31-1 秘密の旅行
「じゃあ、美月またな、叔母さんも、弥生さんもお世話になりました、今度は正月に来ます」
「今度はもっとゆっくりしておいで、ああ、でも年末進行が……」
「弥生さんも無理しないでよ、見た目ほど若く無いんだから」
「うるさいよ!!」
「あははははは、じゃあ美月も、あまり無理しないようにな」
「うん!お兄ちゃま、栞姉ちゃま、また今度ね」
「うん、美月ちゃん、今度はちゃんと勝つからね」
「美月も負けないよ!」
#####
そう言って俺達は安曇野を後に、一路東京に向かうべく長野駅に…………は行かずに……松本駅に来ていた。
「えへへへへへへへ、お兄ちゃん~~ついに始まっちゃたね~~」
「ああ、やってしまったな……」
そう俺達は横浜デートの前日に話していた、泊まり掛け旅行の約束、秘密の旅行計画を実行していた。
計画の始まりは母さんが、今年は8月の始めに夏休みが取れそうだ、という事を聞かされた所からだった。
そして母さんは3日間しか休みが取れなく、俺達は1週間いる予定になった。
そう今回始めから来れなかったが、実は来ても母さんだけ先に帰る予定だった。
そして、俺達は付き合い出した時に色々なデートコースを模索中とある場所を見つけ、そこへ行きたくなった。
しかし日帰りはさすがに無理だし、二人きりの外泊も色々問題がありそうと諦めていた。
だが、母の実家に行く事が決まった時にその思いが再燃、偶然にも安曇野からは非常に近い、ついでと言っても良いくらいの場所。
更に、いい加減にかけては定評のある母の言葉だ、1日くらいは誤魔化せるんじゃないかと思い二人で泊まりの旅行を計画する、案の定気がついたのは美月だけだった。
一応弥生さんも気がつくと思い言い訳を考えていた、「1週間と今週と勘違いじゃね?」と、火曜日から来ていたので1日誤差がでる。
そして母親の、いいかげんな性格、それも利用した。
「美月にバレかけたけど、言い訳通じたよ」
「お兄ちゃんと私だけの秘密…………えへへへへへへへ、この旅行でもっと一杯秘密を作ろうね、お兄ちゃん」
「いや、すでに秘密だらけだから……」
それより俺の理性は限界だって言ってるの……、これがあるから尚の事だった、本当にマジで耐えられるのか……ホテルで同じ部屋は石垣で経験済みだから何とかなりそうだけど、問題はこないだの件での約束なんだよな~ヤバイよな~~
「でも、美月に嘘を付いたのは、なんか心苦しいよ、結局俺は美月とあまり遊んでやれなかった、しゃべってやれなかった、美月、何か俺にもっと話したい事があった様な気がするんだよな~」
「う~~ん、そうだね~美月ちゃんって絶対に裏を見せたくない子だからねー」
「裏を?」
「うん、私に対して絶対に弱気は見せなかった……凄いよね」
「ああ……、そうだな……」
「でもお兄ちゃんには見せるんだよね~~弱気……、あーーあ、相変わらず凄いよねお兄ちゃんは……」
「は?凄いって俺が?」
「ううん、なんでもない、お兄ちゃんは美月ちゃんにデレデレだって事だよ、あ、お兄ちゃんバス行っちゃう早く行こう」
松本駅で荷物をコインロッカーに入れ、1泊分の最小限の荷物にしてからバスに乗る。
行き先はビーナスライン、なんかすげえ名前……雑誌でこの名前を見て興味が湧いた。
1時間以上バスに揺られ到着、でも外の景色が綺麗で時間はあっという間に過ぎたさすがビーナスライン、途中鹿らしき動物まで見れたし。
そして最初に行きたかった場所それは、『美○原高原美術館』到着するなり目の前にお台場のテレビ局のマークが目立つ建物があり、なんかいきなりちょっと微妙……、でも中に入ると、山の上の高原に点在する彫刻やオブジェに圧倒され、そのオブジェが動いたりしている。
その動くオブジェに興味を惹かれ近づくと、動力で動かしている物や、風の力で動かしている物、色々あって面白い。
作品名も一捻りあったり、そのままだったり、意味不明だったり、そこもまた面白く妹と盛り上がった。
花も綺麗に咲いており、高原とオブジェと花、何となくミスマッチで、そこがまた良い。
「……ねえお兄ちゃん、風が気持ちいい~~」
高原に佇むビーナスが一人目の前に…………、あ、俺の妹だった……
本日の妹は、Aラインの白いロングワンピース、花の付いた白いつば広帽子、三編みツインテール、風でワンピースの裾がひらめく姿は、天使かビーナスか……綺麗だな~~可愛いな~~うちの妹マジ天使、どうだ、ここまでハードル上げると誰も絵に出来ないだろう、作者も絵を若干書くけどハードルあげすぎて描けねえんだから。
「ん?どうしたのお兄ちゃん?」
「え、あ、いや、今日はロングなんだなって」
いつもミニなので逆に凄く新鮮、綺麗な足が見れないのは少し残念。
「高原仕様にしてみたんだけど……、似合わない?」
「いいや、もの凄く似合ってる」
「えへへへへ、ありがとう……」
妹が俺の腕に絡み付く
いつもは両腕でがっしり俺の腕をホールドしているが、今日は帽子が飛ばないように、片手で押さえつつなので、普通に腕を組んでいる。
そのまま高原に広がるカラフルなオブジェを次々に鑑賞する。
そして更に館内をさくっと鑑賞、まあ中は普通の美術館だったけどね。
2時間位で美術館を後に、そのままハイキングコースを歩く。
風が涼しい、雲が近い、この辺は結構標高が高そうだ。
20分程歩くとお土産やらが売っているドライブインの様な建物に到着
山本小屋という名前がついているが、小屋ではなく1階はよくある観光地のお土産屋とレストラン、2階はホテルになっている。
とりあえずそこで昼食、俺は蕎麦を頼み、妹はソフトクリームと牛乳……
「それ昼御飯?」
「だって食べたかったんだもん」
まあいいけどね……
蕎麦が出来たので取りに行き席に戻ると妹が俺にソフトクリームと牛乳を指差しながら言った。
「お、お兄ちゃん!!これ凄く美味しい!!」
「え?」
「牛乳濃い!!ソフトクリーム美味しい!!」
「本当に?」
なんの変哲もないお土産屋だよここ?
「飲んでみて……」
一口貰う、う、うまい……なんだこれ、生クリームとか入ってない?
「うまい!俺も買おうっと」
「ね、美味しい~~~」
そして、ここに荷物を預け更に散策に行く、実はこれから泊まるホテルは、ここからホテルのバスが迎えに来てくれる。
ちなみにマイカー規制の場所なので、観光バスも車も直接ホテルには行けない。
歩いては行けるのでここに荷物を預け歩いて行く事も可能
荷物はホテルまで運んでくれる。
山本小屋の先に歩いて行くと、山小屋風な建物が見える、どうもそれが山本小屋と言うらしい、先ほどのは山本小屋ふるさと館という名前との事。
更にその先を歩いて行くと牧場が見えてくる、山の上にも関わらず、広がる高原、北海道かと思わされる景色……これ……、これが見たかった。
牛がその広い高原に放牧され、のんびりすごしている。
「牛さんだーー、一杯いる~~おーーい」
妹が呼ぶと牛が何頭か寄ってくる、マジか……
付いてくる牛を見ながらしばらく歩くと本日泊まるホテルの全体像が見えてくる。
「あ、あれが今日泊まるホテルだよ」
俺がホテルを指差すと妹は少し驚きの表情になった。
「え?……あれなの?」
ネットで見て知っていたが、実際に見ると何か迫力を感じる。
なぜなら、そのホテルは山の上に建ち、周りには電波塔が何本もそびえ立っている。
遠くから見ると悪魔の城の様な佇まいに少し怖さを感じてしまう。
まあ、山の上といっても、小高い丘というイメージで登山という程ではないが、歩くと1時間弱かかるらしい、妹の格好だとちょっときついかも……
「どうする戻る?」
戻ればバスで行けるので、どうするか妹に聞くと
「うーーーん、何かわくわくする、悪魔のお城に向かう英雄みたいだよね?、お兄ちゃんが勇者で私は勇者と共に戦う魔法使いって感じ?、なんか格好いい……、異世界に来たみたい、行こう!勇者お兄ちゃん!!」
「また異世界かよ……、まあでも、そう思った方がテンション上がるな、よし!いざ魔王を倒しに!!」
俺達はそのホテル目指して歩き始めた。
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