64-3 これからが本当のハーレム展開?
茜は私服だった。高級ブランドと思われるお高そうなコートを脱ぐとまたもやお高そうな花柄のワンピース……学校から一度帰り着替えてから来たって事か。
玄関先で妹と若干の口論になったが、無下に追い返すわけにはいかないし、近所の目もあると栞に言うと仕方ないと諦め茜を家に入れた。
今はリビングで俺の向かいに座っている。
「粗茶です」
「あら~~ありがとう、でもご免なさい、私紅茶しか飲まないの」
「…………」
そう言われるもうちにはコーヒーしかないと無言で言わんばかりの勢いで乱暴に茜の前にコーヒーを置くと、栞は黙って俺の隣に腰かける。
「……それで、何しに来たんだ?」
「あらご挨拶ね、妻が亭主の実家に来るのがそんなに変かしら?」
「貴女は妻じゃないでーーす」
あかんべーをしながらさも自分が妻と言わんばかりに俺の腕にしがみつく栞……。
「あら、本当に仲が宜しいですわね、まるで……恋人みたいに」
口を抑えながらケラケラと上品に笑う茜……意味ありげに、俺と栞の関係を知っているかの様に……。
「いや、そもそもなんで俺なんだ? スキー場でちょっと教えただけだろ? それだけで学校どころか家まで突き止めるって」
「お兄ちゃん! ストーカーだよ! 警察に電話を!!」
「ふふふ、一目惚れしたのよ」
栞の事は完全に無視をして俺だけを見て明らかに嘘をつく……俺に一目惚れって……。
「あり得ねえ」
鼻で笑って茜の言葉を一蹴する。ここ半年俺にモテ期らしき物が到来して、色々と告白されたが、顔や容姿で告白された事は一度もないわ、うるせえわ。
「そう? そこそこ格好いいわよダーリン」
「そこそこの奴にお前が惚れるか?」
「お前?」
「…………あ、茜……」
お前と言った瞬間に茜の目が変わる。こわ! なんだそのヒットマンの様な目は! ヒットマンの目を見た事は無いけど……。
「ふふふ、まあ良いわ、でも一目惚れは本当よ、短い時間だったけど私が貴方の事を好きになるには十分な時間だったわ」
「いや、だから……」
「好きになるのに時間なんて必要ないわ」
真剣な目で俺を見詰めながらそう言う茜、そのセリフを聞いた瞬間俺にしがみつく栞の腕の力が強まった。
「そして私が貴方を好きになったのは容姿ではない、ね? 栞さん」
「お兄ちゃんは容姿も顔も格好いいですうううう」
「うふふふ、本当あなた達兄妹は仲が良いですわね、羨ましいですわ」
「いや、だから……」
俺がそう言うと茜は一度天井を見上げ再度俺の目を見つめる。そしてその一瞬でさっきまでの微笑みは消えていた。
「私ね、ずっと前から探しておりましたの、好きになれる男性を」
「……好きに……なれる?」
「私ね、まあそこそこ裕福な暮らしをさせて貰っているのよね……だから男性の方から家を通じてよくお付き合いの申し込みがあるの……でも、それとこれとは別。そう言う男性は皆一様に私の後ろ楯が欲しいって、私の後ろにあるお父様の力が欲しいという男性ばかり……」
そこそこ? という突っ込みは置いておき、俺は黙って茜の言葉を聞く。
「だからずっと探しておりましたの、貴方の様な人を」
「いや、だからさ、なんで俺なんだって」
「だって貴方私の事しか見てなかったでしょ?」
「は?」
「あのスキー場で、私の事だけしか見てなかったのは貴方だけだった、いいえ、私の人生で貴方だけ」
「いやいやいやいや、ちょっと待ってくれ、そんな奴俺だけじゃないだろ? そもそも茜の事を知らないんだから、茜のバックとか家とか俺にはわからないんだから」
「そう? スキー場では皆私のウェアや板の事ばかり見てましたよ」
「それは俺だって見てたけど」
「そうよね、でも貴方は私に何も要求してこなかった……他の男性から感じる下心を一切感じなかった……そんな人初めて見た……」
「いや、ちょっとスノボ教えただけで要求とかどんだけだよ」
「普通の人ならそうかも知れません、でも私は初めての経験なの、そして多分今後も……」
「いやいやいやいや、いるでしょそんな奴、この世の中にごまんと」
「まあ……そうでしょうね」
「おい」
「でも私の前に現れるとは限りませんよね?」
そう言うと再びニッコリ笑う茜、クラスではにこりともしないのに俺の前ではよく笑う……。
「ちょっと待って、さっきから言いたい事言ってるけど、それって……お兄ちゃんの事をキープしたいって事じゃない!」
そのセリフを聞いて栞は俺の腕から離れ立ち上がると茜を睨みつけ猛然と言った。
「あら、そんなつもりはないわ、私ちゃんと結婚するって言ってますよね? まあ、でも……恋愛なんて元々そんな物じゃない?」
「そんな事ない!」
「そう? でも貴女の前に貴女のお兄様よりも、もっと素敵な男性が現れたら貴女は心がわりしなくて?」
「しないもん! っていうかそんな人なんていないもん!」
「でも、貴女はお兄様とは結婚出ないのよ? 当然子供も作れない、それが貴女のお兄様にとって良い事だと思いますか?」
「そ…………子供がいなくても……幸せな家庭だって……」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ……え? 茜……まさか栞が……」
「? ああ、栞さんが貴方の事を好きなのは調査済みですわ、そもそもあなた達隠しているおつもり?」
「──マジか」
いや、でも付き合っている事迄はバレてない……はず……。
「そうよ! 私はお兄ちゃんが好き! 大好き! 隠しなんてしないもん、悪いなんて思ってないもん! だってお兄ちゃんは受け入れてくれた! だから……」
ああ、言っちゃったよ……まあ、ここまでバレてるなら今更隠しても……。
栞は俺の顔を目を見つめる……そして……俺を見つめながらとんでもない事を口走った。
「お兄ちゃんが望むなら……私はお兄ちゃんの赤ちゃんを産むよ……それが……それが……私の夢だから……最後の……夢だから……」
そう言うと……栞の目から涙がこぼれ落ちた。
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