第2話 遭遇
「さてと……そろそろ行きますか」
アリスとの話を終えると、アリスは眠りエルは立ち上がり地面に刺した剣を〈収納〉魔法を発動して中にしまおうとした。しかし剣を手に取った瞬間、刀身にヒビが入っていることに気づくと地面に刺しなおす。前の戦争で何十万もの人を切り続け、剣の耐久力が限界値を超え鈍らと化し剣と呼べるものではなくなったのだ。だから剣を地面に刺して捨てた。
そしてこの場から離れようとしたエルは初めに自身の匂いを嗅ぐ。すると生臭い匂いが体から発せられることに苦い顔をした。兵士の返り血を浴びている故に血の匂いが服にこびりついていたのだ。これにエルはため息をつき、地面に転がる無数の死体を掻き分けながら戦場となった場所から離れ、体中にベットリとついた血を早急に落とすために水辺を探すことにした。
そしてエルは水辺を求め歩いていると遠くから激しい戦闘音が聞こえてくる。「また戦いか」と呆れ、その方向に視線を向け目視で確認すると複数の騎士がそこにはいた。
「厄介だな」
今の状態で騎士の前に出れば確実に怪しまれるのは当然であり、誤解を招こうにも全身血だらけで身元を証明できるようなものを持っていなかった。エルは騎士に見つからないよう瞬時に木に登り身を隠し気配を消す。そして騎士たちの動向を観察していると、その後ろで複数の冒険者が集まっていることに気づいた。冒険者たちの動向を観察していたエルは冒険者たちが視線を上空に向け騒いでいるように見えた。エルは「何をやっているんだ」と思いながら、ギャアギャア騒がしい鳴き声が上空から聞こえ目を向けると、そこには二匹のワイバーンが飛んでいた。
(ワイバーン…何でこんなところに?)
しかし冒険者たちがワイバーンの相手をしているにもかかわらず、騎士たちはエルのいる方向へ向かってきていた。
(何でこっちに来るんだ?)
冒険者がワイバーンを相手にしているにもかかわらず騎士たちが向かってくる理由は考えるまでもなく、戦争の調査だという事をエルはわかっていなかった。エルにとっては既に終わった戦争だが、調査をしに来た騎士たちはまだ続いていると思っているのだ。領土の奪い合いをしている国々では、戦争の結果次第で国がどう動くかが決まるということなのだろう。そのために騎士たちを調査に向かわせ道案内を冒険者に任せ向かう途中でワイバーンと遭遇したということだった。しかし他国は最悪の結果となった戦争を知らなかった。そして調査しに来た騎士の目的を知らないあの惨劇を引き起こした張本人であるエルはそのまま身を隠し騎士たちが通り過ぎるのを待つ。その時だった。
一匹のワイバーンが離れていった騎士たちに視線を向けて火を放った。そこまでは良かったが方向的に火は騎士たちに当たる前に、最初に木の上で身を隠していたエルに当たるのだ。
(おいおい!マジかよ!!)
予想外の出来事にエルは慌てて〈収納〉魔法で剣を取り出そうとしたが
(あっ!!さっき捨てたんだった!!
クソッ!他の剣はここでは使えない…やばいやばい!)
騎士たちは体の向きをワイバーンに向けており、攻撃に備えていた。そしてエルはワイバーンが放った〈火球〉を下手に動き、避ければ近くにいる騎士や冒険者にエルの存在に気づいてしまう恐れがあった。しかしこの状況で気づかれないための方法が無かった。
ワイバーンの〈火球〉など簡単に避けることができる魔法だが、この場で使える剣があれば切り落とし、それができないならば〈障壁〉を発動して防ぐ、それもできなければ木の上から移動しなければならない。しかし思いついたワイバーンの攻撃を防ぐための方法を使えば騎士たちにエルの存在がバレる。
この状況、エルは完全に詰んでいた。
(チッ!しょうがねぇ)
エルは〈火球〉が当たる直前でエルは上空へ飛んだ。その衝撃に耐え切れず木は拉げ、真っ二つに折れると、〈火球〉が折れた木を焼き尽くして跡形もなくなった。ワイバーンが放った〈火球〉はそのままの勢いで騎士たちへ迫っていくのを確認すると上空に浮かぶワイバーンの背に乗る。
「調子に乗りやがって!!」
右拳に魔力を溜め打ち下ろした。ワイバーンはもの凄い勢いで地面へ撃ち落とされると木々が破壊され亀裂が地面に入る。そしてその衝撃により風圧が凄まじく土煙が舞い上がった。
エルは撃ち落したワイバーンに着地すると気絶しているワイバーンに向かって魔法を発動すると巨大な魔法陣が出現する。
「
爆音とともに発動された魔法はワイバーンの鋼鉄並みの皮膚を焼き尽くすほどの高温でであり、その巨大な炎の魔法によってワイバーンの体は跡形もなく消し飛んだ。その魔法によってできた大穴がその魔法の威力を表していた。それを見た騎士や冒険者達は戦慄した。エルの魔法を表すなら災害クラスであることは間違いない。
「…………やりすぎたか?」
『なんでその魔法を選んだの?それじゃなくてもワイバーンの体を消滅させる魔法は他にもあったでしょ』
「なんかイライラしたから」
『そんな使い方をしてたら怒られるよ?
「大丈夫だ ここにあの人はいない」
『まぁそうだけどね 怒られても私は助けないよ』
「最初から期待してねぇよ それよりも水だ、水」
エルは自身の魔法によってできた大穴から何事もなかったかのように水場へと向かう。
「ん?」
「? どうかしましたか?」
「………ちょっと貸せ。」
「え?」
すると遠くの方にいた騎士は何かに気づき近くにいる騎士から槍を受け取ると勢い良く投げた。その方向は水場を求めて歩いているエルのところだった。
「ん? …チッ」
槍がエル目掛けて飛んで来たのに対し、木々の隙間からエルにピンポイントで槍がエルに向かって飛んでくる。それをエルは片手で受け止め、槍の衝撃で風圧がエルの後ろへ吹くと槍を適当なところへ投げる。エルの手には少し衝撃が残り、槍を放り投げて飛んできた方角を見ると、一人の騎士と目が合う。
「これはなかなか…」
『へぇ…人間にしては』
「威力はなかなかでも やべぇな、まだ返り血付いてるぞ…これじゃあ近くで人殺しがあったら言い訳できねぇな」
『…現に殺しているでしょ?』
「ハハッ そうでしたね」
そして直ぐにエルは取り囲まれ、どこの国の兵士かも知らない者達に相手にどうこの状況を切り抜けるかを考えていた。多く見積もっても20人、切り抜けられない数ではない。問題はエルに槍を投げて来たあの男だった。姿勢、魔力、仕草、体重の重心、呼吸、気配、全てから感じ取り、エルはあの男は他の有象無象とは違うと結論付けた。
「こっちに来てから出会った人の中で五本指に入るかな?」
『まぁ、そうだね で?どうするの?』
「目立ちたくないので戦いは避けたい」
『それで見つかったけど …この後どうする?』
(相手の出方次第…殺さず切り抜ける。)
エルは兵士たちと今のところ戦う気はなかった。
どこの国の者かもわからない兵士を倒せば国が全勢力で動く可能性が高く、余計な面倒ごとは避けるべきだと考えた。下手に動くとこの先に支障を来たし難易度がどんどん高くなっていくからだった。相手の出方次第で今後を左右する。逃げるか、仕方なく殺すか
「騎士長…どうなさりますか?」
(…騎士長?…こいつらどっかの国の騎士団か?
それにしてもワイバーンを倒したところは見られなかったのか?)
『距離があったのか、それともワイバーンを倒したのは別の何かだと思っているか』
「あの戦争の生き残りかもしれません!保護しますか?捕らえますか?」
(反応からして別の何かの方だねぇ 俺はその方が助かるけど)
「下がれ、俺1人で十分だ。」
(ふむ…どうくるか)
騎士長と言われていた男は腰にある剣を抜く。魔力を存分に上げエルの前へと歩み寄る。だがエルは動じなかった。
そして周りの騎士たちはエルを戦争の生き残りだといったが、彼等は勘違いをしていた。今目の前にいる血まみれのエルは決して戦争での生き残りでは無い、まだ知らない惨劇の元凶であることをまだ知らなかった。だが目の前の敵が剣を抜いてもエルは戦おうとせずに逃げる選択肢を探していた。交渉は無理だと判断をして。
「小僧、名はなんという?」
「小僧…まぁいいか エル・スカーレイン」
『え?何を言っているのかしら この子…』
(嘘じゃ無いだろ)
『まぁ…そうだけどさ…』
「……エル・スカーレイン…お前は何故この場所にいる?」
「………戦争から逃げて来た。
巻き込まれるのはごめんだ」
『嘘つけ!!』
(喧しい!!嘘じゃ無い…だろ?)
「…………」
エルは2人同時に会話をしているが、騎士長にその事を悟られないようにしていた。
騎士長はエルの動作や仕草を観察し、嘘であるかの判別をつけている。
嘘ならば即斬りつける…
そんな目をしていた。だがエルは嘘をついてはいなかった。戦争から逃げて来た。皆殺しにして他の者たちが来る前にあの場から逃げた。エル・スカーレインという名も嘘では無い。故に嘘を見抜かれることはない。根拠のない自信があった。
騎士長は手を顎に当て考え込むそして…
「エル・スカーレイン…行きなりで悪いが一緒に来てもらう」
「ほぅ? 何で?」
「今は情報が足らなくてな…現場にいただろうお前に情報提供を願いたい」
「現場?情報提供? 何処に連れてかられんだ?」
「近くで起きた戦争のことだ 一応捕虜として【アイヘス王国】に連れて行く
何、直ぐに釈放するさ」
『抵抗しないほうがいいんじゃない?』
(…そうだな)
「ところで先ほどのワイバーンを倒したのはお前か?」
「まっさか~ 俺の倒せるはずがない」
騎士長に疑問は残りつつも、エルは騎士長に同意し捕虜として【アイヘス王国】の騎士団に捕まることとなった。トラブルを避けるための選択が吉と出るか凶と出るか、不安もありながら【アイヘス王国】へ向かうのであった。
「取り敢えず、この血落としてからで良いかい?」
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