51-4 妹の座争奪戦

 

 美智瑠はキャラ作りの為にとある場所に来ていた。



「と言うわけで君たち兄妹の観察に来たんだけど…………」

 妹の座争奪戦、一人っ子の僕は妹と言うものがどういった物か分からない、という事で、身近にいる兄妹を訪ねに来た。

 ここは以前ゆうと着物デートをした時、その着物を貰った従兄妹の家。


「えっと、ごめん美智瑠……今兄妹じゃなく、姉妹なんだ……僕達……」


「ああ、うん、君のその格好を見れば分かるよ……」

 従姉妹の兄妹……ああ、もう分けが分からない、えっと、義理の兄妹だけど最近仲良くなりしかもなんと付き合いだしたということで、兄妹の秘訣を教わり今回のヒントにしようと僕は訪ねて来た、来たんだけど……

 

 従兄の朋、前から女の子みたいな奴だった、女の子よりも綺麗な顔立ち、華奢で線が細い、でもそう言われると物凄く怒る、小さい頃はそれで喧嘩になることもあるくらいだった。


「えっと……その制服似合ってるな」

 嫌味ではなく本当に似合ってる……セーラー服がここまで似合う男子って……


「ありがと」

 セーラー服姿で姿勢よく座る朋……僕より女の子らしいその立ち振舞い……うーーん困った、妹の秘密を盗みに来たんだけど、その前に女の子としての自信を無くしそう……


「美智瑠ちゃんコーヒーでいい?」


「ああ、うん……ありがとう」

 前に会った時は録に目も合わせてくれなかった従妹の天音ちゃん、すっかり明るくなって可愛くなって、うーーんなるほど、妹ってこんな感じなのかな?


 天音ちゃんは僕の前にコーヒーを置くと、そのまま朋の隣にピタリと寄り添う様に座る……


「えっと、付き合いだしたっていうのは本当なんだな?」


「ああ、うん、まあ」


「えへへへへへへへへへ」

 うーーん兄妹っていうのは付き合う物なのか? あの二人も付き合っているらしいし、なるほど、じゃあこの妹の座争奪戦は付き合う為の登竜門って事なのかも……やっぱり負けられない……


「実は……今、朋にも言ったんだけど、僕……妹になりたいんだ、いや……ならなければいけないんだ!」

 僕は握りこぶしを掲げて力強くアピールする、この戦い勝たなくてはいけないと。


「えっと……どういう事?」

天音が不思議そうな顔で僕を見る、まあそうだよな……


「実は今度学園祭で妹カフェをやることになって、妹って言うのがどういう物なのか、君たち兄妹を観察しに来たんだけど……」


「へーー妹カフェ? 楽しそう、ねえ朋ちゃん行きたいね?」


「うん、そうだね~~でも天音より可愛い妹なんて居るわけないしな~~」


「えーー朋ちゃんの方が断然可愛いよ~」


「天音の方が可愛いって~~~~」


「朋ちゃんが可愛い」


「天音が可愛い」


「えーーーーっと…………僕帰ろうかな……」

兄妹だか姉妹だか分からないこの甘甘な二人に協力を求める方が悪かったのかも……

 僕はちょっと後悔し始めていた、でもやるしかない! この兄妹を参考に妹キャラを作り上げる!

僕はそう考えこの二人を観察していた…………でも…………甘いよおおおお






#########




 その頃麻紗美はキャラを作らずに、お菓子を作っていた。



「甘い~~~美味しい~~~甘さはぁこんなもんでいいかなぁ?」

 お客様は女子高生メインだからもう少し甘くても良いかな?


「中にぃ生クリームとかぁ入れた方がぁ美味しいけどぉ……お金がぁかかっちゃうからな~~」

 自宅のキッチンでシフォンケーキのレシピを見ながら検討する、当然材料費も考えながら。


「やっぱりぃやるからにはぁ美味しいものをぉ食べてもらってぇ喜んでぇ欲しいしねぇ」


「ついでにぃ……お金もぉ稼がないとねぇ」

 やるからにはその辺もきっちりとね……おっと今私……ちょっと悪そうな顔してる。

 いつもの顔に戻さないと、いつもの自分に……


「でもぉ私がぁ裕にアピールできるのはぁこれぐらいだもんねぇ……」

 こう言うときに自分の性格が憎らしくなる。


 自分の事が嫌いだった私、裕は私が大嫌いなそんな自分を受け入れてくれた。


 私は裕が受け入れてくれた自分を、私が大好な人が受け入れてくれた自分を好きになろうと決めた。


 でも……こう言うときに一歩下がってしまうそんな自分の性格がやっぱり好きになれない。


 裕の一番になりたいのに……裕の一番になる為には、こう言う時に前に出ないといけないのに……


「栞ちゃんにぃ勝つためにはぁ、これじゃダメなんだよねぇ」

 兄妹で兄を好きになってしまった栞ちゃん……多分悩んだんだろう、悩みに悩んだのだろう、私は石垣で衝撃を受けた……どうせお兄ちゃん大好き程度な子供の考えなのだろうと思っていた……、でも違った……そんな生易しいものじゃなかった。


「命がけだもんねぇ」

 あのとき栞ちゃんには勝てないと思った、文字通り命をかけた恋、裕に対してそこまで好きになれるって凄い、私はそこまでじゃないと思った。


 でも……諦められなかった、諦めきれなかった……だって……好きなんだもん、私だって大好きなんだもん、栞ちゃんには負ける、勝てない、でも諦めきれない、私だってそんな簡単な想いじゃない……


 だったら私だって……そう思った……


「でもなぁ……」

 シフォンケーキをまた一口食べる、今度は甘さが感じられなかった、しょっぱかった……


「あれ? ああ、なんだぁ」

 泣いていた……自分で気付かないうちに涙が出ていた……

 そうだよね、泣くほど好きなんだよね、私だって……


 一歩引いてしまうこの自分の性格が憎い、しゃべり方だって、性格だって直したい、でもそれが自分、この自分を受け入れてくれた裕


「私がぁ普通にしゃべってぇ、もっともっとぉ積極的にぃなったらぁ……」

 裕は受け入れてくれるのだろうか? そして栞ちゃんよりも、誰よりも私の事を愛してくれるのだろうか…………


 

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