31-4 秘密の旅行


 「え、え、え、おに、おに……おにいひゃ、ひゃああああ」


 俺の腕の中で全裸の妹があたふたする。


 どうだ!、俺だって妹に困らされてばかりじゃ無いって所を見せたぞ!


 実はこないだ発見したんだが、日頃は積極的な癖に、いざこっちが開き直る行動をすると、途端に動揺する。

 妹は当然俺と一緒で誰とも付き合ったことは無い、付き合った事は無いが、恐らく知識は豊富、そしていつも異世界にぶっ飛んでいく妄想癖の持ち主な為、妄想の中では物凄く進んでいるんだろう、それが一見経験豊富に見える、だが、それは、ただ耳年増なだけ、実践経験はない、いざとなると絶対に尻込みするはずと読んだがその通りになった。


『ふはははははは、どうだ、慌てただろう、俺が栞の言いなりばかりになってると思うなよ!!』


 俺はそう言って妹にどや顔をし…………あれ?いま俺、声を出してなかったよな、心で叫んでいたな……、なにやってんだよ、ここは決め台詞を言い、最後どや顔で締める所だろ、さあ!もう一回……



「………………」


 …………あれ?声が出ない、何でだ?…………、ああそうか……読みが甘かったか、この作戦の最大の弱点が出たな……



 そうこの作戦、……俺も動揺しちゃうんだよな……



 今、風呂場で抱き合っている、しかもタオルも何も無い全裸のふたり、抱き合ってるので当然姿は見えない、今も俺の目線は入り口付近だ。



「ふええええ、おに、おにおに、……おにい…………ちゃん」


 俺の耳から妹の声がはっきりと聞こえる、そりゃそうだ俺の顔の横にすぐ妹の顔があるんだから。



 俺のみぞおちの辺りに、とてつもなく柔らかい感触のものが2つはっきりとあるのが分かる。


 しかしその感触よりも感じたのが皮の感触……


 人間の皮膚と皮膚とがくっつき、それが微妙に動く、肉の上にある人の皮膚と言うか……、皮があるな!っていう感触……、凄く説明しずらい、気色悪くもあり良くもあり、そんなよく分からない感触が全身から伝わってくる。


 裸で抱き合うって、こうなんだ……


 いやいや、そんな事を思っている場合じゃない……、これ、どうすんだ……


 当然これ以上先に進める分けには行かない、こう言う所で公衆良俗に反する行為は当然ながら禁止されていますので……。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう


 逃げちゃダメ、逃げちゃダメ、逃げ、いや古いギャグで現実逃避してる場合じゃない。


「ひっ、ひっ、ぴーーー」


「え?」


 その時、なんか変なラマーズ法が聞こえたと思った途端、妹の力が抜ける、フニャッって感じで……


 そのまま崩れ落ち、風呂の中に沈んで行く…………、えええええええええ


 慌てて妹を風呂から持ち上げ、抱き抱えた。


「ああああ、柔らかい、すべすべしてるううう、いやそんな事言ってる場合じゃないって」


 俺は蟹に祟られているわけでもないが、結構軽い体重の妹の身体を持ち上げ、風呂から引きずり出す。


 側にあったバスタオルで素早く身体を巻き、脱衣場に連れていく


 だらりと力の抜けている妹を抱え脱衣場に入り妹を床にそっと寝かす、更に上から備え付けのバスタオルを掛け、捲れている太もも辺りを隠す。


「おーーーい、栞!大丈夫か、おーーーい」


 妹は呼び掛けに反応しない……


 え?ヤバい?溺れた?


 途端に不安が駆け巡る


『え、え、え、?、どうしよう、ヤバい、死んじゃう、栞が死んじゃう……』


 俺は慌てて妹を揺さぶるが、妹の目は閉じたまま……


「え、どうすれば、え?、人口呼吸? 心臓マッサージ?」


 確か顎を上げ気道確保し、鼻を押さえて……ありったけの知識を総動員させる。


 顔を近づける、紅潮している妹の顔が近付く、プリっとした下唇、リップを付けているかの如く濡れ輝いている。


 キス? いや違う人工呼吸だ、急がなければ、確か3分だか5分だか以内に回復しないと脳にダメージが残るとか……


 妹の鼻を押さえ、唇を…………



 唇を…………




 唇が…………




 尖ってる……?




 キスをせがむように、唇を尖らせている妹…………





「お、お、ま、えなあああああああああああ」

 はあああっと項垂れる俺……やられた、やり返された……



「お兄ちゃん、はーーやーーくーーー」


 目を閉じて唇を尖らせたまま妹がのたまう……


「はやく起きろ風邪引くぞ!!」


「えーーーーー」


「えーーーーじゃないよ、そういうの本当に止めてくれ、心臓に悪い、お前がいなくたったらって、お前が死んだらって思ったら……」

 考えただけで寒気がする、考える事さえ脳が拒絶する、妹がこの世から居なくなるなんて世界を想像する事さえ出来ない。


「あ~~、うんそうだね、ごめんね、お兄ちゃん……」


 バスタオルで身体を押さえつつ、妹が起き上がる、良かった……本当に


「でもお兄ちゃん、私をビックリさせる為に抱きついたんでしょ! 仕返しだもん!」


 気がついてやったのか、でもあんまり俺をからかうと、本当に……


「とりあえず、入り直したいけど、ここ40分位で出ろって事らしいから、そろそろ出ようか?、後は大浴場に行くか、星空鑑賞に行くかだな」


「星空かー、石垣の時より綺麗かな?」


「あー、まあ流石にあれよりは見れないんじゃないかな?」


「でも、面白そう、行こうよお兄ちゃん」


「ああ、そうだな」

 妹は足を伸ばして座っている、そしてここで驚愕の一言を発した…………



「ところでお兄ちゃん………気がついていないようだから、そろそろ言うけど……お兄ちゃん今……何も付けていないよ…………えへへへへへへへへ」


「え?」

 俺は下を向く…………………………あ


「し、しおりーーーー見るなああああああああ」

 俺は慌てて後ろを向く、み、見られた、完全に、しかも目線の位置で……


「えーー、お兄ちゃんだって私の裸見たでしょー、おあいこだよー」


「見てない! タオルをすぐに巻いただろ、ていうか、気がついていただろ!!」

 気絶した振りをしやがって、そこまでするか? っていう位の凄い演技力だった、そんな才能まであるのか……?


「あ、じゃあ今もう一回見せ合おう、はいお兄ちゃん」


 はいと言われても、後ろを向いているのでどういう状態かわからないが恐らく……


「はいじゃない、いいから早く服を着ろ、イベント始まっちゃうぞ」


「えーーこれがメインイベントなんだから後はどうでもいいよ~~ほらお兄ちゃんほら見て、もっと見せーーて」


「痴女か!!」


 今回こそはと思ったが、本当にこの妹には全く勝てない……勝てる気がしない……




 まあ、それがいいんだけどね…………








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