55-2 祭りと政

 

 週明けHRにて投票が行われた。


 そして授業が終わり栞も含めて俺達選挙に関わった全員が生徒会室に集まる。


 もし妹が当選した場合、前生徒会、今は会長一人なので会長から引き継ぎをして貰い、その後会長は後片付け等をして生徒会室の引き渡しを行う。



 まあ即日は無理なのでその日程を決める事になると思われる。


 会長が当選すれば引き継ぎ、引き渡しの必要はなく、会長はこの後副会長書記の任命をする。



「えっと、栞さん、今回何もしなかったみたいだけど、手を抜いてくれたの?」


「え~~手なんて抜いて無いですよ、去年の会長さんと同じ方法を取っただけです、副会長さん見たく裏から手を回す事はしてないですけどね、ただメールで宜しくって言えば私に票を入れたい人はそれだけで入れてくれますし」


「そう……」


「えっと今開票しているからって先生が、後1時間位で結果が分かるから持って来るって」

 美智瑠がここに来る時、開票状況を先生から伝えられていた。


「あ、じゃあ会長さん、先に引き継ぎやっておきません? 私色々ここに持ち込む準備もしたいし、会長さんも片付け大変だろうし、1時間ボーッとしててもしょうがないし」


「ちょっと栞さん、まだ貴女が勝った分けではないでしょ!」

 澪が雫の手を握りながら、かなり険しい表情で妹に食ってかかった。


「うーーん時間の無駄だと思うんだけどなぁ~~」


「栞」

 俺が少し嗜める様に妹の名前を呼ぶ。



「はーーい」


 うーーん、何故だ? 妹がこんなに強気なのは、しかもあんな態度を取るなんて……やはり勝ちを確信しているのか?


 そして1時間が経過するも先生は来ない……皆は何も喋らず先生が来るのを待った、そして更に10分が経過する。


「ちょっと僕が見てくる」

 美智瑠がそう言って席を立ったその時、生徒会室の扉がガラリと開いた。


「みんなお待たせ」

 走って来たのか息を切らしツインテールを振り乱しながら先生が生徒会室に入ってくる。


 皆は先生を見つめる、先生は一息ついてから持っていた紙をゆっくりと読み上げた。


「じゃあ、発表します、えーっとまず、1年23票差で……長谷川栞さん、2年18票差で……那珂川葵さん」


 やはり予想通り1年生の票は栞が取り、2年生の票はは会長が取った、差はたったの5票、3年の票差で決まる……俺達は息を飲んで先生の言葉を待った。




「3年……10票差で……葵さん貴女が会長です」




「!!!」


 その瞬間葵が声のない悲鳴を上げた、皆は一斉に葵を見る。


 俺はその時妹を見た、妹は……



「あ、あ、ありがとう、ありがとう……ございます、皆、ありがとう」


「おめでとう~~~」

 皆が一斉に葵を祝福する、美智瑠は葵に抱きついて喜んでいた、やはり根っからの体育会系だからか、勝負となると真剣でこの中でも一番会長と一緒に考え協力をしていた。


 美智瑠と会長が抱き合って喜ぶ姿を後ろから眺めていると俺の前をスッと通り過ぎ妹が会長に近付く。


「会長さん、さっきはすみませんでした、5票差で負けるなんてスッごく悔しい! でもこれが勝負、結果が全てです、私が負けました、学校の皆は会長さんに、那珂川葵に会長をやって貰いたいって事です、おめでとうございます」


栞がそう言って手をだし握手を求め、会長はそれを両手で握り締める。


「あ、ありがとう、栞さん、私の我が儘に付き合ってくれて……ありがとう、でも栞さんが本気を出してたら……私……勝てなかった」


「私は本気でしたよ、えっと……じゃあ……お兄ちゃん私……先に帰ってるね」


「あ、ああ」


「え? 栞ちゃん、行っちゃうのぉ?」


「うん、私は負けた側の人間だからね、ここは勝った人の居る場所でしょ、敗者はただ去るだけだよ」


 そう言って栞は生徒会室の扉を開け、一礼して出ていった。


「あんた……行かなくて良いの?」

  妹が出ていくと澪は俺にそう言う、でも……

 ここで俺が妹を追うのは何かこの勝利の喜びに水を差す気がする。


「ゆう君、ここは良いから……行ってらっしゃい」


「うん行ってきな」


「栞ちゃん、来てほしいってぇ思ってるよぉ」


「アンちゃん、GO」


「栞ちゃんは誰かを待ってまーす、でも今回は譲るデース」 


「えっと……」

 でも俺は今回妹の敵だったし……


 躊躇していると澪が俺の背中を思いっきりぶっ叩くって、いってえええええ!!



「ぐずぐずしてないで行け、男だろ!」


「くっ、じゃ、じゃあ皆、ごめん!」


 俺は鞄を手に取り妹を追いかけた、階段を駆け降り、下駄箱で靴を履き替え、外に出るが妹の姿は見えない。


 校門を駆け抜け、家の方向に走ると夕日の向こうで一人歩く妹の姿が。


「栞!」


 俺は声を掛け妹の元に駆け寄った。


「お兄ちゃん!」


「はあ、はあ、栞」


「お兄ちゃん……お祝いとか打ち上げとかあるでしょ? 良いの?」


「打ち上げは……栞とやるよ」


「私と?」


「ああ、打ち上げとお祝いは栞とやる!」


「私と? 何で? 私負けたんだよ?」


「いや……栞は負けてないよだって、栞も俺と一緒に戦ってたんだろう、会長が勝つ為に」


「え?」


「会長を勝たせる為に俺と、俺達と一緒に戦ってたんだろ?」


「お兄ちゃん」

 妹の表情が困惑した物から笑顔へと変わる。


 今回の選挙の勝利条件、それは会長が栞に勝って生徒会長になる事。

 栞よりも票を獲得し皆から信任されたと言う事実を会長に見せつける事にあった。


「そうなんだろ?」


「うん……知ってたんだ」


「いや、ごめん……、実はさっき迄分かってなかった」


「さっき?」


「うん、栞、会長が勝ったって聞いた瞬間、凄くホッとした顔をしてただろ」


「あーー、見られちゃったか」


「ああ、栞の表情を見た瞬間、そうかって、栞も一緒に俺達と一緒に戦ってたんだって」


「うん、会長さんには内緒だよ」


「会長も多分……ある程度は分かってると思うよ、あそこでこんなの勝ちじゃない! なんて言う人じゃないよ」


「ふーーん、随分信頼してるのねお兄ちゃん」


「信頼というよりは信用かな?」


「ふん」


「栞……裏から手を回して票の操作をしてたのか?」


「ううん、やってないよ、私がやってたのは票が誰にどのくらい入るのか調べてただけ」


「は?」


「うちの学校全員が誰に私と会長のどちらに入れる予定なのか調べて、それを美月ちゃんにそれとなく流してた、先週男子の票があまり読めないから少し危ないって、そうしたら美月ちゃんが分かったって」


「はああああああ?」


「あはははは、ごめんなさいお兄ちゃん、敵をあざむくにはまず味方からって美月ちゃんが言うから」


「くううううう……美月もかああああああ!」

そうか……二人が結託してたら何でもありだもんな……


「私が最後に調べた所だと、30票差で会長だったんだけどまさか5票差まで詰まってたとは、だからホッとしたと言うより、あぶなーーーって思っちゃった」


「あれはホッとじゃなく危ないって顔か……」


「うん」

 俺と妹はゆっくりと家に向かって歩き出す。


「もうここまでバレちゃったら全部話すとね、会長さんって副会長さんにずっと面倒って言うか全てを操られていたでしょ? だから今は誰も信用出来ない状態だと思うの、人も自分も、でもお兄ちゃんだけは信頼していたの、だからお兄ちゃんとそのお兄ちゃんの……仲間なら信用するかな? って」


「なるほどな、まあ俺よりもどっちかと言うと美智瑠を凄く信頼してたけどな」

 俺が澪の説得していた時に会長の片腕となり、会長を勝たせる為に尽力を尽くし一番動いていたのは他でもない美智瑠だった。


「うん、だからね、会長さんが勝った時の条件に、お兄ちゃんは生徒会入りさせないって言ったの、多分美智瑠ちゃんはこのまま生徒会入りすると思う、会長はそう頼むだろうし美智瑠ちゃんは多分断らない、美智瑠ちゃんてそう言う娘だからね、でも……お兄ちゃんも一緒だと、あくまでもお兄ちゃんが入ったから、お兄ちゃんが居るから美智瑠ちゃんが生徒会に入ったって会長は思う、私ね会長と美智瑠ちゃんて凄く合うと思ったの」


「ああ」


「今の会長さんに必要なのは、信頼出来る人、信用出来る人を作る事、お兄ちゃん以外にね、今後この先も続く会長さんの人生の為に、副会長の呪縛から完全に開放される為にね」


「栞……お前……そこまで」

 衝撃的だった、妹に勝って自信を付けさせるって所まではわかったが妹は更に先迄、今後の事、会長のこの先の人生の事迄考えていた。



「まあ、ある意味……私に取っては全部失敗なんだけどね~~」


「失敗?」


「うん、あーーー失敗した~~こんな事なら選挙なんて出なきゃ良かったああ」


「え、ちょっと、何が?」


「さっき久しぶりに生徒会室に入って久しぶりに会長を見たら、あーあ、失敗したなって思ったの」

 家に着き扉を開けながら妹はなんかまたよく分からない事を言い始めた。


「は? 失敗? えっと、どういう事なんだ?」


「えーー? お兄ちゃん気付いてないなら言いたくないな~~」


「ちょっと失敗って、えええ? 俺が気付いてない? なんかあったか?」

 なんだ? 美智瑠の事か? それとも会長? 選挙? えええ、一体何が?



「うーーーん、お兄ちゃんさあ、最近会長からチューされて無いでしょ」


「ええええ! ちゅうって……ああほっぺ舐められる奴か……、ああ、そう言えば……え? それが失敗?」

 俺がそう言うと妹は鞄をリビングのソファーに放り投げる様に置き、ドサッと乱暴にその隣のソファーに座り少しふて腐れた顔をして言った。



「会長さんお兄ちゃんの呼び方……にいにからゆう君に変わってた、後ね、例の発作も全然起きなかった」


「発作? ああ、そう言えば暫く会長の幼児化起きてないな、あれって記憶の定着が進むと治るって言ってなかったっけ?」


「それもあるんだろうけど……じゃあ何で呼び名が変わったのかなって、だから会長さんを見てたの……待ってる間……」


「見てた……、それで何が失敗なんだ?」


「うん、大失敗、あーーあ失敗したああ、お兄ちゃんから目を離したのが大失敗!」


「いや、全然意味が分からないんだけど?」


「本当、相変わらずそう言うところ鈍いんだから、会長さんお兄ちゃんを見る目が兄を見る目から恋人を見る目に変わってたの! だからにいにって発作も起きないし、呼び名もゆう君って変わったの、あーーーーまた長谷川ハーレムが大きくなったああああああああ」


「え、えええええええええええええええええ!!」

 いや、それって、えっと、えええええ?



「あーーあ、お兄ちゃんの為に頑張ったのに、私に良いこと全然無い」


「俺の為にって」


「だって……お兄ちゃん会長さんを会長にしたかったんでしょ? なって欲しかったんでしょ?」


「ああ、…………うん……そうだな」

 妹のダブルベッドの件とか色々あったけど、うん、そうだな俺は会長が会長をやってる姿が好きなんだ、本来の姿で会長が会長をやる所を見たかったんだ。


 俺は妹の隣に座り妹の頭をそっと抱き俺の胸に引き寄せた。


「ありがとう栞……いつもありがとう、俺の味方で居てくれて、頑張ったな」


「ふえ?」


「ごめんな、敵なんて思って、ごめんな」


「ふ、ふええええええええん、お兄ちゃあああああん、寂しかった、寂しかったよおおおおおおおお」


「うん……ごめん、栞はいつもどんな時も俺の味方だもんな、ごめん、ごめんな」


「ふええええええええん」


「敵なんて思ってごめんな、信じてあげられなくてごめんな」


「ううん、私も、嘘ついてごめんなさい、お兄ちゃん……大好き」


「うん」


 こうして生徒会長選挙は誰も栞に勝てない、結局栞の手の平で皆が踊っていただけという事実を残し幕を閉じた。






 ちなみに翌日会長から任命された者が校内の掲示板に貼り出され、そこには……


 副会長 渡ヶ瀬美智瑠、書記 酒々井麻紗美 初瀬川雫 セシリーマクミラン 生徒会役員外補佐、長谷川栞 長谷川裕 生徒会マスコット、山野井美月 という意味の分からない役職が発表された…………おい!


「やっぱり……失敗したああああああああ」

 その掲示板を見て妹はその場で絶叫していた……





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