60-9 スキー旅行


「美月……ごめん……」


「お兄ちゃま……」


 俺は美月の肩にそっと手を置き美月をクルリと半回転させゆっくりとお湯の中に入れた。

 そして美月を背中から抱き締める。美月の髪から温泉の湯気と一緒に甘い香りが登ってくる。

 華奢な身体を壊さない様に適度に力を込めて美月をぎゅっと抱き締める。


「美月……ごめんな……俺はさ、栞の事以上に美月は俺にとって妹なんだ、大事な大事な妹って思っているんだ……」


「お姉ちゃま以上?」


「ああ、栞とは年子で、学年は一緒、妹だけど、姉でもあり、双子でもあり、同級生でもある。でも美月はいとこだけど、赤ん坊の頃からずっと知ってて、ヨチヨチ歩きの頃から俺は見てきた。小さい頃から一緒に遊んだ。だから美月は栞以上に俺にとって妹なんだ、大事な大事な妹なんだよ」


「お兄ちゃま……」


「だから美月と結婚とか、婚約とか……正直全く考えられないんだ。それは勿論栞ともだけど」


「お姉ちゃまも?」


「ああ、俺は栞のウエディングドレス姿を見た瞬間悲しくて悲しくて仕方がなかった……自分でもなんであんなに号泣したかわからなかった……」


「お兄ちゃま……」


「美月の言った通り俺は栞が誰かの物になるって考えたのかも知れない。今そう思っただけで胸が張り裂けそうになる、今でも泣きそうになる。でもそれが恋愛感情だなんて俺は思ってない」


「お兄ちゃま! でも」


「まあ、良いから聞いてくれ、さっき美月はずるい事を言うって前置きしてから言ったよね? だから俺も今からずるくて最低な事を言うよ……俺はね……美月のウエディングドレス姿でも泣くと思うよ……美智瑠でも麻紗美でも先生でも会長でも雫でもセシリー…………は泣かないかな? 俺はさ、今が凄く楽しいんだ。この状況って中学迄考えられなかった。ずっと一人でいた、栞とだってこんなに一緒にいることは無かった。本当に楽しい、今、毎日が凄く楽しい、うるさいって思う事も煩わしいって思う事もあるけど、でも俺はこの状況が1秒でも長く続いて欲しいって思ってるんだ。最低だろ? 長谷川ハーレムって揶揄されても俺はこの状態をずっと続けたいって思ってるんだ」


「…………」


「美月との関係だってそう、毎晩の様に電話で話して、こうしてたまに会って一緒に遊んで、お風呂に入って……凄く楽しい、凄く嬉しい」


「嬉しいんだ? お兄ちゃまのロリコン」


「そうだな俺はロリコンでシスコンで……最低だな」


「ううん……最高だよお兄ちゃま……お兄ちゃまは最高」

 美月はそう言うと俺の方を向く、そして赤く火照った顔で俺を見つめる。


「ずっとなんて言わない、でも……もう少しこのままで居たい、まだ高校1年なんだから、それくらい良いだろ?」


「うーーん、美月はまだ小学生だから良いけど、他の人はどうなのかなぁ? 皆待ってくれないかもよ、お兄ちゃまよりも好きな人見つけて居なくなっちゃうかもよ?」


「それは仕方ないよ、正直今でも一緒にいてくれて、俺の事を好きって言ってくれている事が不思議な位なんだから」


「あははは、大丈夫、皆居なくなっても美月は居るからね、お兄ちゃまの側にずっと居るからね、誰も居なくなっても美月はずっとお兄ちゃまと一緒に居るからね、妹だから……美月はお兄ちゃまの一番の妹なんだから」

 美月はそう言うと俺の背中に手を回し俺に抱きつく、そして俺の胸に耳を当てる。


「お兄ちゃまの心臓の音を聞くと、安心するの……」


「そか」


「うん…………ねえお兄ちゃま……バスタオル取っても良い?」


「え!」


「良いでしょ? 妹なんだから、お兄ちゃまは妹に欲情はしないんでしょ?」


「いや、えっと、そ、それは」


「お兄ちゃまともっとくっつきたい、だから……良いでしょ?」


 美月はそう言うと身体に巻いているバスタオルの結び目に手をかける。


「美月……そ、それは!」

 駄目だ、美月! それは……それは……フラグだ! 栞が!


「おおおおおおおおおおにいいいいいいいいちゃあああああああああああああああああああああああんんんんん!!」

 ほら言った通りだろ……脱衣場の扉が開き栞が飛び込んで来た。


「ずるいいいいいいいいいいい、私も入るうううううううううううう!!」

そう言うと栞は浴衣を脱ぎそのまま湯船に飛び込んでくるっておい!


「お姉ちゃま! 下着着けたまま!」


「美月ちゃんだってタオル巻いているでしょ!」


「今取る所だったの!」


「私も今脱ぐの!」


「やーーーーーーめーーーーーーーーてーーーーーーーー」


 俺は二人が揉めている隙をついて、そそくさと湯槽から上がり脱衣場に向かった。

 

 「お兄ちゃんんんんん、ずるいいいいいいいいいいい、美月ちゃんとは一緒に入ったのにいいい!」


「お兄ちゃまあああああ、もうちょっとだったのにいいい」


「美月ちゃん! なにがもうちょっとなの!」


 俺はそんな言い争いをしている二人を見ずにそっと扉を閉めた。



 このままで良いのか?……本当にこのままが良いのか? 

 

 俺はさっき格好つけて言った自分の言葉に早くも疑問を感じていた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る