64-11 これからが本当のハーレム展開?

 


「うるさいうるさいうるさい、このシスコンが! 私に知ったような口を聞くな!」


  茜は俺に向かってそう叫んだ……今までずっと自分を見せなかった……いつでも冷静に、常に冷ややかだった茜が……俺に向かって本性を露わにした。


「分かったよ茜の事は……お前は俺に共感を得てたんだ……人を信用しない、物を信用しない……優しさを信用しないって」

 俺は妹以外の愛を信用していない……俺は他人を信用していない……そして……自分を信用していない。

 こいつは俺に共感を得たんだ。物に固執しない、お金に固執しない、人に固執しない俺に……。


 スキー場でこれだけの美人に声を掛けられれば誰もがなびくだろう。しかもボードの上手い奴ならわかる高級な道具やウエア。

 見るからにお金持ちの風貌……当然媚びるだろう……でもそれは茜に媚びているわけでは無い。


 茜の後ろの存在に、バックのお金に、親に媚びているって事だ……。


 茜は愛されたかったんだ、自分を愛して欲しかったんだ。 だれも茜を愛していないから……。


「ち、違う……」

 茜は震えていた……ブルブルと……下着姿で寒いわけでは無い、ここは快適だ、いや茜のいる場所は常に快適なんだ。

 お金に不自由しない、生活に不自由しない、全てを与えられて生きている。


 でも、それって幸せなのか? それって楽しいのか? 

 休日って楽しい、それは平日があるからじゃないのか? 夏休みで一番楽しいのって最後の1週間じゃないのか?


 茜は退屈だったんだ……何でも手に入れられて退屈だったんだ……だから手に入らない物が欲しかった……そう……茜は……家族が欲しかったんだ。


「俺は……栞が、妹が好きなんだ……だから……茜とは付き合わない」


「……うるさい……うるさいよ、シスコン、妹と付き合ってどうする……先なんて無いじゃない!! 不幸になるだけよ!」


「……わかってる……わかってるよ……でも、栞となら、妹となら……一緒に落ちても良いって、地の果てで暮らしても良いって……そう思ったんだ……」


「そ!……あ、あんたは良い、でもあの娘はどうするの、不幸にして良いの? はん、自分のエゴじゃない、そんなのを押し付けて、愛してるって言うの? 家族なら突き放す…………」

 そこで茜の言葉が止まった……突き放すのも家族……と良いかけた所で……。


「そうだな……突き放すのも家族だよな……でも……それでも俺は栞と一緒にいたい、ずっと一緒にいたい、そして栞も俺と同じだって、栞も俺と一緒にいたいって思ってる……俺はそう信じている……」


「信じる……」


「あははは、格好いい事言ったけど、俺は何度も栞を諦めようって、諦めさせようって思ってた……でも最近気付いたんだ……自分の我が儘を相手に言ってこその家族だってさ」


「…………」


「だから……ごめん……俺は茜とは付き合えないし、結婚も出来ない……でもそれは栞がいるからで、茜に魅力が無いわけじゃないからさ……」


「うるさい……うるさいうるさい! 帰って……今すぐ……帰って」


「……あ、ああ、うん……えっと……どうやって」


 そう言うと茜は部屋の入口まで歩き扉を開いた。

 俺は茜の横を通り過ぎエレベーターの前に立つ


「ボタンを押せばエレベーターが来るから……帰りにカードは要らない……」


「あ、ああ、うん、ありが」


 俺がお礼を言おうとする前に茜は扉を閉じた……


 ホテルから出ると俺は上を見上げた……あんな高い所からずっと一人で下を見るって……どんな気分なんだろう……一瞬なら楽しいかも知れないけど……ずっとは……俺には無理だ……。


「孤独なんだろうな……」

 あれだけ人に囲まれて、そして皆から頭を下げられる生活……でも……多分皆、茜を見ていない……誰も彼女自身を見てはいない……。


 だから仲間を見つけたかったんだろう……自分に似た自分を見てくれる仲間が……家族が。

 俺は家に向かって歩き始めた……。

 気分が悪い……初めて人の好意を断った……初めて女の子を振った。


 本当……嫌な気分だ……でも、もうこれからは、やらなければいけない……俺には心に決めた人がいるんだから……。


 栞の為に……やらなければ……。


 

 ###



 そして週明け茜は学校に来なかった……その翌日も……。

 やはりショックだったのか? 俺のせいで……俺の胸にチクリと痛みが走った。

 茜はもう来ないのか? でもここで俺が茜を迎えにいけない……それはやってはいけない事だ。


 でももし茜が学校に来たら、向こうから来れば、俺は友達として笑って茜を迎えよう……ってそう思った。それで彼女の孤独が少しでも解消すれば、俺の気持ちも楽になれるから……


 そう自分に言い聞かせながら、学校から妹と家に帰る。


 家に着くと玄関の前に美月が立っていた……。


「美月?」

 転校手続きはまだ終わっていないので今週一杯は学校に行かないで家にいる美月……可愛いのであまり一人で外に出ない様に言っておいたのに! 俺の美月に何かあったらどうするんだ!


「あ! お、お兄ちゃま何かお隣が……」


「え?」

 そう言われて見ると、隣の家が朝見た時から一変していた。

 は? 何か凄く豪華な造りに、一体数時間でどうやって?

 魔法でもかけたかの様にすっかり変貌している隣の家。


「ど、どうしたんだこれ?」


「わかんない……なんか凄い音がして、人やトラックやらが一杯来て、あれよあれよでこうなってた……」


「美月の理解を越えるとか、どんな魔法だ?」

 そう思っていると、隣の玄関が開き中から人がって!!


「ふふふふ、来ちゃた……ダーリン」


 中から胸の谷間が丸見えの魔法使いの様な妖艶なドレスを来た……茜が出てきた。


「お、おおお、お前!!」


「あ、今日からお隣になります、宜しくね、ダーリン」

 砕けた言い方でニッコリと微笑む茜……俺は理解が追い付かなく何も言えなかった……すると隣にいた栞が俺の前に立ちはだかると茜に噛みついた。


「ちょ、ちょっとどういう事なの!!」


「ああ、ダーリンが家族になろうって言って下さったから」


「はあ? お、お兄ちゃん!!」


「い、言ってない言ってないから、お、おい茜!!」


「そうでした? でも下着姿を見られた責任は取って貰わないと……」

 茜は頬を赤らめ顔に手を添えモジモジしだすっていや、お前それは卑怯だろ!


「お兄ちゃん!!」

「お兄ちゃま!!」


「いや、違う、それは茜が自分で……あ」


「お兄ちゃま……つまりそれはそういう場所に行ったって事だよね?」


「お兄ちゃん!! い、いつの間にいいいいい」


「いや、待て違う! お、おい茜!! ひ、卑怯だぞ!!」


 俺は妹が好きなんだ……一体感どうなってるんだ? 断った、きっちり断った筈なのなぜに?


 俺はハーレムなんて要らないんだああああ!!





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る