66-7 生徒会の旅


 歓声と共に3Dマッピングは終了した。

 俺と妹はグラバー邸の前の芝生の上で暫し余韻に浸っていた。


 

「お、お兄ちゃん、行こう!」


「あ、ああ」

 暫くすると妹は何か思い出したかの様に、少し慌て気味に立ち上がる。

 閉園にはまだ時間があるのに何故か慌てだす妹的に一体なんだろうかと疑問に思うがとりあえずここにずっと居ても仕方がないという俺もその場から立ち上がった。


 再び妹と手を繋ぎ、園内をウロウロと歩く、何やら場所を探しているかの様にキョロキョロしている妹は、長崎の街並みが一望出来る場所で立ち止まる。


「お兄ちゃん見て!」


「おおおお!」

 

 ここにわざわざ家を建てた理由はこれか?

 キラキラと光る街灯、長崎港や街並みが一望出来るそこで、俺は妹と二人手を繋ぎ並んで見つめる。


 月明かりでうっすらと見える遠くに山々、街明かりに浮かぶ海、その全てが一望出来る。


 3Dマッピングの興奮から続けざまに押し寄せる感動の波……。

 そして隣には……俺の愛する妹が……。


 でも、今日の妹はどことなく少しおかしい、いつもこういう時、しつこい程に迫ってくる妹が今日に限っては大人しい。


 俺と一緒なのに黙って、静かに景色を見ている。


 なんだろうか? 今にも別れ話でも切り出されそうな、そんなあり得ない気持ちになってくる。


 あり得ない……本当にあり得ないのか?


 不安だ……こういう時って逆に不安を感じてしまう……不安? 不安なのか?


 仮に別れ話をされても、俺と妹の関係は変わらない、兄妹という関係は変わり

ようがない。


 なのになぜ俺は……こんな気持ちになっているのだろう……。

 そもそも、俺はそうなる事を望んでいた筈だったのに。


 俺は恐々と妹を見る、ゆっくりと景色から妹の顔に視線を移す。


 すると俺の視線に気付いたのか、妹もゆっくりと俺を見つめる。


 そして……栞は俺を見て、ニッコリと笑った。


 うるうるとした妹の瞳、その中に歪んだ俺が映っている。


 歪んだ恋、俺と妹の歪んだ関係……


 その歪みを解消したいって、普通の関係に、普通の兄妹に戻りたいって……。


 俺は……ずっと……そう思っていた筈なのに……。

 なのに……。


「お兄ちゃん……」

 繋いでいる手に力が入る。俺を見上げる妹の顔が少しずつ紅潮していく。

 妹に唇がほんの少し開く。


「し……栞……」



「──お兄ちゃん……好き……」

 消え入りそうな声……そして妹は……ゆっくりと目を閉じた。


「し……栞……」

 俺はゆっくりと栞の顔に自らの顔を近付け……そして。



「5、4、3、2、1、終了~~~~」

 


「は?!」

 どこからか? カウントダウンが……何か美月に似ている少女の声が聞こえてくる、そして……。


「ああああああ! もうちょっとだったのにいいいいいい」

 それと同時に今まさにキスをしようとしていた妹の目が開き、眉間に皺を寄せながらそう声を上げた。


「え? は?」


「いや、お兄ちゃん! まだ間に合う!」

 妹は俺のほっぺに両手を添え、俺の顔を引き寄せ……。


『ピーーーーー』

 今度は笛の音が聞こえ続けて草影から美智瑠が登場した。

 てか、いつからそこに?!


「ハイハイ反則」

 イエローカードを手にした美智瑠はボクシングでクリンチする選手同士を剥がすレフリーの様に俺と栞の間に入ってくる。


「ちょ! えええ? ど、どういう事だ?!」

 俺が戸惑いながらそう聞くと、今度はさっきカウントダウンをしていた美月と麻紗美の二人が、俺達がいた場所の近くにあった階段の下から並んで登ってきた。

 

「えっとねえぇ、ごめんねぇ、全部ぅ、見てたんだぁ、皆でぇ」

 

「は? 皆?」

 そう言われ辺りを見回すと、ちょっと離れた場所にいたカップルと思わしき二人がこっちを見て手を振った。


「せ、先生! セシリー!」


「うううう、もうちょっと、もうちょっとだったのに……」

 その場にうずくまって泣く妹……え? これって何? どんなドッキリなんだ?


「あのねお兄ちゃま、これはね? お兄ちゃまの唇争奪戦なの!」


「……はい?」


「お兄ちゃまにキスして貰えた人は、明後日1日一緒にいる権利を貰えるの~~」


「……はい?」


「やったあああ、大本命陥落」

 美月が両手を上げて喜びだす。


「キスってぇほっぺたでもぉいいんだよねえぇ、欲張ったねぇ栞ちゃん」


「ふええええええええん」


「ちょ、ちょっと待て一体」


「あのね、一人2時間今日と明日順番にお兄ちゃまとデートして、最初にキスして貰えたら人が勝ちなの~~」


「……はい? じゃ、じゃあさっきの栞は」


「栞ちゃん残念デーース」

 セシリーがこっちに近付き笑顔でそう言った。

 その隣には苦笑いしている先生が……って先生迄? いや、止めろよ!


「うええええええええん、そんなあああああ」

 泣き叫ぶ栞……えっと……あの……頼むから俺を使って遊ぶの止めてくれないか?

 今に始まった話じゃないけど……こんな事を黙ってされたら……俺の心臓が持たないんだよおおお。


「泣きたいのは俺だよおぉぉぉ……」


【あとがき】

グラバー邸イベントは取材当時の話なので、現在は行われておりません……多分(笑)

閉園時間も恐らく異なりますので(/・ω・)/

この物語はフィクションです(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る