45-6 葵の過去


 「お兄ちゃま、葵ちゃんの住んでいた所って分かる?」


「え? 昨日聞いたけど、詳しい住所とかは……うーーん、先生に聞けば」


「聞ける?」


「えっと、今授業中の時間だから終われば聞けるかな?」


「うーーん、じゃあお兄ちゃまの知ってる情報だけ頂戴」


「え? えっと、うちの最寄りの駅から二駅先の駅前のマンションで、なんか結構高級感があったって言ってたな、部屋はワンルームだったけど広かったって、部屋番号迄は聞いてなかったな~~」


「二駅先……」

 美月はスマホを見始める……何をする気だ? まさか……行くのか?


「うん……大丈夫そう……このマンションのワンルームは…………あった…………行けそう……」


「ちょっと美月? 行けるって?」

 俺が聞くまもなく美月は部屋を出る、っておい……、美月を追いかけるとキッチンの方に入っていった……へ? キッチン?


「にいに?」


「ああ、行かないよ大丈夫」

 会長が俺の後に付いてくるので部屋の外には出れない、美月を扉の所で待つと、何やら台所から色々持ってきた……


「美月?」


「お兄ちゃま……今から葵ちゃんの部屋に行ってくる、葵ちゃんお部屋に入るけどいいよね」


「ふえ?」


「はい、今許可を貰いました、じゃあ行ってくるね」

 そう言うと、美月の持っていた手提げ袋にそのキッチン道具等を詰め込んだって先生に怒られるぞ。


「おい! 美月ちょっと待て、許可って……それに鍵とかは先生が」


「あ、お兄ちゃま、鍵ってどんなのか見た?」


「え? 先生が持ってたのはうちの鍵みたいな奴だったけど」


「じゃあ大丈夫、オートロックはこの(自粛)を使うと(自粛)が(自粛)て分かるの、鍵は(自粛)で力を軽く加えつつ(自粛)で揃えて(自粛)が回るから(自粛)を入れて回すの、そうすると開くよ」


「えええええええ? ちょっ待て何を言っている」


「お兄ちゃま、美月ちょっと行ってくる、多分2時間位で戻るから、葵ちゃんにエッチな事しちゃ駄目だよ」


「おい美月、いくらなんでもそれは、先生が帰ってきてからじゃ」


「ごめん、お兄ちゃま、美月、あの先生信用してないの」


「え? まさか……」


「ううん、多分それは大丈夫だと思う、でも、美月はお兄ちゃま以外は基本的に信用してないから、それに……あの先生は職業柄プライバシーとか倫理とかを重視しそうでちょっと……、多分部屋の隅々まで全部見てないし、見ようとしても止められそうだからね」


「うーーん、まあそりゃ教師だし……でも駄目だよ、美月一人にそんな危ない事はさせられない、……どうしてもなら…………俺も行く!」


「でも…………葵ちゃんが」


「連れて行けばいい、最悪本人の家だ、鍵を無くしたで済むぞ!」




「ぷっ……あははははは、お兄ちゃまも悪い子だね~~」

 美月がお腹を抱えて大笑いする……


「美月と一緒にするな、後でお尻ペンペンだな」


「お兄ちゃまの、エッチ~~~」

 お尻を押さえながら笑う美月、ここでただ待っててもしょうがない、考えるより動けだな…………通報されなきゃいいけど……




####




 美月に頼んで会長を着替えさせ、会長のマンションに来る、美月は到着するなり、オートロックの前で…………まじか……


「ね? 簡単でしょ」


「いや、まあ…………」

 鍵を使わない暗証番号を入力するタイプのオートロックで、あっさり番号を入力し自動扉を開ける…………


「鍵を使うタイプとか、最新の液晶だとここまで簡単には出来ないんだけどね~~」


 マンションに入りながら美月が言う……それも簡単にじゃなかったら出来るんですか……そうですか……

 

 改めて美月の恐ろしさを震撼する……なんだこの小学生……


「あ、ポストに名前が、ラッキー」

 美月は郵便ポストに(自粛)で中身を確認……


「何も来てないか……」


 躊躇なく色々やってるけど、まさか……そう言えば誰にも言ってなかったのに先生の家に直接来たけど……こんな風に俺も何かされてるんだろうか…………


「お兄ちゃま、ほら行くよ~~」


 2階だけど会長がいるのでエレベーターで上がる、会長はなんだかキョロキョロしてるだけ、下手をすると泣いたり嫌がったりすると思ったけど、今の所は変わらない様子。


「ちょっと時間かかるから美月を隠すように立ってってねお兄ちゃま」

 なんか本当に犯罪者の気分……いや住んでる本人が居るから厳密に言うと多分セーフだと……でも美月……マジ手慣れてるんですけど……


 美月は(自粛)を取り出し鍵穴に入れる、(自粛)を(自粛)して(自粛)(自粛)って…………言えるかこんな事!!!


「はい開いたよ」


「マジか……」


「お邪魔しまーす」

 元気よく部屋に入る美月……なんか子供ほど犯罪に躊躇がないって言うけど、まさにって感じで怖い……まあ仮に捕まるとしたら俺だけどね……


 美月と会長の部屋に入る、美月は入るなりテキパキとトイレやキッチン、クローゼットを物色し始める……俺も美月と一緒に見たが、広めワンルームマンション 正確には、10畳くらい? バス、トイレ別でウォークインクローゼットとロフトが付いてる部屋なんだけど、なんだろう違和感が……


「お兄ちゃま……ここって……本当に葵ちゃんが住んでいた所?」


「え? そりゃ学校に登録されてるし、鍵も持ってたし」


「うん、でも……お兄ちゃま……ここって、人が住んでいた形跡がないの……」


「え?」


「うん……借りて適当に家具を置いて、それだけって感じ……どういう事?」


「いや、こっちが聞きたいよ美月、どういう事だよ?」


「えっとね、まずトイレ……トイレットペーパーの買い置きがない、トイレが綺麗過ぎる、年頃の女の子なんだから……買い置きが置いてあってもいいし」


「あとキッチンもここまで綺麗なのは異常……シンクがピカピカ、ヤカンに水跡もないなんて……クローゼットの服と下着も新品過ぎる……」


「どういう事だ?」


「お兄ちゃま、ここにお兄ちゃまの学校の制服ってある? 昨日来てたとしても予備くらいあっても、それに外で会った時ときの服ってある? 美月が見た服は無さそうだけど……」


「俺が見たのは……似てるのはあるけど、Gパンに白いシャツだったからな~~、あ、最初に会った頃に見たあの凄い服は無さそう」

 パンツと胸が見えそうな奴……


「そもそも冬服は? 体操服は? 夏休み終わったばかりで学校に置いてあるの? そもそも学校の教科書は? これ見よがしに使った形跡のない参考書はあるのに……」


 机の上に参考書が置かれており、不自然にシャーペンと消しゴムが置いてある、机に落書きもない、ノートもない……確かに不自然だ


「なんか、誰かにお金を渡して、女子高生が住んでいる風にしておいて的な感じがするの……」


「なんの為に……」


「多分……ここに住んでいる事にして、本当の自宅を隠していたんじゃ……」


「なんでわざわざそんな事を?」


「例えば……生き別れたにいに、に見つからない様にとか?」


「副会長が?」


「うん……」


「だったらもっと遠くにした方が」


「お兄ちゃまの学校に行かなきゃいけない理由があるでしょ? 今は越境入学出来るけど限度ってものがあるし、ポストには必要なものが届くだろうし」


「少し離れた場所にって事か、実際は違う場所に住んでいたって事?」


「うん……例えば……副会長の家とか……でもそれはないか……だとすると……」


「そう言えば……うちの家の近所で何度か会ってる、駅でも会ったし」


「副会長の家から近い所に本当の家がありそうだね」


「いくら金かけてるんだよ……そこまでするのか?」


「でも、そうすると証拠は……、葵ちゃんの物は全部処分しちゃったかもだね……残念だけどその副会長、一枚も二枚も上手かも……」


 何か会長の事に関するものがあるかもしれないと思ったけど……まさかここまでやってるとは、そう思った時俺のスマホに妹から着信が入る……



「栞、どうした? 何かあったか?」

 俺が問いかけると、妹が少し焦った口調で答えた。


『お兄ちゃん大変……副会長と書記の子が学校を辞めたって』


「ええええええ!!」


『正確には海外に留学するからって連絡があったって、今朝、副会長と書記のクラスの子が担任からそう言われたって、今先生が詳しく聞いてる…………お兄ちゃん? お兄ちゃん聞いてる?』


 やられた…………つまり、これで会長の過去を調べる手掛かりが……ほとんど消えてしまったという事か……


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