64-2 これからが本当のハーレム展開?

 

「あ、あれ?」

 気が付いたら家に帰っていた。あれ? さっき登校したばっかりだった気が……


「はい、お兄ちゃんいつものコーヒー」


「お、おお! ありがとう」

 いつも通り家のリビングで妹とお茶会……


 栞は制服姿のまま俺の前にコーヒーを置くと、そのまま俺の右隣に腰かける。う……ち、近い……い、いや……いつもの事、いつもの距離なんだけど……そのあまりの近さにコーヒーを飲もうとすると妹に、妹の胸に肘が当たってしまいそうで……あ、いや、これもいつもの事なんだけど、なぜか今日は気になる……なんだこの感覚は……


「もう、茜さんから逃げるの大変だったねお兄ちゃん」


「あ、まあ……」

 俺はそれ程大変ではなかったけどね……さっき学校の帰りに茜が俺の家に行きたいと言って来たが、すかさず栞が俺と茜の間に割って入り今日は色々と予定が詰まっているのでと断りを入れていた。ああ、だから記憶が飛んでいるのか……麻紗美に教わった技を初めて使ったけど、本当怖いな、記憶が飛んで帰って来れなくなる気が……よし、もう使うのは止めておこう。



「さあ……じゃあ、お兄ちゃんイチャイチャしよう!」

 栞はコーヒーを一口飲むとテーブルの上に置き俺の方に身体を向け両手を広げて言った。


「いや、イチャイチャしようって言ってイチャイチャするカップル見た事ないよ」 

 思わず吹き出しそうになるのを堪えて俺はそう言い返すと栞は驚きの表情に変わる。


「お、お兄ちゃん!! 私達の事をカップルって! あとイチャイチャする事は否定しないんだ!」


「え? あ、いや……」


「お兄ちゃん! ちょ、ちょっと待ってて、今準備してくるから!!」


「準備?」


「うん、今からお風呂に入って下着を取り替えてベットメイクをし直して!」


「いやいやいやいや」


「お兄ちゃんの部屋と私の部屋どっちがいい? どっちでする?!」


「いやいやいやいやどっちも無いから」

 するって、な、何をですか栞さん!


「お、お兄ちゃん! ま、まさか……ここで! でも……ありかも」


「いやいやいやいや、だから脱ぐな!」

 制服のボタンに手をかける妹をとりあえず止める。てか、ありなんだ……


「リビングでとか、台所でとか、お兄ちゃんの好きそうな展開だもんね」


「なんでだよ、嫌だよ」

 変態かよ、初めてがリビングでとか嫌だよ!


「だってお兄ちゃんそういうのよく読んでるじゃない!」


「いや、それは否定しないって何を言わせる!」


「お兄ちゃん、私達ももうじき2年生だし、お兄ちゃんももう中学生じゃないんだから、そういう本は止めてそろそろ実践してもいい頃だと思うんだけど」


「ああああ、謝れ、全国のエロ本好きの大人に謝れ」


「えーーーだってそういうのを読む人って彼女がいない人でしょ? でもお兄ちゃんには私が居るじゃない」


「妹とできるかあああああ!」

 そして読むよ、彼女いる人も読むから!


「妹と思わなければ行けるよ! さあ、お兄ちゃん勇気を出して!」


「勇気とかじゃないから、だーーかーーらーーースカートを脱ごうとするな!」

 勘弁してくれええ……


「じゃあさ……お兄ちゃん、どこまでなら良いの?」


「え?」


「どこまでならイチャイチャして良いの?」


「どこまでって……そりゃ妹とイチャイチャしていい範囲の中で……」


「──それってどこまで?」


「どこまでって……」

 妹と、どこまでイチャイチャが許されるのか……


「今までは良いんだよね?」


「今までって……」

 手を握る、腕を組むって事は日常茶飯事だし、まあそういう中の良い兄妹だっているとは思うけど……


「まあ、普通の兄妹がしている事までなら……」


「──でもさ、でもお兄ちゃん、私達付き合ってるんだよ!? だから普通よりも、少しくらいは……良いと思うの……」


「……あ、まあ……」

 言われてみれば俺と栞は付き合っている事に……ならば普通の兄妹では無いから少しくらいは…………


「兄妹で一緒に寝ている人だっているよね? お風呂に入っている人だっているよね?」


「え? ああ、まあ……確かに高校生でお父さんと一緒にお風呂入ってますとか聞いた事あるけど……」

 お兄ちゃんとデートとか言ってるアイドルとか声優とかは彼氏と偽って言っている事が多いらしいけど……


「私達、それはクリアしてるじゃない?」


「いや、クリアって言うか無理やりだけどな!」


「だから、そろそろ、そこから一歩踏み込んで見よう!」


「いやいやいやいや」


「勇気を出して踏み込め! そうすれば道は広がるよお兄ちゃん!!」

 栞は俺に拳を突きだし、大きな声でそう言う……


「いやいや、どこの修造さんだよ」

 暑いよ、真冬なのに暑すぎるよ、俺は思わずエアコンの温度を下げた。


「ねえ、お兄ちゃん~~いいでしょ~~そろそろこの物語も飽きられているみたいだしい、今更誰も気にしないし、そもそも誰も読んでないよ~~だから通報もされないし、ささっとしちゃえばバレないよ~~」


「いやいやいやいや」


「ねえ……お兄ちゃん」

 栞は赤い顔で俺を見つめてきた……俺も栞を見つめ返す。栞の瞳がうるうるとしているのがわかる。


「し、栞……」

 止めてくれ、そんな顔で見つめないでくれ……今そんな顔で見つめられると……


「俺……」


「お兄ちゃん……」


 栞と俺の距離が近付く……栞の顔がどんどん近付く……以前だったら止められた。でも……今は……俺は栞の事が……


 栞が目を瞑る、俺は鼻が当たらない様に少し顔の角度を変えた……そして少しだ、ほんの少しだけ唇を尖らせる……歯がぶつからない様に……


 軽いキスなら……世界を探せばいるに違いない、フレンチキスなら、世界のどこかにいるはずだ。兄妹でも……いるはず……俺はそう自分に言い聞かせる。


 もう目標はすぐ、これなら百発百中必ず命中するって距離で俺は目を閉じた。


 そして…………





『ピンポーン』

 はいお約束~~~~リビングに呼び鈴が鳴り響く……

 その音を聞き俺は我に帰った。いやいやいやいや、どこの外国人だよ、日本で妹とフレンチキスする奴なんていねえよ!


  「もおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 良いから、お兄ちゃん! 来客なんて良いから!!」


「いやいやいやいや」


『ピンポーンピンポーンピポピポピンポーン』

 更に鳴り響く呼び鈴、栞はとても読者様には見せられない様な鬼の形相でソファーから立ち上がるとインターフォンに出る。


「誰!!」

  栞がそう言うと少し間を開けて来客者が声をあげた。


『──私……ふふふふ……来ちゃった』

 声の主は俺の知っている声だった……さっき帰り際でも聞いたのでインターフォン越しでも直ぐにわかった。


「茜……さん……」

 栞はそう言うと、全身が震え出す。恐らく怒りに満ちているのだろう、プルプルと震え出した。


 多分……今、栞の顔は更にスゴイ事になっている事だろう……でも、栞は俺に背中を向けているので、その顔を確認する事が出来なかった。


 本当に……良かった……と、心から思った。


 え? どっちがって? それは……顔もキスも……両方だよ……


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