61-6 明けまして……おめでとう


 広い風呂……檜の浴槽、婆ちゃんの家の風呂は本当に最高……


 風呂は最高なのに気分は最低だった。


「本当になんなんだ? 俺の中で一体なにが起きてるんだ? 俺……どうしちゃったんだ?」

 風呂に浸かりながら今日の事を思い出す。栞の事を考える。

 やっぱり顔が……見れない……時間が解決してくれると思ったけど、全然駄目だ、どんどん酷くなっていってる……


 栞の顔を見ると、目を合わせると何かおかしくなる。本当になんだこの感覚は? なんなんだこの感情は?


 今朝から急に栞の顔が見れなくなった。電車の中でもそれは続き今もそれは変わってない……いや、違う、益々悪化している。だって、今、目を合わせなくても、栞の事を考えるだけで、何か心臓の辺りが苦しくなる。


 何か悪い病気なのか? いや、違う……こうなった原因はわかっている。


「美月と栞の話をしたのが原因だよな……やっぱり」


『お兄ちゃまはわかってるんだよ、自分がお姉ちゃまを愛しているって事、そしてそれは言ってはいけない、思ってはいけないって事を!』


 昨日風呂場で言われた美月の言葉がまた頭の中で渦巻く、忘れようとしていたのに……

 白い肌、タオルを巻いた細い身体から伸びる細くて長い手足、温泉に浸かりほんのりと赤くなっている顔や肩……あああああああああああああ美月かわえええ、かわえええなあ俺の美月って、言葉忘れようとして何を思い出してるんだ俺は!

 

 しかし、忘れようとして簡単に忘れられるなら苦労しない。ましてやそれはあくまでもきっかけであって原因が解決したわけではない。


 結局原因って……俺の思いなんだろうな……俺の思い……栞への……思い………………!


「いやいやいやいや、俺が栞の事を?……ないない、あるわけない!」

 だって妹だぞ、妹……大事な大事な俺の妹、だけど妹だ、妹に惚れるとかあり得ない……無いって、ないない、俺が栞の事を好きだなんて……あはははは、無いってないない絶対に無い!!

 

 いや、仮にそうだとしてだ、仮に俺が栞の事を愛してたとしてだ、もしそうだとしたら、それは……最悪の事態になる可能性があるという事に他ならない。


 いや、だって、だってさ……今は良いんだ、今はまだ俺が止まれる。どんなに栞からアプローチされても、最後のライン、最近の言葉で言うと一線は越えないで居られる。それだけは自信がある! 当たり前だ、エロ漫画じゃあるまいし妹と……そんな事出来るわけない。

 

 でも……もしだ、もしも俺がそれを認めたら、もしも俺が栞を一人の女の子として、恋愛感情を抱いていたとしたら、それはもう……破滅しかないじゃないか……


 だって、だってさ、俺だって高校生だ、そう言うのに興味が無い訳じゃない。

 

 そりゃ興味あるよ、あるさ、あって悪いか!

 

 長谷川ハーレム? ああそうだよ、可愛いよ、皆凄く可愛いよ、美智瑠の美しさは半端ないよ、銀髪の妖精だよ! 可愛いさだけなら栞を越えるさ。麻紗美の癒しは最高だよ、ご飯も美味しい栞よりも凄く家庭的だよ! 会長は今やお嬢様さ、美しさ気品は栞以上だよ、先生は年上の包容力があって、そして明るくて優しくて栞よりも全然頼りがいがある。何より俺の憧れの人だよ! 雫だって可愛い、猫の様な可愛さはあの俺になついて来る感じは栞以上だよ! セシリーだって…………まあいいかセシリーは。


 とにかくだ、そんな可愛い女子達に告白されて、俺が何も動じてないとでも思ってるの? バカなの? 死ぬの? そんなわけ無い、揺らぐよ揺らぐさ。


 でも、でも……手なんか出せない、好意を受け止められない。


 こんな状態で、こんな感情で誰かの好意を受けたら、付き合ったら、それはただの性欲じゃないか? 


 そして、もしそれをしたら、そんな事をしたら……栞は泣くだろう……俺がそんな感情で誰かと付き合ったってわかったら、栞は泣いて俺に幻滅するだろう。


 それは嫌だ、それだけはしたくない、栞を、もう栞をこれ以上泣かせたくない。


 俺はゆっくりと広い浴槽でお湯に身体を潜らせる、頭の先までお湯の中に入る。

 息を止め水中で考える。愛ってなんだ? 恋ってなんだ? 性欲とどう違うのかと……


 仮に俺が栞を好きになったとして、それは妹に性欲を抱いたって事なんじゃないのか?


 息を止めて考える……俺が…………妹に…………栞…………に…………! 


「ぷっっはああああああああああ」

 ヤバい、死ぬところだった…………


「俺が……栞に?」

 本当にそうだとしたら…………最低だろ、気持ち悪いだろ、妹に性欲を剥き出しにしている兄とかもう……終わってるだろ……


 妹が、兄にならまだいい、俺が男だからかも知れないが、それはいい。でも……兄が、兄が妹に対してそんな気持ちでいるなんて……どう考えても……客観的に考えても…………気持ち悪い、そんな兄がいるってもし女友達に言われたら、俺は迷わず助けるだろう、そしてその友達に代わってその兄に言うだろう。


「お前は気持ち悪い奴だ! 最悪だ!」って…………


 もし俺がそうだとしたら、もし俺が栞にそんな気持ちを抱いていたら、俺は自分に言うだろ、お前は最悪な兄だって……


「そうだ、そうだよ、そんなわけない……俺が栞にだなんて」

 あり得ない、俺は自分の事を気持ち悪いなんて思わない、思いたくない。


「よし! 大丈夫……大丈夫だ!」

 

 部屋に戻ったら栞の顔を見よう、栞と目を合わそう、大丈夫、俺はそんな奴じゃない、妹に欲望を抱く気持ち悪い兄なんかじゃない。そうだ、そうだよ、美月だって万能じゃない、間違える事だってある。




 俺はそう決心し部屋に戻りそして妹の顔を見た、目を合わせた。


 ほら出来た、あははははは、全然問題なかったじゃないか!!



「お兄ちゃん……どうして……どうして泣くの?」 


 え? 俺………………泣いてるの…………か? え? どうして?


 全然…………大丈夫じゃなかった。





 




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