63-4 悪夢の転校生(渡ヶ瀬 美智瑠の思い)


「あああああああああああ! まただあああああ! また裕にいいいいいいいいいいいいい!」

 僕は枕を掴みベットに投げつけ、その枕にダイブした。

 なんなんだ一体、あいつは何者なんだ!? また裕に言い寄る女子が……なんなんだ? なんで裕はあんなにモテるんだ? もう草津の温泉の様に次から次へと沸いてくる……

 僕は自室のベットの上で枕を抱きしめながら裕の事を、そしてあの茜という女の事を考えていた。


 何故裕の周りにはあんなに美女が集まるのか? 別に特別顔が良いわけじゃない、身長だってそれほど高くないし、スポーツも勉強も僕の方が出来る……なのに何故?


「そんなの……そんな事は……僕が一番知ってる……」


 僕はこの容姿が嫌いだった。銀色の髪、白い肌、今でこそあまり言われなくなったけど、小学生迄は気持ち悪いだの、外国人だの言われ仲間外れにされたから……

 そのおかげで大好きなサッカーも一人でしか出来なかった。こっちに転校した時、このままじゃ駄目だって、変わらなきゃって僕は勇気を出して公園でサッカーをしていた子達に言った。仲間に入れてくれって……女の子じゃ駄目かもと男の子の口調や格好やまでして……

 頑張って勇気を出して言ってみたけど……何も変わらなかった……でも裕は、裕だけは僕の事を受け入れてくれた。


 僕はあれから裕って人間の事をずっと考えていた。優しい男の子……本当にそれだけなのか? 僕はあいつの事をただ優しいってだけで、僕を救ってくれたというだけで好きになったのか? いや、好きになる事に理由なんて無い……でも……僕はそれを知りたかった……僕が何故裕の事を好きになったのか、その理由を知りたかった。


 だから考えた、そして最近うっすらとその理由がわかってきた。


 裕は、殆どの事に、物に、人に執着しない。自らの大切な物でも平気で他人に差し出す……困っている人がそこにいれば、あいつは命をも差し出すかも知れない……僕の時もそうだった。あいつは僕の為に遊んでいた全員を切り離した。まだ子供なのに、仲間外れになる事に対して何も躊躇しなかった。それは恐らく今でもそうだ……あれだけ言い寄っている女子がいるのに自分の物にしようとしない、一切の事に執着しない。


 それがわかった時、僕は裕に対して一瞬恐怖を感じた。そして嫉妬した。そんな人間になりたいという憧れを僕は裕に対して抱いた。僕には出来ない、いや、この世に中にそんな人間がいるなんて思えない。そして裕自身それに気が付いていない……いや、ひょっとして周りの誰もが気が付いていない、一人を除いて……


 そう一人だけ……僕以上に裕を理解している人物が、そして殆どの事に執着しない裕が唯一執着している人物、自分から離さない人物が一人だけいる。


 裕がただ一つ守っている人物、そして僕以外でいや、多分僕以上に裕の事を知り尽くしている人物……それが……裕の妹の……栞だ……


 あの二人は……兄妹……でも恐らくその辺にいる兄妹とは全く異なる二人……どうなったら、あんな兄妹が出来あがるのか……

 

 病的な優しさのあまり、人が困っている姿を見たくないという理由で、自ら孤立する兄、そしてその兄の凄さを見習い、とんでもない程の友人関係を築き上げている妹……相反する二人はその凄さを認めあい、お互いに尊敬しあい、そして高めあっている。


 究極の兄妹愛を築き上げている。


 ただ問題は勘違いなのか? 子供なのか? その愛の大きさに、重さに惑わされているのか? 栞は兄を、実の兄に恋をしてしまっている……と、僕は思っている。


『好きになった理由がわからない』栞はそう言った。それを聞いて僕は思った。多分栞は大きすぎる、重すぎる兄妹愛を恋愛感情と錯覚してしまっているんだろうって……だから僕は見守る事にした。いつかは気付くかも知れないって思ったから……焦る必要は無い、二人が兄妹でいる限り恋人関係になる事はない……はず……勝負はまだまだこれからって思ったから……



 でも、あいつは、あの茜っていう女はヤバい、僕の勝負感がそう言っている。


 

 裕の事を好きな人物は皆、裕の正義感を見習っている、憧れている。

 だから基本フェアプレイだ、そして全員が生徒会役員……お互いを監視しあっている。


 でもあいつは違う、あの感じ……あの目……あいつは元副会長、市川 瑞樹と同じ目をしている……欲しい物はどんな手を使ってでも手にいれる……あいつと同じ……


 

「ぼ、僕だって……欲しいんだああああああああ!」

 僕は枕に顔を埋め叫んだ……僕にだって欲しい物はある、喉か手が出る程欲しい物が……

 僕は裕とは違う……欲しい物は欲しい、そして手に入れたら離さない、離したくない……自分の大切な物、大切な人……そしてそれを手にいれる為には誰とでも戦う。スポーツ同様、サッカー同様、正々堂々と戦って勝ちたい……でもそれは相手次第だ。相手が正々堂々と戦いを挑むなら、僕も同じように戦う、そして勝つ。でもあいつは違う、あいつは、あの目はスポーツじゃない……喧嘩だ。あいつは、あの茜っていう女はそう言っている。あの目はそう言っていた。


 だから、僕も遠慮はしない……あいつだけには、裕は渡さない……


 どんな手を使ってでも……僕の……身体を使ってでも渡さない、絶対に…………………………か! 身体って!



 ち、違う、違ううううう! そう言う意味じゃ、ない! ぼ、僕は一人で何を……ああああああああ、違うから体力って意味だから、ち、ちがうからあああああああああああ…………

 

 




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