61-5 明けまして……おめでとう
私が美月ちゃんと目を合わせ闘志を剥き出しにしていたその時、部屋の扉が開きお兄ちゃんが部屋に戻ってきた。
お兄ちゃんは私と美月ちゃんが部屋の真ん中で正座をして向き合っているのを見て一瞬怪訝な顔をしたが、私と目が合うとやはり目を反らし何も言わずに私達の横を通り過ぎ美月ちゃんの勉強机の椅子に腰をかけた。
お風呂上がりのお兄ちゃんからはいつも嗅いだ事の無い匂いが漂う。家とは違うシャンプーと石鹸の香りだ。そして家とは違うのは香りだけではなく相変わらず私の方見ないお兄ちゃん。
目を合わせないと言っても別に無視をされているわけではない、話しかければ答えてくれる。これは一体なんなのか? お兄ちゃんは本当にさっき美月ちゃんの言ってた通り私を意識して目を合わせてくれないのか? 美月ちゃんの予想が外れていて、やっぱり私の事が嫌いになったんじゃないのか? そう考えただけで不安が走る、背筋が凍る……
「じゃあ、次は美月が入ってくるね~~」
美月ちゃんはそう言って部屋のタンスから下着とパジャマ取り出す。
私から目を反らしその美月ちゃんをじっと眺めているお兄ちゃん。美月ちゃんはお兄ちゃんが見ている事に気が付いたのかニッコリ笑って言った。
「お兄ちゃま気になる? 今日はイチゴのパンツだよ~~」
そう言いながら正面に苺のワンポイントが入った白い子供パンツをお兄ちゃんに見せる美月ちゃんって!!
「み、美月ちゃん!!」
「み、美月!」
私とお兄ちゃんが同時に美月ちゃんの名前を呼ぶとお互いに顔を合わせる、しかしお兄ちゃんはやはり目を反らし今度は下を向いてしまった。
「あはははは、同時だ~~じゃあ行ってくるね~~」
美月ちゃんはそう言うと私にウインクをして部屋を後にした。
多分二人きりで話せと気を使ってくれたって事なんだろう。
部屋で二人きりになった私とお兄ちゃん、何か少し気まずい雰囲気が走る。
「えっと……お兄ちゃん、お湯加減どうだった?」
「あ、うん、いつも通りだよ、やっぱり大きい風呂は良いよな」
お兄ちゃんは顔を上げ私を見てニッコリ笑ってそう言った。厳密には私の方を見てだけど……
「うん……昔、皆で一緒に入ってもまだ余裕があったもんね……」
弥生さん、前にも言ったがお祖母ちゃんは小説家、○○賞を取った有名作家、かなり前にお祖父ちゃんが死に若い頃夢だった小説を書き見事受賞した。
その時の賞金と印税を自分へのご褒美だと家のお風呂場を改築したらしい。おかげで古い家なんだけどお風呂場だけは温泉宿並の綺麗さになっていた。私達がやたらとお風呂に入るのは作者が風呂好きなのに加えて、子供の頃からここのお風呂に入るのが大好きだったからでもある。
ちなみにお祖母ちゃん、弥生さんは若くしてお母さんを産み、うちのお母さんはもかなり若い時に私達を生んだのでまだお祖母ちゃんなんて言う年では無い。それに加えてうちの体質なのか?女子は皆見た目よりもずっと若く見え、尚且つ弥生さんはいつも凄く若い格好をしてるのでどこから見ても30台前半、いや、20台、いや、場合によっては大学生に見えなくもないというスーパー美魔女、子供の頃一緒に何度かお風呂に入った時、その若くて綺麗な身体は今でもはっきりと覚えている。身体だけではなく顔も綺麗で頭も良く弥生さんは私も美月ちゃんも、多分お兄ちゃんも皆大好きで昔から憧れの人だった。
「そうだなぁ、婆ちゃんと俺と美月と栞で入ったよな~~、あの時婆ちゃん自分の事母さんの妹だって言ってて小学生の時まで本気で信じてたもんなぁ」
「私も騙されてた、でもそれぐらい若かったよね~~」
「今でも俺達の母親で、いや、美月の母親で通るかもな~~」
そう言ってケラケラと笑うお兄ちゃん、お兄ちゃんとする昔話は大好き、思い出が共有出来ている喜び、ずっと一緒にいる喜び、ずっと好きでいる喜びを感じられるから…………でも……今も相変わらず目を合わせてくれない、このままずっとこうなのか? 嫌だ、そんなの嫌……私を見てお兄ちゃん、ちゃんと私の事を見て……楽しい会話だけどやっぱり気になるお兄ちゃんの行動、いつまで経っても変わらないこの状況に私は意を決しお兄ちゃんに言った。
「お兄ちゃん……あのね……なんで? なんで……私の目を見てくれないの?」
「え?」
「お兄ちゃんずっと、今朝からずっと私の目を見てくれてない」
「い、いや、そんな事は……」
「ほら! 今だって私の喉元を見てる!」
「え、あ、いや、その……」
「ちゃんと見て! ちゃんと私の目を見て話して!」
「いや、別に見て…………」
私がそう言うとお兄ちゃんの目線がゆっくりと上に上がる。私の喉元から口、鼻、そして…………
お兄ちゃんが私の目を見た、じっと私の目を、2日振りにしっかりと目を合わせてくれた………………そして私と目を合わせると同時にそのお兄ちゃんの目からポロポロと涙がこぼれ始めた。
「お! お兄ちゃん!?」
「…………」
今度は私から目を反らさずにしっかりと見つめてくれている。でも……お兄ちゃんは泣いている、私を見つめながらポロポロと涙をこぼし始めている。一体どうしたの? お兄ちゃん……なんで? なんでまた……私を見て……泣くの?
「お兄ちゃん……どうして……どうして泣くの?」
「わからない……俺、泣いてるのか?」
私がそう聞くとお兄ちゃんは私から目を反らさずにポロポロと涙を溢しながらそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます