘い、エルが笑いを堪えるという事をやっていた。アリスは自由に飛び回り、会議をしている状況の中、エルを笑わそうとしてきた。それをエルは必死で堪えていた。

腹筋が攣りそうになるくらいに…



「で?そこにいるのは誰だ?」



長々とした会議の中やっと1人の議員がエルを見て問いかける。その問いに騎士長が答える。



「この者はチタウ王国とウメツ王国、両国の戦争時に現場にいた者です。」

(へぇ…そんな名前の国だったんだ。)

「現場にいたこの者が現場の詳しい状況を提供してもらうために、無作法ながら私の独断でこの場へと連れてまいりました。」

「ほぅ…」



騎士長が説明を終え、エルはあの状況を詳しく嘘も混ぜ合わせながら議員達に伝えた。あの場にドラゴンが舞い降り辺りの兵士を一掃し、自分だけ助かり必死に逃げてきたと伝えた。

死体を自身の上に被せてドラゴンに見つからないように息を潜め、場を脱出したから自分の体は血で染まっていたのだと、恐怖で怯えた演技をしてエルは説明をした。



『嘘つき、ドラゴンなんてあの場にいなかったよ?』

(信じられない話ではないだろ?

あの場所はドラゴンの生息地である山脈の近くにあるからな)

『生き残りがいたらどうすんの? 嘘ってバレるよ?』

(いたら…の話だろ?

この国は俺の話を信じるしかない…確かな情報を持っていない)



情報の一つも入手していない国は、唯一情報を持っているエルに頼るしかなかった。

アイヘス王国の近辺に位置する国々は常に領土を巡る争いをしていた。勝負はより情報が多い方が有利…これは常識な事である。争いごとが絶えず領地の奪い合いを何年も続いている。中でもチタウ王国とウメツ王国の争いは長年続いているものだった。奪い奪われの連続を繰り返し、そこに水を差したのがエルであるということをこの場にいる者たちは、まだ知らない。知らないから例え無害であっても警戒をする。今この場にいる者たちはエルの情報に頼るしかなかった。無駄に警戒をして無駄な対策案を出していた。そしてチタウ王国とウメツ王国の対策は数分で終わり、次の議題に移った。魔王の問題や他種族による領土問題、そして、帝国が戦争の準備ことの話し合いを始めた。この状況にエルはうんざりしていた。

この場に残って会議に出続ける意味が皆無であるからであった。

そんな時、通信魔法がエルへ送られてくる。



(〈メッセージ〉)

(ん?)

〈エル様!今どこにおられるのですか!!〉

『シウラちゃんだね』

(〈あぁ……悪い、今アイヘス王国の王城にいる〉

〈どういう事ですか!!何故アイヘス王国にいるのです!

わたくしが戻るまでお待ちになっていてくださいと申し上げたはずでは!?〉

(〈いや…だってさ、なんか戦争が始まってな?

場所を移ろうとしたところでアイヘス王国の騎士団に見つかって取り調べを受けてる〉)

〈はい?何故そのような事をなされているのです!!

何時もなら無駄な事を嫌うエル様が何故そのような事を?〉

(〈……最初は俺もあんまり乗り気はなかったぞ?

でも下手に疑われる方が面倒な事になるとは思わないか?〉)

〈思いません!何もしていないのですから〉

(〈何もしてなくはない……が…この国に来た事は無駄ではないよ〉)

〈?〉

(〈詳しい事は合流してから話す〉)

〈……わかりました

わたくしも直ぐに向かいます〉

(〈あいよ…気をつけて来い〉)

〈ぜっっっっっっったいに他の場所に行かないでくださいね!!〉

(〈わかったわかった〉)



通信魔法が切れエルは一息つく。

戦争が始まる1時間前、シウラという人物にその場で待機しているように言われていた事を忘れアイヘス王国に囚われの身となっていた。その間シウラは辺りに害をなす存在がいないか周辺の調査を行なっていた。情報提供だとは言い訳にはならなかった。通話越しに聞こえてくる啜り泣き声が聞こえてきたからである。あの場に戻り辺り一体が血で染まった光景を見て泣きながらエルのことを探していたということは考えなくとも分かる。



(……あいつには悪い事をしたな。)

『会った瞬間号泣だろうね。』

(今回は言い訳できない…黙って胸を貸すか。)

『羨ましい〜』

(ギャン泣き確定か…)



この後、声が枯れるまで号泣するであろう。

しかしエルは通信魔法を使ってもこの場に気付いているものは1人もいないことに落胆していた。魔法を堂々と使っても魔法を感知できるものは1人もいなかった。他国はこの国の騎士団及び、兵士達の武力を高く評価しているようだが、エルから見ればこの国の者達の実力は死霊アンデットと同じに見えていた。幾ら騎士団とはいえ、魔力の残滓を感知できない時点で騎士団実力の底が見えたのだが、騎士団に魔力の残滓など感知できるわけがない。この国の騎士団や兵士たちの実力はこの世界の平均であり、エルの基準がおかしいだけだった。世間では普通のことはエルの中では大した事はない、エルの中の普通は世間では非常識であった。このズレがエル達の今後の展開を左右する事はないが、普通の人間達には脅威となるのであった。

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