64-9 これからが本当のハーレム展開?

土曜日、俺は都内のとある場所に来ていた。


 例の約束を実行しなければならないからである。


 覚えているだろうか? 俺はあいつと、あの西園寺茜と週末に会う約束をしていた。


 勿論その条件には二人きりという制約が付く。


 美月が家に来て最初の休日、当然二人は俺が出かけると言えばついて来る事になるだろう……俺にプライベート無いのか?


 どうやって一人で出掛けるか悩んでいたところ、偶然にも家にレディースの服やら雑貨やらのバーゲンセールのチラシが舞い込んだ。


 美月の荷物は週明けとなるがとりあえず服や日用品を買いに行こうとなり、店がレディース専門店と言うこともあって俺に気を使ったのか今朝栞と二人で出掛けて行った。



「ふふん、本当に一人で来たのね」


「……まあ、そういう約束だし……って言うか……」

 そして今、俺はシャンデリアが煌めく豪華な内装、地方に住む人でも知っているだろう都内の某有名高級ホテルのロビーにいた。


 そこが今回茜に指定された待ち合わせ場所だった。


 茜は紫色ベースの高級そうなドレスを纏い、髪をアップにして黒い花を横に付けていた。


「ちょっと待て……なんだその格好は」

 そんな姿でエレベーターから降りてきた茜、ロビーいた人が一斉に注目する……なんだ? 結婚式にでも出席していたのか?


「普段着よ……」


 嘘をつけ…………え? ホントに?

 なんちゃってテヘペロという返事を待つも茜は真顔で黙って俺を見つめていた。

 ドレスが普段着とかどんな世界だよ……。


「じゃあ行きましょう」


「ちょっと……どこへ」


「デートと言ったら食事でしょ?」


「……デート……なのか……これ」


 言われるがままに茜の後を着いていく、茜はエレベーターに乗る、俺も一緒に乗った……押した階は最上階……エレベーターの内装まで高級感溢れていた。そのエレベーターはとんでもないスピードで揺れもなく最上階に到着する。

 茜は俺に目もくれずにエレベーターを降りた。


 エレベーターを降りるとワンフロワー丸々の豪華なレストランがあった。

 高級そうな扉の前には黒服姿の店員が立っていた。


 その黒服は茜の後ろの俺を見ると、何か言おうと扉の前からこっちに向かって歩いてくる。


「私の連れよ……」


「……畏まりました」


 茜がそう言うと黒服は頭を下げ扉の前に戻りそのまま扉を開いた。


 扉を開くと豪華絢爛と呼ぶに相応しいレストランがあった。奥の大きな窓から東京一望出来る。


「いらっしゃいませ、こちらでございます」

 予約も名前も聞かずに綺麗な女性が俺達を案内する。


 通されたのは10人位入れる大きな個室、大きな窓の外は都内が一望出来、遠くにスカイツリーが見える。


 椅子を引いてもらい席につくと、すぐに飲み物が運ばれて来る。


 ワイングラスに入った飲み物……まさかお酒じゃあ無いよな……。


「ふふふ、ただのジュースよ……今日は来てくれてありがとう、乾杯しましょ」


 茜はそう言うとワイングラスを持ち上げグラスに口をつける。


 見るからにワイン……しかし一流ホテル、お酒は出さないだろうと俺もグラスを持ち上げると一口飲んだ。


「ブドウジュース……か」


「フランス産ドメーヌのブドウジュースよ、美味しいでしょ」


「あ、ああ」

 日本の果汁100パーセントのブドウジュースよりも渋みがある……でもべったりした甘さが無く美味しい……。


 そしてそれを皮切りに前菜が次々に運ばれて来る……恐らくフランス料理なんだろうけど、ウエイターさんの説明や料理名が全くわからない……。

 俺はありったけのテーブルマナーの知識を振り絞ってそれを食べた。


「……上手い……」


「そ……良かった」

 俺がそう言うと茜は目を細め嬉しそうに笑った。今日はいつもとは違う表情の彼女……その仕草その笑顔に俺はドキッとしてしまう。


「こ、こういう所って確か服とかうるさいんじゃ無かったっけ」

 デニムにシャツとセーターで来ていた俺はさっき入口で何か言おうと近付いて来た黒服の事を思いだし、茜に聞いた。


「そうね……ここのドレスコードは最低ネクタイにスーツ着用よ」


「マジか……言ってくれよ」

 言ってくれればそれくらいの格好はしてきたのに……。


「ふふふ……気にしなくていいわ……ここは私のプライベートルームみたいな物だから」


「プライベートルーム……」


「そしてダーリン……貴方のプライベートルームでもあるのよ」


「いや……だから」


「とりあえず食べましょう、もうすぐメインよ」


「……あ、ああ……うん」


 一体なんなんだ? なぜここまで俺に……スキー場でちょっと教えた程度の俺にここまで……当初はからかわれていると思っていた、金持ちの道楽……しかし……それにしても転校までして俺を追いかけてくる意味は?


「牛肉のロッシーニ風でございます」

 メイン料理が運ばれて来る……どこかで聞いた事のある名前の料理、柔らかそうな厚切り肉の上には大きなフォアグラとトリュフらしき物が乗せてある……正直今まで味なんてしなかった……こんな場所俺に場違いだ……。


 茜と結婚? あり得ない……俺には大切な人がいる……一生護らなければ行けない人がいる……。


 茜は言っていた……欲しい物はなんでも手に入れると……俺がその欲しい物と言う事なのか? そしてその意図は……俺は茜の本質、本心を考えていた。



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