45-5 葵の過去
「うん……うん、九蓮! うん……え! うん……わかった……弥生ちゃまありがとう、うん……月曜迄には多分……うん、じゃあ気をつけて」
早朝妹と先生は会長、元生徒会メンバー等を調べる為に早めに学校に行った。
会長はまだ寝ている、俺は先生に出して貰ったパンをかじりながら美月と話していたが、美月のスマホから着信があった、相手は婆ちゃん、なんか……ちゅうれんとか言う言葉が聞こえたんだが……麻雀をあまり知らない俺でも知ってる役満の名前が……婆ちゃん怖っ!
「お兄ちゃま……だいたいわかった……けど……」
「どうかしたか?」
昨日の夜にメールで名前から何か調べられないかと、作家で今編集長らと麻雀をやっていた婆ちゃんにお願いした所、早くもわかったらしい……まあ、わかったと言うことは、事件事故でという可能性が高い、後は有名人とか……しかし美月が知らない段階で有名人って線はほぼない……つまり
「うん……まず、お兄ちゃまは天才だね、葵ちゃんのお父様の名前は美月がまちがっていたよ」
「え?」
「陸じゃなくて……那珂川えりおだって、字は衛星のえい、理科のり、男って書いて衛理男って当て字っぽいというかなんというか……」
「えりおって電波女かよ!」
「電波? ああ、結構前にやってたアニメだね、うん、まあ、変な感じがするけど、ほとんどそのまんま怪人の名前だったね……美月もまだまだだな~~常識に縛られちゃう」
「いや美月の予想の方が常識外だから……で、やっぱり?」
「うん……6年前に亡くなられてる、葵ちゃまのお母様と一緒に……」
「6年前…………って……ひょっとして」
「うん被害者の名前にあったって……」
「震災か……」
「うん……でもこれで大体分かったよ」
「分かった?」
「うん……多分ね……でも一つだけ分からない事があるの」
「一つだけ?」
「うん……にいにがどこにいるのか」
「亡くなってはいないと言うこと?」
「分からないけど……多分……そうじゃないと会長にならないから」
「会長にならない?」
「うん……」
「ごめん、分かるように話してくれ」
なんだろう、本当の天才って言ってる事が分からないって言うけど、まさにそれだ……
「えっとね、あくまでも美月の想像ね、全部が完璧じゃないから」
「ああ、わかってるよ」
「恐らく家族は亡くなった場所……○○地区に住んでいたと思うの、そこで津波に巻き込まれた、多分葵ちゃんはその姿を見たんだろうね……当時はまだ10才くらい……今の美月と同じくらいだったはず……、大人でもショックでどうにかなっちゃうような被害だもん、子供でましてや両親が……なんて…………人間てね……ショック過ぎる事があると、記憶を消しちゃうの、電気のブレーカーと一緒で……、多分葵ちゃんは10歳くらいの頃の記憶毎消しちゃったんじゃないかな?」
「それで今みたいな状態、小学校低学年くらいな状態に?」
「うん……恐らく……」
「じゃあ、あの……俺が、俺達が見ていた会長はなんだったんだ?」
「多分……副会長が作った……って言うとおかしいけど、誘導したんじゃないかなと」
「誘導?」
「うん、記憶の作り替え、10歳の子供に思い込ませるの、要するに洗脳と一緒、一度崩壊した物を作り替える」
「そんな…………」
「そこに、にいにが絡んでいる様な気がする……」
「にいにが?」
「うん、例えばお前は見捨てられたとか、裏切られたとか」
「そんな……、じゃあ今の状態は」
「うん、その思い込ませた事がなんらかしらによってバレちゃったんだろうね、副会長の嘘だったって」
「そんな…………」
そんな事ができるのか、いや、そんな事をする奴がいるのか、俺は憎しみが込み上げて来た、人を憎むなんて事今まで……なかった……
「なんだそれ……人の……人生をなんだと思ってるんだあああああああ!!」
俺はテーブルを両方の拳で叩く、なんだそれ、悪魔かよ!
「お、お兄ちゃま……」
涙が溢れて来る、畜生……なんて事を…………
「お兄ちゃま……あくまでも美月の予想だから……、それにそう言われると、美月がしたみたいに……ふぐう、ふえええええええええん」
そう言って美月も泣き始める……え、なんで、俺は副会長を………………ああ!、そうか……しまった、美月は自分が怖いんだった、そんな事を考えられる自分が周りから恐れられ、登校拒否するようになっていたんだ。
「ご、ごめん美月、違うんだよ、美月を責めてるわけじゃない、それにそんな事を知ってても美月がするわけないだろ」
「で、でもおぉ、ノーベルだって……、フォンブラウンだって……、アインシュタインだって……、その能力が将来何万人、何千万人の命を奪う事になったんだよ、…………美月はそれが……怖い」
「…………いや、そんな歴史上の人物と自分を一緒に考える美月が怖いよ」
「でも……、現に美月はそうやって人を傷付けてきた、今だってひょっとしたら違う事を言っているのかもしれない……、もし違ってたら副会長やお兄ちゃま、葵ちゃんを傷付ける事になるの……」
「あ……うん……そうだな……、ごめん、ごめんよ美月、憶測で物を言っちゃいけない、そしてそれを頼んだのは俺だ、この通り謝る、ごめんよ美月」
そうだ、あくまでも予想だ、違う可能性だってある、俺は何を聞こうとも冷静でいなくちゃいけないんだ……あくまでも俺の考えの補佐として美月に聞かないといけなかったんだ、でも……、そんな事を思いも付かなかった……畜生、なんの為に今まで本を読んで来たんだ、美月だって全部本から得た知識じゃないか……
「ううん、美月も……ごめんねお兄ちゃま、もう振りきったつもりだったんだけど、まだまだだね」
俺は美月の頭を撫でる、美月が泣き止むまで撫で続けた。
「ごめんよ、あくまでも美月の予想って事、事実とは異なるって事は理解したよ、……でもごめん……俺は馬鹿だからさ、もっと美月に聞かなきゃならないんだ」
「ううん、大丈夫……お兄ちゃまは何を聞きたいの?」
「簡単な事さ、過ぎた事はどうしようもない、未来を考えよう……会長は……どうなる?」
「うんそうだね、えっと……洗脳が解かれた状態なんだよね今は、ただ副会長がもう要らないって言ったって事は、同じようには出来なかったって事なんだと思う……そしてそのキーワードは多分……」
「にいにか?」
「うん、副会長は多分にいにはお前を見捨てた、なんて事を言ってたんじゃないかな? それが嘘だったのがバレた、もうにいには使えない、家族に裏切られるってそんなショックな事はそうそうないだろうから、そして何年もかけて1からやるより、既にもうそうなっている人がいる、新しいオモチャがって言うのはそういう事なんじゃないかな?」
「あの夏海っていう書記か……彼女も?」
「それは美月には分からない、その人の情報が全くないから、でも……似たような事なんだろうね」
「なるほどな、それで会長は戻るのか? 前の状態に?」
「うーん、全く同じ状態に戻るって事は無理じゃないかな……、でも6年前から今までの記憶や経験が無くなったわけじゃないはずだから、このままなんて事はないとは思うけど……でもそれは分からない」
「やっぱり、にいにか……生きていてくれれば良いんだけど」
「うん…………でも……お兄ちゃま……もし亡くなってたら……どうするの?」
「え?」
「葵ちゃんにはっきりと言えるの? それとも一生葵ちゃんのにいにでいるの?」
「え……そんな事……」
「お兄ちゃまは人を傷つけられない、それはとても良いことだと思う、でもこういう状態、ううん、お兄ちゃまが複数の人から好意を持たれている今の状態でいる時、それはお兄ちゃまにとって最大の弱点になるの……」
「最大の……」
「誰かの好意を受け入れれば、誰かが傷つくの……お兄ちゃまはいつかそれを、ううん……ひょっとしたら……もうすぐそれをやらなければいけないかもしれない」
「……」
俺は美月に何も答えられなかった、自分でも自覚はある……優柔不断ではないつもりだ、いつかは答えを……でも……
「にいに!!、にいに!!、にいいいにいいいいい」
「あ、ヤバい起きたみたい」
俺は居間のソファーから立ち上がり、隣の客間の扉を開けると、会長が泣きながら布団の上に立っていた、そして俺を見ると会長が俺の胸に飛び込む
「にいに、また何処かに行っちゃったかと……行かないでええ、どこにも行かないでえええええ」
「大丈夫、大丈夫だよ」
会長の金色の髪を撫でながら落ち着かせる……
もし……にいにがいなければ、会長に本当の事を言わなければいけない……それは今の会長を見捨てると言う事……
それを俺は出来るのだろうか……
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