60-8 スキー旅行


 

 その後俺達は3人で何本か滑り昼食を取った。

 午後もバッチリ滑るつもりだったが、ホテルで食べている間に天気が急速に悪化、吹雪となった為にやむ無く滑るのを止め部屋で寛ぐ事にした。


 俺は持ってきた本を読み、二人はトランプやら将棋やらで勝負をしていた。よくやるよ……本当に。


 最後にまた豪華な夕食、今日は日本食を食べ恒例のスキー旅行は終了した。



 終了?……いや、ちょっと待て、俺は一つやり残した事がある!……そう温泉……折角温泉露天風呂付きの部屋なのに肝心の温泉に入っていない……


 早朝俺はそっと起きる。二人は昨日と違いそれぞれベットでぐっすりと寝ている。


「やっと入れるチャンスが……」

 俺が入ると絶対に乱入してくる為に、2日間仕方なく大浴場入っていたが、やはり部屋の温泉に入ってみたい。


 早朝景色を見ながら一人でゆっくりと浸かれるとか最高だろ?



 俺は二人を起こさない様、ゆっくりとベットから離れ、音を立てずに慎重に脱衣場に向かった。


 脱衣場で素早く服を脱ぎ、念願の部屋付き露天風呂に!



「おーーーーーすげえ……」


 露天風呂に入ると景色が一望出来た。早朝まだ薄暗いが遠くに雪化粧した日本アルプスが見え、近くの山々は朝日に照らされキラキラと煌めいている。


「うお、さみい~~」

 露天の為に雪で冷やされた冷たい風が吹き込む、俺はゆっくりと肩まで温泉に浸かった。


「お~~~~最高」

 温泉に浸かりながら見る雪景色に感動しながら、ゆっくりと外を眺めていると、暫くしてお約束の通りバタン扉の開く音がした。


「マジか……」

 起こさない様に細心の注意をはらったが、やはりワンパターン作家、勿論このままなわけが無い。俺は恐る恐る扉の方を見た。そこには……タオルを巻いた小さな女の子が立っていた。ああ、BANされる方だ……


「お兄ちゃま、一人で朝風呂なんてずるいな~~~」


「み、美月!」


「しーーーお姉ちゃまが起きちゃうよ」


「いや、まずいって」


「大丈夫ほら個室露天だからタオル巻いたままで入れるから」


「いや、でも……」

 俺が止める間もなく美月はお湯に足を入れる。


「ふわ~~~温かい」


 そう言いながら俺の隣に座る美月、俺は美月の方を見ないように天井を向いた。

 俺が見なければ美月の姿は書けない、どうだこれならBANされないだろうなど考えながら暫く並んで浸かっていると、美月が俺に話し始めた。


「あのねお兄ちゃま……前からずっと聞こうと思ってたの、お兄ちゃま、お姉ちゃまの事どう思ってるの?」


「ど、どうって?」


「好きなの?」


「そりゃ勿論」


「女の子として?」


「え?」


「一人の女性として愛してるの?」


「いや……それは……」


「お姉ちゃまは今でもちゃんとお兄ちゃまの事愛してるよ、男の人として、恋愛対象として」


「ああ、うん」


「わかってるよね、まあ当たり前か」


「うん……まあ……」


「お姉ちゃまはお兄ちゃまにはっきりと言ったんだ」


「ああ、うん……入学式前日に……告白……された」


「そか……それで、お兄ちゃまはなんて答えたの?」


「え? えっと……付き合おうって、兄妹らしい付き合いをしようって」


「ふーーん……じゃあ今でも付き合ってるの?」


「……一応は……」


「そか……それで……お兄ちゃまはどうするの?」


「どうするって?」


「このままで良いの?」


「どうしたんだ? 急にそんな事を聞いてきて」


「うん? 急じゃないよ、前からずっと聞こうって思ってたの、お兄ちゃまが逃げられない状態を狙ってたの」


「逃げられない?」


「うん、今がそう」


「そうなの?」


「うん、ちゃんと答えなかったらこのタオル外してお兄ちゃまに抱きつく」


「……それは……逃げられないな」



「ねえ、お兄ちゃまは、お姉ちゃまの事を利用してるの?」


「利用?」


「うん、お姉ちゃまと付き合っているって言うのを口実に皆の告白を保留しているんじゃないかって思ってたの」


「そんな……事」


「お兄ちゃまは優しすぎる、だから人を傷つけられない、人の、女の子の好意を断れない、無下に出来ない。その口実に、自分への言い訳に、お姉ちゃまを使ってるんじゃないのかなって」


「そ! そんな事……」



「ねえ、お兄ちゃま……お兄ちゃまは気が付いていないの?」


「何を」


「お兄ちゃまはね……お姉ちゃまをね……愛しているって事に気が付いていないの?」


「俺が? そりゃ愛しているよ……」


「ううん、そうじゃない……お姉ちゃまの事が、好きって、一人の女性として愛しているって事に気が付いていないの?」


「俺が? どうして? そもそも俺は誰かを好きになるって感覚が」


「お兄ちゃま! どうして誤魔化すの! 分からないの?」


「な、何がだよ、美月は何が言いたいんだ?」


「お兄ちゃま……お兄ちゃま学園祭の時に、最後に泣いたよね? お姉ちゃまのウエディングドレス姿を見て泣いたよね?」


「え? あ、あれは……」


「あれは何?」


「あれは…………」


「わからないなら教えて上げるよ、あれはね、お兄ちゃまはお姉ちゃまを失いたく無かったんだよ、誰かにお姉ちゃまを取られたくない、自分の物にしたいって思ったんだよ。そして皆の前でお姉ちゃまにきちんとした形でウエディングドレスを着せてやれない、その悔しさで泣いたんだよ!」


「そ!…………」


「お兄ちゃまは分かってるんだよ、自分がお姉ちゃまを愛しているって事、そしてそれは言ってはいけない、思ってはいけないって事を!」


「美月……」


「ねえお兄ちゃま……美月……今から……ずるい事を言うね……お兄ちゃま……美月なら……美月ならお兄ちゃまと正式に結婚出来るよ? もう少し待ってくれれば正式に……今でも婚約者として、お兄ちゃまが望むなら……美月は今からでも」


「美月! ご、ごめん……」


「どうして! お兄ちゃま……何で謝るの?」


「ごめん……美月……ごめんな」

 俺は美月に謝った、目から涙が溢れ出る……それでも構わずに謝った……


「何で謝るの? お兄ちゃま……何で泣くの?」


「ごめんよ……美月……ごめん」


「謝らないでよおおおお、お兄ちゃま、謝らないでよおおおお」


 美月は俺の首に抱きつく、美月の火照った身体が冷えた俺の顔を、頭を暖める。

 俺はそっと美月の頭を撫でる。泣きながら謝りながら、ゆっくりと美月の頭を撫で続けた。



 




 

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