64-10 これからが本当のハーレム展開?


 正直味が全くしなかった。


 高級ホテルのフルコース、そんな物よりも栞の手作りご飯の方が食べたかった……栞の手で握ったおにぎりの方が数倍美味しかった。


「ふふふ……お気に召さなかった様ね」


「……いや……」


「……それじゃ食事も済んだし行きましょう」


「どこへ?」


「今日は1日私に付き合う約束でしょ」

 そう言うと茜は手を上げる……呼び鈴なんて無い、ただ手を軽く上げるだけ……するとカメラで監視されているのか直ぐに個室に店員が入って来る。


 そして素早く俺と茜の背後に回る、茜は店員を気にする事なく立ち上がると、それに合わせて椅子を引く……ああ、そういう事かと俺も立ち上がった。


 茜と俺が立ち上がると二人の店員は頭を下げた……二人共にどうみても年上だ……高校生の二人に深々と頭を垂れる。いくら客とはいえその姿を見るのは物凄く気まずかった。


 これが力か、これがお金か……自分の将来はどっちなのか……そう思わされた。


 当然そんな事は全くお構い無しの茜、彼女が通過するとその場にいる店員が皆立ち止まってお辞儀をする……しかし……なんなんだ一体……いくらお得意様でも……皆茜に対して異常な態度だった。


 店を出るとエレベーターホールに向かう、向かうと言っても目の前だけど……エレベーターの前で茜は高級そうなバックからカードを取り出しエレベーターのスイッチにカードをかざした。


 直ぐにエレベーターが到着すると茜はエレベーターに乗り込んだ……俺も一緒に乗り込む。エレベーターの中には誰もいない。

 俺が乗ったのを確認すると茜はボタンを押さずにまたカードをかざす。


「めんどくさいわね……そろそろ生体認証を導入しないとね……」

 生体認証? 何を言ってるのかわからない……それより俺はどこへ連れて行かれるのか?


 エレベーターが動き出す。回数表示を見ると何も表示されない。確か最上階にいたはずなのに身体にかかる感覚は僅かに上昇している。僅かにしか感じなかったのは直ぐに停止したからだ。


 恐らくレストランよりも2ー3階上なのだろうか? エレベーターの扉が開くと直ぐ目の前に豪華な扉が一つだけあった。


 最上階と思っていたレストランは最上階では無かったのか? 高級ホテルの最上階と言ったらレストラン、後はお洒落なBARとかか? 漫画や映画でくらいしか知識が無い俺はその扉が会員制のBARかなんかだろうと思い、たいして深く考えずに茜に促され中に入った。

 部屋に入ると大きなフロアーにホテルのロビーの様な大きなソファーが置いてあった。やはり何かしらのお店か? しかしさっきの様に店員は見当たらない。部屋には大きな窓がありその窓からは都内の景色が一望出来る。先程も見たが少し先に東京タワー、遥か先にはスカイツリーが見えていた。


 部屋の壁際にはBARっぽいカウンター、しかしかなり小さくバーテンダーも居ない。


「ここは一体何の店だ?」


「私の部屋よ」


「…………は?」


「私の……お、へ、や」

 そう言うと茜は着ているドレスを脱いだ。


「いや、ちょ!!」

 栞の下着では見た事の無い豪華な刺繍……そして至る所がスケスケ……見るからに高級そうな白基調の下着だった……え? 栞の下着をそんな一杯見たのかって? いやだって……栞って平気で下着姿を見せるし……そもそも外に普通に干してあるし……以前は俺も洗濯してたし……。


 そして漫画や映画でしか見た事の無い黒のガーターベルト、ベルトの先は絹の様な質感のストッキング……。


「……私……部屋ではいつもこの格好なの」

 俺の視線をものともせずに笑いながらそう言う茜……なんだこいつは……って言うか何で俺の周りの女子は俺の前で脱ぎたがるんだ? 皆露出狂か?


「いやいやいやいや、いつもって言っても今日は俺が……」


「……どうかしら? 私のスタイルは」


「……どうって……まあ……普通に綺麗だと……」

 茜のスタイルは抜群に良い……制服姿でもわかっていたけど、脱いだその姿は想像以上だった……いや、想像してないけど……とにかく細身、そしてエステとか行ってるのか? 栞も綺麗だけど茜も栞に匹敵するくらい肌が綺麗だ。そしてその栞以上に透き通る様な白さに……思わず目を奪われる。


「ふふふ、何か飲む?」

 俺の視線を気にする事なくバーカウンターに歩いて行く茜……後ろ姿、特にお尻を俺に見せつける様にしながら歩く……。


「いや……俺は大丈夫」


「そ……」

 茜はカウンターの下からワイングラスとビンを取り出し透明の液体をグラスに注ぐ……泡がたっているのを見ると炭酸水か? 酒じゃ無いよな、酒はヤバイよ。


 それを軽くあおり、また俺の方に近付いて来る……自分の身体を見せつける様に、モデルの様に歩きながら……。


「…………一体……何がしたいんだ?」

 その行動全てが不可解だった……いや茜の全てが、俺に対する行動全てが不可解だった。


「あら、私の旦那様になるのだから私の全てを見て貰わないとね」


「茜の……全て……」


「そうよ……これが私の身体、ここが私の部屋……ううん……部屋だけじゃ無い……このホテルは……私の物よ……そして全部貴方の物になるの、貴方が私の物なってくれれば……ね」


 茜は少し悲しそうな顔をした……その表情を見て何かある……俺はそう確信した。


「無理だよ……俺は栞を愛してる、茜と……結婚する事は無いよ」


「……ふ……ふふふふ、あはははははは」

 俺がそう言うと茜は少し驚いた顔をした後に高笑いをする。

 笑いたければ笑え、俺だって……そう思う。


「ふふふふ……そうね、貴方はそういう人なのよね……」

 茜は俺の首に手をかける……茜の全身から甘い香りがする。香水だろうか?とてつもなく良い香りが俺の鼻孔をくすぐる。


「そういう?」


「そうよ……貴方は私の後ろを見ない、私の着ている物を見ない、そして私の姿を見ない……こんな格好まで見せているのに……ムカつく」

 そう言って俺にピタリと身体を寄せる……茜の胸の柔らかさがダイレクトに伝わる。

 顔、スタイル、どれも一級品、約束された将来……ただの高校生なら一発で落ちるだろう……しかし……俺を舐めるな……心から愛してる妹と大好きな小学生から毎日の様にこんな攻撃を受け、いまだに凌いでいるんだ…………誰が意気地の無い童貞だ!


「……言ってる事とやっている事が全然違うぞ」


「……何でなの……何故貴方はそうなの……妹……兄妹……肉親なんて……」

 そのセリフを聞いて俺は考えた、いや、前からある程度予想はしていた。

 茜のこの生活……何でも買い与えている、自由にさせている。

 ある意味ネグレクトなんではないか? 子供の頃からだって考えたら……虐待なのでは無いかと、俺はそう思った。

 

 そうか……つまりこいつは……俺と栞を見て、栞から俺を奪おうって思ったのか?

 そう考えが湧いた途端、身体の体温と同時にこいつの思いが伝わって来る……そうか……こいつは俺と同じなのか…………人を信じていない……自分を……信じていない。

 そして一つだけ違う物を奪おうとしているのか、俺の大切な物を奪おうとしたのか……。


「……そうか……茜…………お前……家族が欲しいのか……」

 そう言った瞬間茜が俺から離れる……そして自らの身体を両手で抱いた。


「…………わ……わかった様な口を聞くな!!」


 茜が俺を睨んだ、鬼の形相で睨み付けそう怒鳴った……初めて見せる態度……これが茜の感情……これが茜の本性……。





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