39-3 裕の凄さ


 「美月ちゃんの今後の事なんだけどね、弥生さんと色々相談しているらしいの、それでね今3っつの選択肢があるって言ってるの」


「3つ?」


「うん……、一つはね今の学校に行き続ける、とことんまでやっちゃえって……」


「戦えって事か?」


「うん……益々孤立するかも知れないけど、前から弥生さんはそれで良いって言ってるらしいんだ……けど……」


「うーーん」

 まあ、あの勝ち気の塊みたいな弥生さんなら、そうだろうな~~、でもおおごとにするってのは……あまり好きな方法じゃない……


「もう一つは留学」


「なんか言ってたな、でも小学生で留学って大丈夫なのか?」


「ボーディングスクールっていって全寮制の学校があるんだよ」


「全寮制……でも美月が馴染めるか……それに留学は嫌だって言ってるみたいだし」


「世界中から留学を受け入れてるから色々な才能を持った子がいると思うよ、美月ちゃんの様な子だって世界を探せばいるだろうし海外の方がそう言う受け入れ体制も出来てるよ、国によっては飛び級だってあるし、将来を考えると美月ちゃんの為になると思うよ」


「で、でも……語学とか美月はちゃんと出来るのかな」

 出来るに決まってる、でも美月にだって不得意な事はあるかも、特に俺と一緒でコミュ障気味だし……


「……お兄ちゃんて、美月ちゃんのお父さんみたい……それも超過保護の」


「え! いや、だってそれは……心配だし……」

 妹が留学するとか受け入れられるわけないじゃん、あのアニメだって追っかけて行って連れ戻しただろ……


「私も留学するって言ってみようかな~~お兄ちゃん止めてくれる?」


「駄目だ!! 絶対に駄目!!! 反対、絶対に反対!!」


「えっと…………お兄ちゃん!!」


 妹が俺に抱き付く、俺はそれを抱き返す……だって……嫌だもん……


「でもね、本当に美月も栞も行きたいっ言うなら止めない……我慢するよ」


「行かないよ、私は何処にも行かないからね、ずっとお兄ちゃんの側にいるから」

 美月の様に首に絡み付く妹……えっとここカラオケボックスだからあんまり絡むとヤバいんだけど……まあこれくらいなら……


「それで、もう一つって?」

 妹の背中を撫でて次の言葉を促す。


「えっとね、まあお兄ちゃんも私も美月ちゃんもこれならって言うのが、こっちの私立に転校するって言う案」


「私立に?」


「うん、都内有名私立小学校に編入するって事、ちょっと遠いけど家から通うの」


「有名私立ね~~」


「ある程度英才教育が施されてる学校なら美月ちゃんもそれほど浮かないかなって」


「お受験って事か、み、美月はしっかりした良い子ですって言えば言いかな?、えっと何着て行こう」


「なんでお兄ちゃんが行くのよ、叔父さんと叔母さんでしょ」


「あ、ああそうか」

 

「すっかり美月ちゃんの保護者になってるし……」

 

「そうか、でも目の届くところにいてくれれば俺も対応出きるし、助けられるし……都内私立か……」


「あ、美月ちゃんなら国立でも行けるんじゃないかな?」


「まじか! まあ余裕か……、スカラシップもとれるんじゃないかな?」


 凄いからな~さすが俺の美月……おっと



「……お兄ちゃん何か変なこと考えてる?」

 妹がじとっとした目で俺を見る……いや変なことなんて考えてないない、

 俺は首を振り否定した……


「それでね、ただ美月ちゃんが家に住む事を悩んでいるの……」


「家に、なんで? まあ両親から離れて暮らすって小学生じゃ辛いよな……」


「ううん、美月ちゃんが悩んでいるのはお兄ちゃんの事、私と同じような悩み」


「栞と?」


「うん……お兄ちゃんに近づけば近付くほど、離れるのが怖くなる……嫌われるのは耐えられない……そんな悩み……」


「そんな事!」


「うん、お兄ちゃんはそう言うだろうって、でも美月ちゃんは私よりお兄ちゃんとの関わり合いも繋がりも少ない、だから他の人と一緒で怖がられるかも、って不安みたい……」


「…………」


「お兄ちゃんに嫌われたら耐えられない、怖い……私も美月ちゃんも……」

 妹は再び俺の腕にしがみつく、離したくないというより、離れていかれたくなという思いが伝わる……


「美月も栞もわがままだな」

 少し突き放す様な言い方で栞を嗜める。


「え?」

 俺のその言い方に少し戸惑う様子を見せる妹、それを見てさらに続ける。


「わがままだよ、美月も栞も……、だってそうだろ? 俺に信用されてないって言っておいて、栞も美月も俺の事を信用してないじゃない?、信用されたいなら、俺を信用しろよ!!」


「お兄ちゃん……」

 栞が驚いた顔をした、そして……


「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!! うれしいいいいい、お兄ちゃんが怒った、私に初めて怒った!!!」



「は? え?」


「私の夢がまた叶った、うれしいいいいいお兄ちゃんんんんん」

 妹が俺に絡み付く、ヤバいって今店員が部屋の前通ったって……この部屋監視カメラとかないよね……



「怒ってない、怒ってないから離れて、なに栞Mなの?」


「相手がお兄ちゃんならどっちでも行ける!!!」


「いかなくていいから……」


「私ねお兄ちゃんに一度怒られたかったの……、こらって叱られたかった……お兄ちゃん優しすぎるから無理かなって……嬉しい」


「怒ってないけど怒られて嬉しがられても……」


「えっと、まあ……とにかく、俺を信用しろ!……分かったよ美月には今夜話す、最終的に決めるのは美月だし叔母さんや母さんや弥生さんにも聞かないとな」


「叔父さんやお父さんは?」


「うちは女子に権力があるから聞くまでもないでしょ、栞も含めてな」


「私はお兄ちゃん優先だもん!」


「まあ、とにかく美月には夜に話しとくよ」


「うん……いいな美月ちゃん……」



「それであと二つの嫌な事って?」

 俺がそう聞くと俺から少し離れて反対方向を向く妹……


「……今日の夜にお兄ちゃんに二人から電話がかかって来ますので……」


「二人?」


「うん、美智瑠ちゃんと麻紗美ちゃん……」


「なんで?」


「多分デートの誘い……」


「え?ええええええええええええええええええええええ」


「ふん」

 さらにそっぽを向く……


「なんでってか、まあ……えっと……いいの?」


「良くない!!……でも……お兄ちゃんを束縛しないって言ったし……それに……」

 妹は振り返り、俺を見つめる険しい表情で


「それに?」


「いいの!!、行っていいよ!!、でもエッチなことはしちゃ駄目だよ!!」


「しねーーよ」


「じゃあ許す、その代わり今から私に向かってラブソングを歌って! 帰るまでずっと!!」


「えええええええ、俺歌下手だぞ」


「いいの、歌って!!」


「へーーい」

 渋々妹のリクエストに答える……

 

 そして俺はさっきどこからかかかってきて思いだした、とある古い曲を選んだ。


 聞いたことがある昭和の曲……

 前にラジオから流れて凄くいい曲だと思った……




 選らんだ曲はサザン




 曲名は……『栞のテーマ』



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