64-5 これからが本当のハーレム展開?
栞の唇の柔らかい感触……さっき飲んだコーヒーの香りがする。
ファーストキスの味はコーヒーの香りか……なんて事が頭をよぎる。
栞とキスをしているのに、妹とキスをしているのに……こんなに冷静でいられるなんて思ってなかった。
厚手のカーテンは外からの明かりを遮り、扉は開いているが廊下も真っ暗な為、部屋は完全な暗闇だ。
人間の視覚は情報の8割と言われている。 それが全て遮られている為、他の感覚が敏感になる。
嗅覚……コーヒーの香り、シャンプーの匂い、栞の体臭がそれらと入り混じる。
触覚……柔らかい身体の感触、柔らかい唇の感触が俺の脳を刺激する。
聴覚……口を遮っても聞こえてくる栞の吐息。
そして…………味覚。
そう考えた時我に返った。今まで冷静だったわけじゃないってのがわかった。
な、なにをしているんだ俺は、相手は妹だぞ、いやもうそんな事を考えている場合じゃない。
この現状をどうするか考えなくては。
そもそも自分からキスをするのは始めてだ。 寝ている間とかはカウントしない! これが俺のファーストキスだ、今はそう断言できる。
つまり初めて……つまり……どう終わらせればいいのか分からない?
まるでだらだらと趣味で書いている小説を終わらせるのと同じだ……どう終わらせればいいんだ?
どのタイミングで止めればいいのか……俺にはわからない……そもそも相手の顔さえ見れない状況だ。
あんな状態でキスなんて、実は嫌がっている可能性もある。いくら栞でも俺から急になんて嫌なんじゃないか? 俺は無理やりキスをしているんじゃないか? 今すぐに離れなくては……しかし身体が動かない……何でだ?
身体が痺れている……意識が朦朧としている。 キスってこんなにも俺の身体を麻痺させる行為なのか?
そこで俺は気が付いた……俺……さっきから……息をしてない…………ヤバい…………これって……酸欠だ。
身体が痺れて完全に感触は失った。唇の感触ももはやない……このままだと死ぬ……マジで死ぬ…………そう思った瞬間、唇の間から声が聞こえてくる。
「ふ……」
ふ?
「ふえ……ふえええええええええええええええええええ……」
栞の声が、俺の唇と栞の唇の隙間から聞こえてきた。そして栞の全身の力が抜ける。
完全に力の抜けた栞を酸欠で死にそうになっている俺が支えられるわけもなく二人共床にズルズルと倒れこんでいった。
さすがにキスしたまま倒れ込む事は出来ず、俺と栞のファーストキスは自動的に、自分の意思とは別に終了した。
「はああああああああ! はあっはあっはあああああああああ……」
唇が離れたので、大きく息を吸い込んだ。身体中に酸素が回っていくのがわかる。あ、危なかった……あと数秒遅かったら多分意識を失ったかも知れない。
「ふえ……ふえええええええ……」
朦朧としていた意識が徐々に回復してくると、俺の傍らから不気味可愛い声が聞こえて来た。
えっと……あ、そうだパニック回避の為にキスしたんだった。
何故キスをしたかを忘れそうになっていた。この声はまだパニックから回復していないのか?
俺は慌てて起き上がると勘を頼りに入り口付近にある部屋の明かりのスイッチを入れた。
真っ暗闇だった部屋が一瞬で明るくなる。ああ、文明って凄いなあ、と初めて電球の明かりを体験した人類の様な事を思う。
眩しさで目も眩む様な状態……どこか違う世界に入り込んだ様なそんな感覚が俺を襲う。しかし……部屋の真ん中でぶっ倒れている栞を見た瞬間直ぐに現実に引き戻された。
「し、栞……」
「ふええ、ふええええええええええ……」
「だ、大丈夫か?」
制服姿の妹が部屋の真ん中で倒れている。髪は乱れ、スカートはパンツが見える寸前まで捲れていた。 まるで……暴漢にあった後のような状態。ただし顔は滅茶苦茶幸せそうな顔をしていた……。
「……ふええええええええええええええ…………」
そうなんだ、栞って自分からは積極的なんだが、こっちから、俺から何かをすると途端にこうなる。
俺から服を脱いだり、俺から抱きつくと途端に乙女と言うか少女になってしまう。
日頃から俺の恋愛は小学生並に疎いって言ってたけど、実は一番こういうのが苦手なのは栞なんじゃないかって思う。絶対に美月以下だな……。
「何が子供だよ……自分が子供の癖に」
俺は栞に聞こえない様にそう呟くと栞の傍らに近付いた。
「おい、栞? 大丈夫か?」
「ふえ? あはあ、お兄ちゃんだあああああ、お兄ちゃん~~~だいちゅきいいい」
「ハイハイ俺も愛してるぞ」
「うへえ? あははは、夢かあ、お兄ちゃんがそんな事言うなんてえ、今キスもされてえ、夢かああ、いい夢だなあ……ずっと覚めなければ良いなあ……」
「そうだな」
俺は栞をゆっくりと抱き起こす、そしてお姫様抱っこで持ち上げベットに寝かせた。
「ふええええええええええええ……お兄ちゃんがあ、おにいひゃんがあ」
何か今度違う意味でパニックなっている。俺は安心させる様に栞の左手を両手で包みこんだ
ベットで横たわる栞、愛しい俺の妹、俺の初恋の人、ファーストキスの相手……。
「お兄ちゃん……夢なら……もう一度……」
そう言って栞はベットで寝ながら目を閉じた。眠れる森の美女、茨姫の様に目を閉じている。
「夢じゃないけどな……」
俺はそう言って寝ている栞にもう一度キスをした。栞の為じゃなく、これが夢じゃない事を俺自身が確認する為に……。
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