39-4 裕の凄さ


 「えへへへへへ、わたひのうたあ~~はあはあはあはあえへへへへへ」


「……」


 もう一回、もう一回と延々あの曲を歌わされた……そして栞が完全に異世界に旅立っていまだに帰って来ない……仕方ないので引っ張ってカラオケボックスを出る……

 とりあえず担がないでも歩いては来るけど目が何処かに行っているので手を引っ張って家に向かう……


「おーーーい、栞~~しっかりしろ~~」


「えへへへへ、ブラウンヘアーにしちゃおうかなえへへへへへ」


「やめて、黒髪すきなんだから……」


「えへへへへへへへへへ」


 駄目だ……こりゃ、もう歌えないな……



 まあ、お陰で俺の刑の執行はこれで終わった、ああ、しゃばの空気はうまいな


 家に連れて帰り、部屋に叩き込む……まだ異世界から帰って来ない、まあ明日には帰って来るだろう……、それとも異世界迎まで迎えに行かないと行けない?


 とりあえず一度部屋に戻り部屋着に着替えて、美月の部屋に行く


「美月~~いるか~~入るぞ~~」

 ノックしながら扉を開けると美月は机に向かっていた……

 なにやら本を一心不乱に読み耽っている……凄い集中力


 邪魔したら悪い気がしたので扉を締めようとした瞬間美月が振り向く


「!!!、なんだお兄ちゃまか、びっくりした~~」


「あ、ごめん邪魔しちゃったな、後にするよ」


「ううん、お兄ちゃま最優先だよ、それに趣味の本だし」


「趣味? なんの本読んでいたんだ?」


「えっとね最近凄く嵌まってるの、こないだお兄ちゃまと博物館に行ってから興味が出ちゃって」


「へーー何に興味を持ったんだ?」

 俺の心が聞いちゃう?それ聞いちゃうと訴えている……


「えっとねニュートリノの質量に関しての論文」


「へーーーー……」


「うん、凄いんだよ光には質量がないとされているんだけど、ニュートリノにはそういう理論は存在しなかったのね、そもそもニュートリノって超新星爆発の時に大量に観測されるんだけど、爆発の発生が地球で観測されるより先にニュートリノが観測されているんだけど、これは光より早い物質じゃないかって言われたの、光より早い物質は存在しないってのはアインシュタインの相対性理論で言われている事なんだけど、それを覆す発見と大騒ぎになったのね、でも結論としては光速を越えた証明は出来ないと言われたの、じゃあなんで光より速く到達するかって言うと、要するに超新星爆発の前段階でニュートリノが発生して地球到達その直後に光速で到達した超新星爆発が観測されているという事らしいのね、でも限りなく光速近い物質に質量があるってのは大発見で、それを観測したスーパーカミオカンデって言うのが…………」


 ああ、言っている事が全然わからない……美月の言葉が脳を通過し始める……ごめんね美月、俺も異世界に旅立ってくるわ、お~~~栞がまだいた、しおり~~兄ちゃんも来たぞ~~~




「……ちゃま……お兄ちゃま……ねえお兄ちゃま聞いてる?」


「え?ああ、聞いてたぞ、スーパー神尾で買うんだっけ?、新製品のトリノ、ニュートリノって言う商品を……」


「あはははは、スーパーカミオカンデだよ面白いねお兄ちゃま、でもそれ最初の方に話した事だよ、聞いてなかったのね」


「ごめん、俺には難し過ぎて……美月は凄いな~~」


「……ごめんねお兄ちゃま……お兄ちゃまだから、つい調子に乗っちゃった」

 少し落ち込む様子の美月に罪悪感を感じる……俺の勉強不足ですまん、でも文系なんで物理は苦手で……


「いや、いいんだよ、ちゃんと聞いてない俺が悪いんだから、でもこの間の博物館は面白かったよ、美月の説明があってさ、また行こうな」


「うん!」

 こういう返事とか小学生なんだよな~笑顔が超可愛い……ハイハイどうせロリだよ……


「えっとじゃあ、美月に話しがあるんだ、良いかな?」


「うん」


 俺はそう言うと、床に胡座をかいて座る、それを見て美月は俺の前に座るかと思ったが、そのまま俺の前まで歩きくるりと背中を見せる……


 えっ? と思うまもなくそのまま座る……俺の胡座の上に……


「ちょ、美月、ちゃんと話したいんだけど……」


 美月の頭頂部に向かって話す事になってしまうが美月はさらに俺に寄りかかる。


「お兄ちゃま、ちゃんと聞こえるから大丈夫だよ」

 いやキチンと目を見て話したかったんだけど、それにこの姿勢少しヤバい……


「うーーん、まあ良いか」

 美月の体温と甘い香りにクラクラしてくる、この愛玩動物みたいな愛くるしい生き物をぎゅうっと抱き締めたくなる衝動を押さえつつ、美月の頭と長い髪を撫でながら話し始めた。


「美月は留学は今でも嫌なのか?」


「うん……嫌」


「海外は怖い?」


「うん、怖い……」


「そうだよな、俺は飛行機が苦手だし」


「ううん、海外に行くことより、お兄ちゃまと遠く離れるのが凄く怖い」

 美月は身体を抱え震える素振りを見せる……


「えっと……、でも2年間会ってなかったよな、留学もそれくらいだろ?」


「違うよお兄ちゃま、時間より距離が怖いの、今この状態が1怖いとすると長野は1000怖い、海外は……想像が出来ないくらい物凄く怖い……」


「えっと……この状態で1怖いんだ……じゃあ0は?」

 俺も聞くなよそんな怖い事を……


「服が無くなれば0かな~~~」

 美月は頭をフリフリ身体を左右に揺らす、やめてえええ、美月のお尻が…………


「……またそんな事を……」

 裸で美月と抱き合う想像……そしてこの刺激、やべえ……

 色即是空空即是色……えっと何かえっと苦手な数学えっと


「0、1、1、2、3、5、8、13、21、34」


「お兄ちゃま、なんでフィボナッチ数列?」


「自然の驚異に対抗しようと思って……」

 あとボッチという言葉に反応して覚えてしまった……


「ふーん、自然界っ言えば、ちなみにフィボナッチ数列の公式で現れる数1.61803398874989……っていう数字があるんだけど、これって黄金比って言うの、お姉ちゃまのお顔ってこの黄金比に当てはまるんだよね~~美月はまだお顔が子供だから当てはまらないの……お姉ちゃまみたく綺麗になれるかな~」


「また難しい事を言うし……美月と栞はそっくりだよ……」


 閑話休題……


「じゃあ美月は留学は嫌なんだな」


「お兄ちゃまは美月が海外に行って良いの?」


「じゃあ海外は無しな、絶対に無しな」


「へへへへ、お兄ちゃまだーーいすき」


「そうするとどっちかになるよな……」


「うん……」


「俺が信じられない?」


「ううん、お兄ちゃまは美月を裏切ったりしない、信じられないのは自分なの……」


「自分?」


「うん……」

 美月はそう言うと俺を下から見上げる、いやん鼻の中見えちゃう……鼻毛切ったよな、この間……


「お兄ちゃまと一緒に住んだら、そのうちお兄ちゃまの全てが分かっちゃうかも……そうなった時の事が怖い……」


「俺の全てが……」

 美月の目が俺を通す俺の中を覗く……ああ、これかこの目か……そりゃ怖いだろうな、この目で見られたら、でもな……


「あっはははははははははは、見れば良いだろ、どんどん見てどんどん理解しろ、そうすれば美月ともっと仲良くなれるな!」


「えええええ」


 美月は驚きの表情になった、物凄く不思議な物を見る様な目で俺を見つめていた。


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