65-4 栞のバレンタイン


 放課後生徒会から呼び出される。


 もう、なんなの? 私達は役員じゃ無いのに……。


 今美月ちゃんは都内の小学校に通い始めている。茜さんも色々と忙しいらしく放課後は滅多に家には入って来ない。


 以前にも言ったけど、学校から家迄はすぐだ。それが理由でこの学校に入った……っていう嘘をついたぐらいに近い。実際はお兄ちゃんと同じ高校に通いたかった……放課後お兄ちゃんとイチャイチャしたかったって理由だったんだけど。


 つまり、お兄ちゃんと家で二人きりになれるのは、イチャイチャが出来るのは、美月ちゃんが帰ってくるまでの数時間だけ……。


 しかも今はお兄ちゃんへのプレゼントを考えなきゃいけない、茜さんに負けるわけにはいけないのに!


 生徒会室の前で段々とイライラしてきた私は少し強めにノックして、中からの返事を待たずに扉を乱暴に開けた。


「お待ちしておりましたわ」

 扉を開けると既に生徒会フルメンバーが揃っていた。久々だから説明しておくと、会長が那珂川葵、副会長 渡ヶ瀬美智瑠、書記 酒々井麻紗美 初瀬川雫 セシリーマクミラン 生徒会役員外補佐、長谷川栞 長谷川裕 生徒会マスコット、山野井美月……。


 だから役員補佐ってなんなのよ!

 そのフルメンバー(美月ちゃん以外)の役員一同がここに揃っていた。


 どうでもいいけど……前から思ってたんだけど、この人達って授業出ているのかなぁ?


 授業が終わってすぐに来たのに……。


「栞さん、裕君……とりあえず中に」

 会長が何やら真剣な眼差しで私達を見ている……なんだろう……何か胸騒ぎが、嫌な予感がする……私とお兄ちゃんはゆっくりと生徒会室に入る……と、一番手前にいたセシリーが扉を締めそして鍵を掛けた。


「ちょっ」


「栞さん……最初にこれだけは言っておきます」

 何も言わずに突然鍵を掛けた事に抗議しようとしたが、機先を制する様に会長が私の言葉に被せてそう言って来た。ううう、何この雰囲気……。

 私は少し怖くなり、お兄ちゃんの制服の裾をそっと握った。


「な、なんですか?」


「茜さん……彼女は貴女だけではありません、私達の敵です!」


「え?」


「あのねぇ、美月ちゃんからぁ、メールが来たのぉ、今、裕君達がぁ茜さんにぃ色々と困った事をぉされてるってぇ」


「美月ちゃんが……」


「ええ、隣に突然引っ越し来たとか、朝毎日の様に自宅に押し掛けられているとか……本当なの?」


「あ、いや、まあ……」

 お兄ちゃんが曖昧に返事をする……なんだろう……何か胸騒ぎが……。


「裕……しかも今度はバレンタインで裕を掛けて勝負するとかって……」

 副会長の美智瑠ちゃんが真剣な顔で私達にそう言った……なんだろう……美智瑠ちゃんが真剣な顔をすればするほど、嫌な予感が増してくるんだけど。


「あのねえアンちゃん……私達……色々とアンちゃんにお願いできる権利とか持ってるって知ってる?」

 書記の雫ちゃんが睨む様に私達を見る……これは……まずい……雫ちゃんがここまで真剣な表情なんて……見た事ない。


「あ、うん……まあ」

 お兄ちゃんがすまなさそうにそう言った。


「ミーも権利持ってまーーす」


「み、ミー?」


「そうでえーーす」


「……」

 このセシリーの言葉で私は全てを悟った……そうか……この人達は……、


「えっと……会長……一体」

 わかっていないのはお兄ちゃんだけ……お兄ちゃんは恐々と会長にそう訪ねた。


 私は片手で眉間を押さえる……だって……頭痛の種がまた増えたから……。


「バレンタインレース、私達も参加します! そして全ての権利をここでまとめて、レース優勝者が使います!」



「…………はい?」

 

 やっぱりだった……この人達は、ううん……ここはあえてこう言おう……コイツラは……楽しんでいる……面白がっている……。


「生徒会権限でこのレースを仕切ります、そして優勝者は冬休みに裕君と2泊3日の旅行に行って貰います!」


「はあああああああああ?」

 お兄ちゃんがお腹の底から声を出す……って言うか2泊って……。


「これは生徒会役員会議で決定しております、変更は出来ません」


「いやいやいやいやいやいやいやいや、だ、駄目でしょう? 高校生が泊まり掛けの旅行なんて!」


「名目は修学旅行先の調査です、これは学校から認められている生徒会の権利です、きちんと予算も出ます!」


「いやいやいやいや、それって女子高だった時の名残でしょ? 今は男子もいるし……」


「もう決まった事です、そもそも私達の殆んどは裕君に対して何か一つ何でも言う事を聞いて貰うと言う権利を行使していません! なのでその全権利を一度生徒会でまとめこのバレンタインレースで一人に任命するという方式に致します」


「えええええ?」


「借金をまとめて清算するって事だよ裕!」

 

「えええええええ……しゃ、借金……」

 ガックリと項垂れながらお兄ちゃんが困った顔で私を見る……でも……えへ、えへへへ、お兄ちゃんと学校公認のお泊まり旅行…………えへへへへ


「し、しおり?」


「……わかりました……受けて立ちます!」

 私は皆を見てそう言った。


「ええええええええええ」

 お兄ちゃんがそう絶叫する……大丈夫! 私は負けない! だってお兄ちゃんは……私を選んでくれるから。


「あ、そうそう、誰が一番かは裕君ではなくランダムに選択したうちの生徒数人に決めて貰うので」


「……えええええええ!」

 そ、そんな……そんなあああ。


「そりゃあ、泊まり掛の旅行ってなると裕君も栞さんが一番無難って思うでしょう? 今回はそう言う落ちはいらないの」


「で、でもお兄ちゃんが喜ぶ物って言うのがメインなのでは?」


「一応裕君のプロフィールは選択した生徒に渡します、勿論名前は一切出しません。誰が贈った物か? もです。そして誰を選ぶかは14日当日に生徒名簿からランダムに選びますので事前にその生徒に聞く事も出来ません」


「そ、そんなあああ」

 それって全くの横並び……しかもお兄ちゃんの好みとかも関係なくなって来た。


「今回はぁ、皆ガチだよぉ栞ちゃん」


「美月ちゃんと茜さんにも通告し了承を得ています」


「マジか……」


「10名の一般生徒と裕君の1票、合計11票で争います、ルールはバレンタインの時裕君に、彼氏に贈る物です!物なので自分をとかは駄目です! 予算はちょっと奮発して1万円以内とします!」


「えええええええ……」


「これは全て決定事項です……以上で生徒会会議は終了します、皆さん頑張りましょう!」


「「おーーーーー!」」

 会長がそう宣言し私とお兄ちゃんを覗く生徒会役員の皆が一斉に手を上げて雄叫びを上げた……雄叫び……全員女子だけど……。


 さあ……とんでもない事になった……。どうしよう……でも……お兄ちゃんは渡さない……どんな手を使ってでも……。



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