31-2 秘密の旅行
「はぁ、はぁ、はあっ、し……しお……り、はあ、はあ」
「お、おにい……ちゃん、はぁ、はぁ」
「はぁっ、はぁ、も……もう、おれ……」
「おにい……ちゃん、も、もう……ちょっと……だよ」
「もう、はぁ、だめ……だ」
「もう……ちょっとで、あと、少し……」
「はぁ、ご、ごめん、はぁ、はぁ、栞、おれ、もう、げ、限界……」
「…………もう、お兄ちゃん体力無さすぎだよ~~~」
「し、栞だって、はぁ、少し息上がってるだろう……はああああああ」
一旦立ち止まり小休止する。
「だってこんな格好だし、体力は問題無いけど~~この辺りたぶん標高が高いんだよ~息が切れたのは空気が薄いせいだよ!、お兄ちゃんは完全に体力不足でしょ~~?」
俺達はホテルに向かって歩いていた…………歩いていた、だけだから!
ここ迄の途中、美しの塔という石で出来た塔があり、そこに備えてある鐘をならし……
『カラーーン、カラーーン』
「えへへへへ、ウエディング場の鐘みたいだね~~お兄ちゃん」
「いや、これって霧の時に遭難しない為の鐘らしいから……」
その後塩くれ場という所を通過して……
「お兄ちゃん!牛さんが石舐めてる!!」
「ああ、なんか牛って塩が必要らしくて、ここで塩をあげてるらしいぞ」
その2つを経て、ホテルに向かって登って行く途中だった。
美しの塔辺りからホテル方向を見ると傾斜的にはそうでもない感じがしたが、実際歩くと結構キツイ、標高が高いんだろう、空気も薄く感じる
そのせいか、歩くだけで息が切れるのに更に登るって……つらい……
「はあ、はぁ、結構きついな……、栞は平気そうだな~」
「うん、はあーぁ、空気薄いけど、美味しい~~」
俺は振り返り、歩いてきた道を眺める。
「お~~!いい眺め、さっきの美しの塔が見える」
誰かが鐘を鳴らしているのだろう、結構距離はあるが鐘の音が聞こえる。
「お兄ちゃん、ホテルすぐそこだよ~~、早く行こう!」
「う~~い、もう少しだな~~」
1時間ちょっとかけて登ると、少し古く感じるホテルに到着、下から見えた通り周りには電波塔が立ち並ぶ。
「近くで見ると、全然悪魔の住みかっぽくないね」
「なんか大きな山小屋みたいだなー」
「お!、入り口に標高が書いてある、標高2034m……そりゃ息が切れるよ……」
「お兄ちゃん、ここに綺麗な花が…………えっと……な、なんでもない」
「ん?どうした」
妹が紫の花を前に怯えている……なんだろ?
「い、いいから中に入ろう……」
慌てた妹に背中を押され、ホテルの中に入る。
中に入ると一瞬タイムスリップしたような、時代を感じさせるロビーが広がっていた、でも汚さは微塵も感じない清潔感のある古さで凄く印象が良かった。
「なんか素敵~~」
「外はちょっと古びてたけど、中は綺麗だな」
チェックインをして部屋に行く、部屋はここで一番安い部屋にした、さすがにね~~
「あ~~やっぱり景色は良くないね」
「う~~~ん、まあしょうがない」
安い部屋だけあって眺望はあまり良くない、窓の外、すぐ目の前に電波塔がある。
ただその先に北アルプスらしき山々が見えるので、そこまで悪いとは感じないけどね。
「でもお部屋は凄く綺麗、……お兄ちゃんお茶飲む?」
「あ、うん、ありがとう」
座卓の前に座り、妹にお茶をいれて貰う……なんかいいな~こういうの……
お茶を飲みながらイベントや食事の時間が書いてある紙を取り出す。
「なんか色々イベントがあるみたいだな」
「どんなのがあるの?」
「えっとね、ウエルカムドリンクとか、四季のスライド上映とか、星空鑑賞会とか、王ヶ鼻って所で日の出を見たりだって」
「へーー、なんか面白そうだね」
「まあ行けたら行こうか、その前に眺めが良いみたいだから暗くなる前にちょっと見に行こうか」
「うん!」
ホテルには、屋上展望台とテラスがあり、そこから眺望が楽しめる。
外に出てテラスに行く、丁度チェックインの時間のせいか、結構な人が景色を眺めていた。
「うわーーーー、凄いーーー凄い凄い凄いーー!!」
「おーーー、凄いなーー」
テラスから見た風景は壮観だった、夕日に照らされた雲が眼下にある、日によっては雲海が見えるらしいが、今日はそこまでの量ではない、でも……夕日に照らされた山と合わさり幻想的な風景がそこにあった。
「なんか、夏休みに入って、たったの数週間で、凄い景色に出会うよな~~」
「うん、ちょっと贅沢だね……」
妹は俺の手を握る、俺も握り返して一緒に景色を堪能する。
「お兄ちゃんと見れるのが、私は一番贅沢……お兄ちゃんありがとう……一緒にいてくれて……」
「うん」
真夏なんだがやはり山の上、気温が低く、妹の手が暖かく感じる。
そのまま手を繋ぎ暗くなるまで、その景色を見続けた……
その後予約をしていた為、ちょっと早めの夕食を食べにレストランに向かった。
「うお!凄い豪華……」
「美味しい~~」
夕食は会席料理で山の上とは思えない量と質、中でも岩魚の塩焼きを炭火で焼きながら各席を廻って出していくのは面を食らった、凄い!焼き立てで美味い!
「うお!刺身まである、しかも美味い」
「お兄ちゃん、このご飯なんか生姜が入ってる、美味しい、今度おうちで作るね」
食後のコーヒーとデザートまで食べ、かなりの満腹感を味わいつつ部屋に戻る。
部屋には布団が敷いてあった…………やべえホテルで布団ってシチュエーション、ちょっとドキドキする、別に何もしないけど……
「さてと……、えへへへへへ、お兄ちゃん……そろそろ行こうか……」
部屋に入るなり妹がにこやかに笑いつつ俺を見る。
「えっと、行くって……あそこだよな……本当に行くの?」
「うん!や、く、そ、く、したよね、したよね?」
「はい……、しました、この後さっき言ったスライド上映があるから多分空いてると思うけど、行くとそれは見れないけど良いのか?」
「全然いいよ!!何より大事なイベントですから!!」
「イベントって……、わかった、約束だから仕方ない……じゃあ……準備するか……」
「わーーーい」
俺と妹はとりあえず着替え等を持ち、とある場所に行く。
「空いてるな……」
「空いてるね!」
「じゃあ入るか……」
俺は扉を開け、妹と入り鍵を閉めた。
扉にはこう書いてあった。
『貸し切り展望風呂』
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