66-6 生徒会の旅
666悪魔の数字……何か恐ろしい事が……。
生徒会全員でホテルで夕飯を食べ、そしてその後ホテルのお風呂に行く事になった。
久しぶりのお風呂回かと思いきや、栞は行かないと言い出す。
まあ……女の子だし……生徒会の女子達も一緒に生活している俺も理解してるし、疑う事なく栞を置いて揃って大浴場にと思っていたその時。
「お兄ちゃん……抜け出そう」
当たり前だが俺一人男風呂に向おうと部屋を出ようとしたその時を狙って栞が俺にそう告げた。
「え? いや駄目だろ?」
「いいから!」
俺のタオルや着替えを奪い取るとそのままベットに放り投げ、上着を取って俺に渡す。
「ど、どこ行くんだよ?」
「夜景を見に行くの!」
「夜景?」
栞は俺の手を取ると、嬉しそうにそう言った。
ホテルを出ると目の前に大きな客船が見える。
そのまま手を繋ぎ並んで大通りを歩く……久しぶりに旅先で二人きり、いや二人きりで出かける事自体が久しぶり。
俺が栞の事が好きだと気付いてから、なるべく二人でいる事を避けていた。
もう止まれなくなるから……どうしようもなくなるから。
旅先でしかも夜景を二人でって、そんなのヤバいだろ?
でも俺は栞を止める事も……そして自分を止める事も出来なかった。
お喋りな栞が何も喋らない、俺も黙って歩いている。
久しぶりに握った栞の手は、暖かくて……柔らかかった。
港沿いの道路、路面電車が何本か横を走り去る。
いつもと違う光景に俺の気持ちが高まって行く。
暫く大通りを歩き路面電車沿いに道を曲がり港から山側に向かう。
長崎は坂の町、海から離れると直ぐに坂道だらけになる。
二人で長崎の町並みを見つつ、山の方に歩いて行くと目の前に何らかの施設が見えてくる。
「エスカレーター? いやエレベーターか」
そこには斜めに昇降する少しエ珍しいレベーターが……ビルじゃないのにエレベーター? スカイロードと書かれていた
そのエレベーターを見上げると山の上に続いている。
「これって」
「うん……長崎って聞いて、調べたらここが出てきたの、お兄ちゃんと二人きりで来たかった……」
栞は俺を見上げて、恥ずかしそうにそう言う……。
いつも平気な顔で、しかも裸で風呂に突撃して来るのに、こんな事で恥ずかしそうな顔をする栞……ヤバい可愛すぎだろ?
「来たよ、乗ろう」
俺の手を引きエレベーターに誘う栞……危ない……もう少し遅かったら抱き締めてチューチューしていた。
仕方ないとはいえ、美月が来てから二人きりで出かける事は殆んどなくなった。
俺も栞も色々と溜まっている……いや、堪っている物があるだろう。
だからこうやって皆に黙って誘われるがままに来てしまった。
エレベーターを降りるとスカイロードという名前の通り、山沿いに道が現れる。
そして今回の目的地、グラバー園に到着した。
グラバー園、幕末の商人トーマスグラバーが日本で暮らしていた、旧グラバー邸、その敷地に長崎に現存していたいくつかの歴史的洋風建築物を移築し現在のグラバー園になっているとか。
グラバーは武器商人として財を成したとか、坂本竜馬に武器を売った、テロリ…………まあ詳しい事はwikiで調べてくれい。
恐らく正面入口ではなさそうな小さな入口で入園料を払うと、栞は何故だか一目散にグラバー邸に向かった。
途中にある建築物や売店等を素通りする。
何か目的でもあるのかと、黙ってついて行くと……グラバー邸の周りには平日だというのに、人だかりになっていた。
「な、何かあるのか?」
「うん!」
楽しそうににこやかに笑う栞、こんな楽しそうな妹の姿は久しぶりに見た気がした。
「お兄ちゃん、ここに座ろう」
栞はスカートが汚れる事も気にせずグラバー邸正面の地面に座った。
俺も言われるがままに栞の隣に座る。
辺りを見回すと映写機らしき装置が……一体何が始まるのかと待っていると、幻想的な音楽がなり始めそして、グラバー邸に向かってその映写機が投影し始めた。
「おおお」
「ふわあああ」
俺と妹、いや見ている周囲の人々が一斉に歓声を上げた。
白を基調とした家の壁が七色のまるでステンドグラスの様に変わった。
正確には変わった様に見えたが正しいのだろう。
そしてステンドグラスの壁がバラバラと崩れ中から竜が顔を覗かせる。
「3Dマッピングか……」
「うん……」
ピッタリと家の形に合わせて投影される映像は、しまっている筈の窓が開いたり、中には誰もいないのに窓から人影が見えたり、壁が崩れる様にバラバラと落ちたり、窓から大きな木がが枝が生えたり、おとぎ話の様な姿を映し出していた。
「すげえ……」
「うん……綺麗」
カラフルな扇子、長崎を彷彿するステンドグラスの様な色使い。
初めて見る幻想的な光景に俺は息を飲んだ。
この喜び、この感動を共有したくて、俺の気持ちが、楽しい気持ちが、嬉しい気持ちをもっと共有したくて……妹に伝えたくて、俺は再び妹の手を握る。
言葉では言い表せないからと、妹の手を強く握った。
妹はわかってるよと、言わんばかりに俺の握った手を強く握り返した。
そして妹は……俺の肩に頭を乗せる。
俺も少し首を傾げ妹の頭に軽く自分の頭を乗せた。ふわりと香る妹の髪の匂いと共に、幻想的なその光景を手を繋いだまま、じっくりと堪能し続けた。
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