31-5 秘密の旅行


 「ねえお兄ちゃんみーーせーーてーーー、もっとちゃーーんーーとーー」


「見ただろ、しっかり見ただろ、ああ、もうお婿に行けない……」


「私が貰うから大丈夫!!」


 二人でぎゃあぎゃあ言いながらなんとか着替える。

 妹はずっとこっちを見ながら着替えていたみたいだけど、俺は反対を向いていた。


 何でこっちを見ていたか分かったかと言うと……


「お兄ちゃん、お尻綺麗~~、背中結構大きい、あ、ホクロ見っけ」


 こんな調子である……ほんと勘弁してください。



 ###


 部屋に戻ってフリースを着込む、真夏でも夜になると結構寒い、部屋を出てロビーに降りると、結構な人数が集まっていた。


 ホテルの前に停まっているマイクロバスに乗り込む、回りの年齢層が結構高めで若干浮いている、まあ家族連れで子供もいるのでそんなに気まずくはないが。


 バスが動き始める、行く場所は今日通った美しの塔辺りとの事。


 しばらく走ると、凄い光景が見える。


「お、お兄ちゃん、何あれ?牛さん?何か大きい動物が一杯いるよ?」


 窓の外を見ていた妹が声をあげる。

 暗闇の中に大型の動物らしき群れがうっすら見える、牛ではない何かがそこにいた。


 周りも気付いてみんなみていると、バスの運転兼ガイドの人が、あれは牛にあげている塩を夜行性の鹿が夜に食べに来ているとの事。


「鹿?ああ、そうか、さっき風呂から見えたのはあいつらか……」


「お兄ちゃん目が光ってる、怖いよ~」


 人間と一緒で動物は塩が必須、特に野生動物は塩分をとるのに苦労する、肉食動物は獲物から取れるが草食動物は草自体塩分が少ない為、特に苦労するらしいとの事。

 それが夜な夜な牛にあげている塩を食べにやってくるらしい……いいのかそれって……


 ちなみに、ここに放牧されている牛は、牛舎とかなくほったらかしとの事、夜はどこかで寝ているらしい……すげえな牛……


 バスが停車し外に出る、真っ暗かと思ったら今日は月が出ていて少し明るい、星も月があるとあまり良く見えない。


 ガイドさんが星の説明をし始める、俺と妹はそこから少し離れ手を繋いで二人で空を見上げる。

「うーーん、やっぱり石垣より見えないな」


「でも月が綺麗……美月ちゃん泣いてるかな?お兄ちゃん居なくなって」


「俺がいなくなったって言っても別に一生の別れってわけじゃないんだから」


「私だったら泣くよ、お兄ちゃんとしばらく会えないなんてなったら……だから美月ちゃんも今頃泣いてるよ、お兄ちゃんの鈍感……」


「……また鈍感か……」

 本当にわからん


 俺と妹はそのまま帰るまでずっと月を見ていた……



 ホテルに戻るとお茶とお芋が用意してあった、年齢層高めだけあって中々渋いけど、こういったイベントやサービスやらが豊富なホテルで結構おもしろい、明日の朝も日の出を見に行くイベントがある。



 部屋に戻って、寝ようかと二人で着替える。

 俺も妹も普通に着替える、もう下着姿なんて何でもなくなりつつあるのが怖い


 パジャマは荷物になると持って来なかったので、ホテルの作務衣を着る、俺が着るとなんかおっさん臭いけど、妹が着ると可愛い


 

 妹は着替え終わると布団に正座する。

 え、なに?またなんか始まると思ったら、本当に始まった……


「お兄ちゃん、ふつつか者ですが宜しくお願いいたします」


 三つ指をついて頭を下げる……なにその作法……


「えっと、何それ?」


「もう全てを見せあったし、私とお兄ちゃんは次の段階へ進むべきだと思うの、それを期待されてるみたいだし」


「えっと、誰に? て言うか、別に何もしないぞ、寝るだけだから」


「えーーーーー、しないのーー」


「しないよ!何するんだよ!」


「えーーそんなの、せ」




「ああああああああああ、いうなしいいいい」



「けんばなしとか?」


「なんで世間話を三つ指ついてふつつか者ですがなんだよおお」

 またからかっているんだろう、ほんと、からかい上手の栞さんだよ全く


「えーー、別にお兄ちゃんの好きなようにしても全然いいんだけど、とりあえず脱ぐ?」


「今度は、かんばらさんかよ……」


「じゃあせめて一緒のお布団で、ね、お兄ちゃん、何にもしないから、ね」


「男女が逆だよそれじゃ、ああもうなんでもいいよ、寝るぞーー」


「やったああああ、大好きお兄ちゃん!」


 俺と妹は布団の中に入る、最近一緒にとか慣れてきたとは言え当然すぐには寝れない、まあまだ寝るにはちょっと早いしと色々な話しをしていた。



「ねえお兄ちゃん、夏休み楽しかったね」


「まだ半月以上あるだろ」


「うん、ただ去年と比べたら考えられない位に楽しかったから」


「まあ受験だったしな」


「ううん、私ずっと悩んでた、お兄ちゃんが好きで悩んでた、お兄ちゃんを見る度にどうしてお兄ちゃんを好きなんだろうって……でも今はお兄ちゃんを好きで良かったって思えるようになった、そうしたらもう楽しくて嬉しくて……」


「たった4ヶ月でお兄ちゃんとこうしたいって事がどんどん叶って行くの、去年迄とあり得ない位に、考えられない位に叶っていって、そう考えると少し怖いくらい」

 いわゆる死亡フラグってやつだよな、幸せ過ぎる後だと何かあるんじゃないかって……


「そうだなー、俺も栞とこういうふうになるなんて夢にも思わなかった……」

 本当にそうだった、俺と妹は去年まで普通の兄妹だった、今年の春妹から告白され、たった4ヶ月ここまで変化するとはね、でも俺も凄く楽しい。


「もっともっと一杯お兄ちゃんとしたい事があるの、協力してくれる?」


「協力って……まあ、出来る事と出来ない事があるけど」


「じゃあ、腕枕は?」


「はははは、いいよほら」


「えへへへへ、また一個夢が叶った~~」

 妹の小さい頭が腕に乗る、今日使ったシャンプーの香りがする、でもどうしてこんなに甘い匂いに変化するんだろう……


 その香りが凄く心地よく一気に眠気が襲ってくる。


「お兄ちゃん?……寝ちゃった?」

 何か妹が話しかけてるけど、意識が朦朧として良く聞き取れない


「お兄ちゃん、私…………じゃ……なか……」


 私たち、無かったら?


「私……最後……夢…………」

 最後?夢?、妹の最後の夢?かな?それって何だろう?


 そう思いながらも眠気には勝てずに俺は夢の中に落ちていった。



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