規格外の怪物と10人の女神

マカベクロウ

伝説の開幕編

第1話 神の存在意義

物語の始まりにしては最悪の幕開けであった。

体全身が血で染まり、辺りに転がる死体の隙間を見つけて歩いていた。彼はこの物語の主人公である重要な存在であった。そんな主人公が開始早々血だらけというこの最悪の幕開けとなったこの物語の主人公は、村崎むらさきエルという男である。彼は両手に剣を持ち顔についた血を手で拭うと、足で死体をかき分けスペースを作り両手に持つ二つ剣を地面に刺して座り込んだ。そしてエルは地面に染まっている死体の血が反映しているかのように真っ赤となった空を見上げていた。


彼がなぜ血だらけで死体の中を歩いているのかは、この惨状を見れば明白だった。それはエルのいる場所は数時間前まで戦場と化していたからである。一度始まれば止まることのない命の奪い合い、国と国の醜い争いにエルは関わりを持つことを避け早急にその場から離れようとした。しかし離れようとしたエルに向かって魔法が飛んできたのだ。エルは流れ弾ならば飛んできても仕方がないと思い、半身に体をずらし魔法を避けた。だが問題はその後だった。戦争から逃げてきたであろう傭兵がエルを取り囲んだのだ。その後に続いて何人か兵士が来ると、傭兵たちの目的はすぐに分かった。エルを殺して所持金を奪って逃走しようと考えたのか傭兵たちは不敵な笑みを浮かべていた。

この愚かな行為にエルはため息をつき、剣を〈収納〉スキルで取り出すと先頭にいる傭兵の右腕を切り飛ばした。傭兵の男は血を吹き出しながら絶叫すると男が叫んでいる間に取り囲んでいた者たちを一掃した。傭兵の男は右手を抑え出血を止めようと必死になっていると男は取り囲んでいた者たちが一斉に倒れていくことに気づき、顔を上げるとエルに剣を首に突き付けられていた。自分の命が危機に瀕していることに気づくとなぜ人は普段は信じもしない神に救いを求めるのか、男が当然のように神に願う姿を見てエルは不思議に思った。エルはこの男に聞こうかと思ったが顔が涙と鼻水で汚くなっているので止めた。そして首を切り落とした。


男たちを屠り、首を切り落した際に刀身についた血を布で吹いていると、先程の傭兵の叫び声に反応した兵士がエルの存在に気づき周りに転がっている死体を見た兵士はエルに敵意を向けた。エルは戦わなくてはいけない状況に追い込まれ、戦争に巻き込まれると、どっちの味方に付く気もないエルは〈収納〉スキルでもう一刀の剣を取り出して辺り一帯にいた兵士を蹂躙した。そして両国の兵士を何人かは逃していたがそれ以外は全部殺し、死体の血生臭いがエルの鼻を襲う。これには自分で行った事故に誰にも文句は言えず、辺りを見廻すも立っているものはいなかった。エルは自分に向かってくる兵士を一人残らず屠ることでこの場での戦争は終結した。

エルは溜息をつき、座ったまま天を仰いだ。



(……人って何の為にこうまでして争うのだろうな…)

『それは人間の心理だから、エルの納得のいく答えは見つからないと思うよ』

(女神が言うならそうなのだろうな)

『女神って言っても追放されているけどね。

でも…案外世界を歪めているのは人間でありそれを作った神かもしれないね』

(それはどうしてだ?)

『全てを作ったのは神だから

人、亜人、動物、魔物、魔族、魔人族もそうなのかな……

これらを全て作ったのは神、全知全能をはじめとする神々がこの地で生きている生命を作ったからね…自分が頂点であると勘違いしているから

この世界は神々にとって娯楽の世界、それぞれの神が楽しみ気まぐれで動く…

人は神が最も使う道具だから』

(…白魔が言うならばそうなんだろうな)

『私だって女神なのに魔が付いてしまっているからね…

正当な神と名乗るのは微妙なんだよ』

(なぁ、アリス)

『ん?なぁに?』

(神って倒せるのかな…)

『倒せるよ…方法があるからね』

(そうか…)



エルと話している者はアリス

人には見えないエルだけに見える者は、かつて魔人族が世界を支配していた時代に終止符を打った10人の女神のうち1人である。

[白魔]アリス

真っ白な純白のドレスを身に纏う美女は、体を浮かせ天を仰ぐエルに後ろから抱きついていた。その光景は他のものからは見えず、エルにだけ見えている。そもそもこの場にアリスを見ることのできる生命体は存在しなかった。そして戦場であった地の真ん中で何を思うのかエルはアリスと話をしていのだ。



(正しい世界って何だろうな…)

『さぁ、どれが正しいのかもわからないからね』

(正解のない世界…か

だとしたら何で正解がないのに魔人族が支配していた時に女神を地上に送ったんだ?)

『それは神のエゴだよ…

信仰させる為に、神が救った!

…って人間に思わせる為、戦争時に何人か神に願う仕草をしていた人がいたでしょ?』

(………あぁ、いたな

でもおかしくないか?人が助けを求めていても願う人が少ないというだけで、黙って見ていたと言うことになるよな?)

『そうだよ…

それが嫌になって私は地上に降りた

全知全能の命令を無視してね…

私の後に続いてきたのが10人の女神ということ』

(成る程ね…)

『仮にも私達は神に楯突いた…

だから逃げるように、人間の中に宿り[和名持ちネームド]が生まれた

エルと同じようにね

言えば私達は追放された神なんだよ』

(……そうか)



正しい世界、神の存在、役割、そういった事を考えた。神とは何か、何故魔人が支配するまで放っておいたのか、それはアリスの言う神のエゴであり自分の私欲のためだけに神は動いたり動かなかったりしている。人ですら傲慢な考えを持つのに対し、神までが人間と同じような考えを持っていた。それにアリスは嫌気がさし地上に降り立ったのだ。アリスと同じ考えを持つ女神達が続き、魔人が支配していた時代を終わらせた。

あの戦いの後で、女神達は神から追放され地上の人間の体に宿り、その者は[和名持ちネームド]となった。



「今の神は何もしないで偉そうにしているわけか…」

『………そうゆう事になるね』



エルは外にポツリと一言言うとアリスは驚いた。、だが今この場にいるのはエルだけであり、当然の事だが他の者達からはアリスの姿は見えていない。信仰するものがいない功績を称えられることのない女神がここにいる。正しい事をした女神が追放され、何もしていない神達が信仰されている。「世の中は理不尽でできている」「間違っている」この言葉がエルの頭に残り、アリスを地へ落としたのはアリスと同等以上の立場にいる神である事に納得がいった。そしてエルはある事を思いつき、立ち上がり前を向くと地に刺した剣を一本抜き前に向ける。



「…なら、お前をもう一度神に戻そう」

『え?』

「そうすればこの間違った世界は変わる

根拠は無いがそんな気がする」

『……!…フフッ…何それ』

「その為に他の女神を集める…そして間違った知識で歪んだ世界を直すのは俺の仕事だ」

『……じゃあ今後の予定は?』

「正す…この世界を」

『応援しているよ』



此れは誓いであり決意だった。女神[白魔]アリスを信仰するたった1人の信者がもう一度アリスを神の座に再び座らせる。今の立場にアリスを置いてはいけないとアリスの表情を見て直感で思った。アリスは時々一瞬だが悲しそうな表情をエルに見せる。自分で決めた事に後悔はないと神の座を追われた時の話をした時はそう言っていたが、その言葉に偽りはない。エルはアリスを見ていると体の半分が悩みで支配されていると気がしてならない。

和名持ちネームド]であるからなのか、アリスの考えは表情を見ればわかった。

その悩みは、エルの記憶や他にもある事が分かるが、今でなくてもいずれ話してくれる日まで待つ事にした。



「問題はあの人らだな」

『……あいつらね』

「……ハッキリ言って今の状態で勝てる気がしない」

『私が代わりに戦ってもいいよ?』

「それでも勝てるとは思えない…

あの人らの恐ろしさは俺が一番よく知っているからな」

『まぁね、一番の壁はあいつらだからね』

「死なない努力はするよ」



アリスを神に戻し、歪んだ世界を正す。

途方もない目的だが、それが現時点でのエルの目的の1つとなった。

アリスの他にも神の座を追われた神はアリスを合わせて10人…

それらを全て集めて神への反逆を開始する。世界全てを敵に回す無謀な挑戦だが、エルに迷いはなかった。エルの知識を全て使い、[和名持ちネームド]の他にも必要となる人材、実力者には協力要請を出し惜しむつもりはなかった。これは、[和名持ちネームド]や影の実力者が集う神にも劣らない世界最強組織結成までの物語である。

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