第3話 連行時
情報提供の理由で、エルは何故か手枷を付けられまるで犯罪者のような扱いで連行されていた。入国するなり人々の視線が痛かった。
「この扱いってどうなのよ…」
『この扱いは無いよね〜』
「すまんな、国籍も身元も不明な者は何をするかわからん。
一応、国民のことを考えてのことだ。」
「何もしねーよ。」
黙ったまま歩くのは不自然すぎると考え、騎士長と雑談をしながら街を歩く。こうして歩いて見ると、なかなか活気のある国であることがわかった。平和で街の人々もイキイキと過ごしているのが感じられた。
「この国良い雰囲気だな、嫌いじゃない。」
「争い事は滅多に起きない平和な街だ。
この国の良さはどの国にも負けていないと私は思う。」
「……だから俺みたいな奴は犯罪者みたく見えるのか?」
「ハハッ、そうだな、外から来た者は最近ろくな者がいない。
お前もそういうやつだと見られていてもおかしくはない。」
「俺は野盗じゃねぇけどな。」
この国では外から来た者はみんな珍しいが野盗みたいな者が多いらしかった。
しかし野盗が来てもこの騎士団たちが解決しているおかげでこの国の平和を保っている…そんなところだった。エルは、久し振りに人の暖かさを感じている。今迄は、ある意味命を狙われ続け殺し続ける日々であり休む時間などありはしなかった。エルには休息が必要であった。
『エル…あれ。』
「ん?」
どこかに向かう途中にアリスが何かに気づき指をさした方向に視線を送ると。
そこにあったのは、学園のような建物がある。すれ違う人々があの場所に向かっている者たちを見ると、エルと同年代の人が向かっているように見えた。
「あれは?」
「あれは魔道学校と騎士育成学校だ。
ある者は剣術や体術を学び魔法を学ぶところであったり、騎士を目指したり、冒険者になったりするための学校だ。」
「騎士になるために学校に通うのはわかるが……冒険者にも?」
「魔法を学びたいという者がこの国では多くてな……ギルドが魔法を学ぶ機関として創立した。
冒険者になりたいという者はこの世界では少なくないからな。」
「へぇ…」
「何なら調査を終えたらここに足を運んで見たらどうだ?
年齢は生徒達と同じくらいだろ?」
「歳はどれくらい?」
「16〜18の生徒だ。」
「同じくらいか…」
エルの年齢は16歳であり、あの学校の1年生と同じであった。3年制の教育機関ではあるが、通う通わないは自分次第である。騎士や兵士になる為の学校はあったが、冒険者になる為の学校など他の国ではなかった。しかし手枷をされて連れていかれている者が行っても良い場所では無いだろうと考えてはいるが、騎士長はここに行くことを進めて来た。すると前方から歩いてくる者が騎士長に話しかける者がいた。
「お疲れです
大変ですね 外の調査」
「おぉ、セン 珍しいな今日は学校に行くのか?」
「そうですね、ちゃんと行く日にちを決めてますから…行かないと酷い目に合います」
「確かにな……頑張れ
学生の本分は勉強だからな」
「うっす…明日は参加します それじゃあ。」
「おう」
騎士長と会話をした男はそのまま学校に向かう。そして一瞬エルと目があった。その時、直感的に相手が相当な実力者であることを感じ取った。あの男は強者にしか理解できない領域に入っていると…
無駄な争いを避けようとしていなければ、手枷をすり抜けて攻撃しているところだが、エルはここで問題を起こすつもりはなかった。そのままの状態ですれ違い前を向いたまま男を見送った。
「あの男は?」
「あれはカミヤセンという男で、16歳で騎士団のメンバーに入っている魔道学校の1年だ。」
「へぇ〜…」
『エルわかった?』
(あぁ……彼奴…強いな。)
『恐らく彼は和名持ち《ネームド》。
未だ女神は外に出てないようだけど…
あれは相当強いだろうね。』
気配、直感、雰囲気、仕草、全てを見て相当な実力者であることが全て物語っている。
強いものを見るとニヤケが止まらなかった。この時、学園に行く理由ができた。
争いは好きではないが、強い者との戦いは楽しい…
エルはそういう風に思っていた。これはアリスの影響を受けていることではない。これがエルの本来の性格である。そうこう思っているうちに、目的地へと到着していた。
「……ここは?」
「王城だ」
「王城?」
「これから国王にあってもらう。」
「何で?」
「言ったろ?情報を提供してもらうと
国王が会議を開いている、そこで情報を教えてほしい」
「良いのか?何処の馬の骨かもわからない奴を国王に合わせて…」
「特例処置だ」
「ふぅーん」
エルが連れてこられたのは国王のいる王城だった。戦争のことで貴族や議員達が会議を行っているところで、エルの知っている情報をその場で提供してもらうと騎士長が言った。
エルは十中八九、面倒になることを予想していた。王城に入り、アイヘス王国の軍事会議の中に行くこととなった。
カミヤセンは騎士長に挨拶をして連れて行かれる男を一目見て通り過ぎる。最初は、野党を捕まえ連れて行くところだと思っていた。しかし連れて行かれる男を見てその考えは一気に消し飛んだ。あの男はわざと捕まっているのだと。男は手枷を付けられているが、簡単にすり抜けてられる…
なのに敢えて何もしない、そんな雰囲気が漂っていた。そして一瞬目があった時、完全に隠しているようにして、騎士長にも気づかれてはいないが……
濃密な殺気を身にまとい、それが服を着ているかように感じ取った。それを見た時には全身に鳥肌が立ち、足下が震えた。
(何だ あの男は……)
もう少しあの場にいたら腰を抜かしてもおかしくはなかった。今まで感じたことのないほどの殺気をカミヤセンは感じ取っていたからである。相手の隠している実力を測ることができる、それがカミヤセンの得意とする魔法であった。あの一瞬の時間のどこで魔法を発動したのか、それはエルにも気づかれてはいない。カミヤセンは、エルを見て世界の広さを知ったが、自分が規格外の怪物の1人であることは気づいていなかった。
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