64-4 これからが本当のハーレム展開?

栞はリビングから飛び出て行く、そして階段を駈け上がる音がした。


 追いかけないと、俺はそう思いリビングを出ようとした。


「ふふふ、あはははははははははははははは」

 俺の後ろで高らかに笑う茜、何が可笑しい? と栞を追うのを止め茜の方に振り向いた。


「…………」

 

「ふふふ、やっぱりね……貴方は女性には怒れないのね」


「いや、怒ってるさ」


「そうね……でも何も言えない……ふふふ、貴方はそういう人」


「俺の何がわかるって言うんだ?」


「わかるわよ? 手に取る様に……ね」


「……今、それどころじゃあ無いんだ、帰ってくれないか?」


「いいわよ、でもこれで帰ったら、どうなるかしら……ね」


「どう……とは?」


「明日には学校中で噂になっている……かもね、この話が」


「……この話って……なんだよ」


「貴方の妹さんが貴方と子作りしたいって、それが夢だって、ふふふ、あはははははははははははははは」


「だから……それの何が可笑しいんだ?」


「面白いじゃない、こんな面白い事ないわよ、こんな低俗な話、高校生じゃ大好物なんじゃない?」


「そんな脅しが栞に通用するとでも?」

 栞のカリスマは本物だ。そんな噂など広まるわけがない……。


「……そうね……でも栞さんには通用しなくても、貴方にはどうかしら?」


「いい加減に……」


「ふふふ……まあいいわ……とりあえず今日の所は帰ってあげるわ」


「……そうか」


「週末……私に付き合いなさい」


「――わかった」


「あらあ、物分かりがいいのね」


「今の俺に拒否権は無いだろ」


「そうね……じゃあ後で連絡するわ」

 どうやって……なんて言う必要はないんだろう……それくらい調べあげている。

 そう言っているかの様に茜は何も言わずにリビングを出ていく。

 

 こうなる事はわかっていたかの様に、俺の方を振り向きもせずに……。


 俺は暫くその場に立ち尽くしていた。

 栞の所に行かなければ……と。

 でも、どうすれば……栞は相当傷付いているはず……。


 自分の大好きな人が、愛する人が傷付いている……。

 でも俺にはどうする事も出来ない……栞の夢を叶える事なんて出来ない。


「…………行かなきゃ」

 かといってこのままってわけには行かない。栞の事だ変な事はしないだろう。

 明日にはケロッとしているかも知れない。


 もう逃げない……自分の思いはわかった。栞の思いもわかっている。この先は茨の道という事もわかっている。


 俺はリビングを出るとゆっくり廊下を歩き階段の下で止まった。明かりのついていない階段、それはまるで異世界へ続く階段の様だ。


「異世界って言うよりかは天国への階段、いや今は地獄へ……か」


 こんなに嫌な気分でこの階段を昇るのは初めてだ。でもそれが例え地獄への階段でも、昇らなければ……栞が悲しんでいる、自分の好きな人がこの先で泣いているんだから。

 

 さっきの栞の涙が頭から離れない。行かなければ……その思いだけで階段を昇った。一歩づつゆっくりと。


 そして栞の部屋の前に着くもどうしていいかわからずに立ち尽くす……ここでボーッとしていても何も始まらないのはわかっている。


「栞……」

 俺は覚悟を決めて扉の外から声をかけた……しかしなんの反応も無い……飛び出ていった後に階段を駆け上がる音がした、家の二階にいるのは間違いない。外に飛び出して行かれなくて良かった。


「入るぞ」

 俺はそう言って扉のドアを握ったその時中から大きな声が聞こえた。


「いや! 来ないで!!」

 初めての拒絶の言葉だった。栞から初めて拒絶された気がした。

 胸に何かが刺さった様な痛みが走る。

 でも……それでも行かなければ、入らなければ……もう逃げない、何があろうとも……俺の気持ちはわかっている。


「入るぞ……」

 俺はそう言って扉を開けた。


 真っ暗な部屋、廊下の電気もついていないので部屋の中は何も見えない。

 俺は扉を締めゆっくりと中に入った。

 最近栞の部屋には何度も入っている。暗闇でも何があるかはわかっている。

 

 俺は部屋の真ん中に置かれているだろうテーブルを避け栞のいるだろうベットの脇に立った。


「は、入らないでってええええ……」

 布団中からだろう声が聞こえる。泣いている声が……。


「ごめん……」


「お願い……出ていって、今は……」


「……嫌だ」


「…………ふぐう」


「大丈夫だよ……何も気にしていないから」


「嘘だ!」

 声が変わった、布団の中から出てきたのだろう……暗闇で全く見えないでも俺は安心していた。そこに栞がいるって事だけで俺は安心できる。


「――嘘じゃないよ……」


「嘘嘘嘘……もう……もう駄目……私言っちゃた……お兄ちゃんに嫌われる……変態って……もう……もう……生きていけない……いや……いやあああああああああああああああ」

 栞が叫んだ、暗闇でパニックになっている。


「栞!」

 俺は勘を頼りに栞に手を伸ばす。手がベットの上で座っている栞の肩にあたる。俺はそのまま栞の肩を両手で強く掴んだ。


「いや! 離して、いやあああああああああああああああ」

 俺の両手を栞は掴んだ、そして強い力で自分から離そうとする。


「落ち着け、栞落ち着いて!」


「いや、いやああああああああああああああ」

 凄い力で俺の手を振りほどく、腕に栞の爪が刺さった。

 腕に痛みが走る……でもそんな物栞の痛みに比べれば、そう思いもう一度栞を掴もうとしたその時、栞はベットから降り俺の横を駆け抜けようとした。

 まずい、外にでも出られたら……そう思い俺は栞を抱き締めた。


「いやあああああああああ、離して、いやあああああああああ」


「落ち着け!」

 

「いやあああああああああ」

 どうにもならない、パニック状態の栞。こんな状態では何を話しても無駄だろう……でも……俺は伝えたいって思った。俺の気持ち、俺の思い……それを伝えたい、今栞に伝えなくていつ伝えるんだ!


 俺の腕の中でもがく栞……でも絶対に離さない……俺は栞を一生離さない。

 思いを伝えるのに言葉なんていらない……。





 もがく栞に、絶叫する栞に俺は………………キスをした……。

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